永劫の魔力
クルスさんがそう告げたあと、庭には静寂が訪れた。俺も、体力と魔力の限界で眩暈がする。
どうやら、本気にしても限度があるようだ。全開戦闘によって、残存魔力は二割を切った。
もっと、しっかりと修行しないと駄目なのだろう。薄く笑みを浮かべて、俺はクルスさんを見上げた。
既に互いの剣は消え、俺の魔力も消えている。
晴天が照らす中、俺とクルスさんの荒い息だけが聞こえた。やがて、先に治ったのはクルスさんだった。
その足の血を見て、俺は申し訳無い気持ちになる。
回復系の魔法を何一つ保有していないのが悔やまれる。けれど、回復系の魔力適正を保有する人は極少数だという。
街で聞いても、王都であるにも関わらず三人しかいないらしい。しかも、その全員が城仕えの人なのだそうだ。
それでは、やはり会うのは無理だ、としか言い様が無い。ただ、回復系の魔法を扱う本すらないのは想定外だった。
あれば、使うことが出来るはずなのだ。俺の【複製】を以ってすれば。
「クルス、さん…………魔力、適正の、本って、あります、か?」
息切れしている俺がそう言うと、同じく荒い息のままクルスさんは頷いた。
そして、気付いたら傍に居た男性を見て頷くと、その男性は屋敷に入って行った。
それを見届けたクルスさんは、今度は俺に視線を向けた。
「まさか、五歳の子供に私が負けるとはな」
「クルスさんは、強すぎですよ」
「でも」「でも」
「「良い相手でした(だった)」」
同じ言葉を言った俺とクルスさんは顔を見合わせ、笑みを浮かべた。なんだか、少し照れくさい感じもするが我慢だ我慢。
ちなみに、無視されているカレンは不満そうな顔だがしょうがない。
そこへ、男性が帰って来た。仕事が速い。何よりも、この男性が優秀なのが目立つ。
その手には、分厚い本が握られており、なによりも魔力を感じる。クルスさんの
と、言ってもまあ感じるだけで確証は無い。勘かもしれない。
丁寧に渡された本を開くと、そこには魔力適正が大量に書き込まれていた。
「それは、クルーティア家に代々伝わる魔力適正目録だ。世界中の魔力適正が自動で刻まれる」
そう言ったクルスさんは、本を懐かしそうに見つめた。俺は、その中を一句一句慎重に読み進めていく。
歴史然の『適正魔術』が明確に記載され、尚且つ効果も記されていた。
(凄い……)
一体、この一冊に眠る価値はどれ程のものになるのか。そして、これを作るのに、どれ程の努力と失敗が積み重なってきたのだろうか。
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此の書を詠む者、
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懲戒だろうか、とても綺麗な字で綴られた分から始まり、その先には『適正魔術』が一つ一つ記されていた。
その効果も含めて、およそ半ページの半分で一つの『適正魔術』が紹介され、それが永遠と並んでいる。
――ように見えた。
(……?)
最初に感じたのは、小さな違和感だった。およそ全ての紹介文がキッチリ文字を詰められた状態で先ほどの量を書かれている。
それは、半ば流すように読み漁っていた瞬間、目に映ったのは明らかな文字不足。
その違和感の正体を確かめるべく、そのページを探していく。何ページか過ぎてしまったから、幾分か戻れば見つかるはずだ。
――『
(ッ!)
そこで見つけたのは、正しくその文字。誰でも無い、俺自身の『適正魔術』だった。
何が書いてあるのか――そんな好奇心と、何か不思議な気に取り付かれるように、俺は下の文をなぞるように読んでいった。
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(なッ……!)
正直、半分程度も頭の中に入って来ない。なにせ、矛盾点と突飛的な部分が多過ぎるのだから。
まず、記す事は許さん、とあるけれど、実際今この本に書かれているのは許されるのだろうか。スキルとして禁止されているから、そう説明しているのだろう。
けれど、客観的事実を見ればこの本にだって”記している”のだから、許されないのではないだろうか。
そして次に、神々への冒涜だったり、神へ逆らうだったり……だって、この『適正魔術』をくれるのは神だ。神への冒涜となる適正を神が与えるのは、こう……矛盾というか根本から矛盾を超えて意味不明だ。
それから、スキルという言葉使い。この本は『適正魔術』について記した本なはずで、スキルについては記されないはずだ。何よりも、ステータスに『適正魔術』として登録されているというのに、それを解説するのにスキルと言うのは可笑しい。
この説明は、初めから矛盾点が多過ぎるのだ。では、一体何故?
(……ま、わかる訳も無い、か……)
他人の考えが俺に理解出来る訳無いし、しかもそれが神なんていうあの女神様と同じような人たちの考えならなおさら分からない。
考えるだけ無駄だと思うし、それよりも時間が惜しい。
半ば想像はつくものの、好奇心には勝てずに俺はその文字を探す。唯一発動条件も効果もわからない、謎の『適正魔術』を。
(? ……無い)
自動で書き記されていくのであれば、その適正が生まれた順で並ぶと考えた。五十音順では無いのだから、それしか無いと思ったのだが……。
(無い、か……)
やはり無い。【複製】の隣を見て、タイムラグなどがあるのかも、と数ページ程近くまで見てみたが、それでも見つからない。
ならば、この適正は何なのか。
(わからないことが多過ぎるな……)
あれもこれもわからない。解決の糸口さえ見つからない。完全殺人を解こうとしているかのように、何も進展しない。
――ふと。
目に留まった文字は、またもや俺の理解を超えていた。
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永劫之魔力。遥古以、神々共在、全知全能司有力也。
一、不老
二、不死
三、不渇
四、不足
五、不理
七、永遠
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ぎりぎり、何となくだが読むことはできる。けれど、それが正しいかがわからない。なにせ、先ほどからルビが無ければ理解できない文字の使い方が多いのだ。
おそらく、文に使われている文字の基準は”意味合い”なのだろう。
こういう意味だから、何となく、そんな意味合いがあるから、それを基準として作られたように思う。
何となく、気にはなるがどうしようもない。読めないものは複製したところで意味がないのだ。
幸い、それ以上不明なものが出てくる訳でも無く、次第にその内容も気になることがなくなるほど、俺は読み続けていった。
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~後書き~
「くッ!右腕が疼く!(笑)」
ちょっと遊び心から厨二病を発症させて書いてみました。読み辛い、理解し辛いなどが御座いましたら申し訳ありません。
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