〝神の力〟
静寂。何の音も無い空間で、ただ俺は茫然と――いや、満身創痍で立ち尽くす。
「おにーちゃんッ!!」
「っ!…リュウ君!」
数秒、そう、本能による恐怖で動けなかった二人が動き出した。それと同時に、時間も動き出す。
(熱い……)
もう、意識は薄れかけていた。傷口は熱く、痛覚は完全に麻痺したのか何の衝動も起こさない。ただただ、熱さが募っていく。
体の奥底から、熱くなると同時に、胸の奥が涼しい。
「ごめん、リリナ……無茶し過ぎた、っぽいや……」
「――――!」
「!―――――!!」
小さく呟けば、熱は引いていった。それと同時に、途轍もない冷たさが返ってくる。寒くて、涼しい。
熱いのに、冷たいのだ。なぜかは、何となくわかる。
(……おやすみ)
――リリナ、キールさん、それから、カレン。
(泣いてるのが、見えてるよ……)
隙間から、最後に見えたカレンの顔。そこには、年相応の少女が映っていた。友人か、知人か、そのどちらかには成れたかな、なんて思う。
意識は、沈んでいった。
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「おにーちゃん!」
「リュウ君!」
二人の悲鳴が木霊する。それは、広い庭園のような開けた場所であっても変わりは無かった。悲痛で、悲しい叫び。
名を呼ばれた少年は、酷く傷ついた体で横たわっていた。
微かに宿る命。しかしその灯が今にも消えるだろうことは、誰の目にも明らかだった。
一人の、父親が言う。
「キール殿、彼は何をしたんだ?」
呼ばれた、キールという騎士は俯いたまま答えた。今この場で、その行動を咎める者はいなかった。誰もが圧倒されていて、誰もが思考を正常に戻せなかったから。
「行ったことは、簡単だと、思われます。自身の周囲に魔法を展開、標的を自身として撃ち、それから定めた四角形の中で凌ぎ切る。魔法技能があれば誰にでもできる鍛錬です」
「違う!違うんだ……そうじゃないだろう?先ほどの彼を見て、貴殿がその程度の答えしか持たぬはずがない」
何かの感情を押し込めた声。否定したい、否定してほしいという、本心からの声だった。けれど、現実は非情。
「ええ。彼は普通では無い。五歳という年で知識を身につけ、大人以上の路を見据えています。けれど、自身を理解していない」
客観的に見れば、賢すぎる少年。子供。しかし、こと戦闘に切り替わればそれは戦いでは無い。死闘、さながらキールが抱いたのは――
「
それは、辺境で数多くの村人を見て、会話し、交流を持ってきたキールの勘。経験から来る違和感が、拭えないのだ。
キールの答えを聞いて、男性は黙する。そして。
「ならb―――――――」
続く言葉は無かった。
それを疑問視する声も無かった。ただ唯一、その場に集まっていた全員が一点を見つめていた。
その先に横たわる、一人の少年へ。
―――『زخم بیش از مقدار پیش فرض را بررسی کنید. بازیابی.』
空中に、そう書いてあった。読める者はいない。しかし、効果は一瞬にして現れた。
「あ…」と、誰かがそう呟いた。それは、キールだったかもしれないし男性だったかもしれない。けれど、誰かがそれに気付くことも無いほどに、その光景は全てを圧倒し、魅了していた。
光が、少年を包み込んでいた。
一瞬の出来事のように、その光は次第に空中へと霧散していく。誰もがその神秘的な光景を見つめ続ける中、鬨の声が鳴った。
「おにーちゃん!」
瞬間、全ての視線が少女と、それに抱えられる少年へと向かった。そして――
「傷が……」
そう呟いたのは、キールだった。見れば、左腕は戻り、背中の傷もうせていた。驚くことに、破けた服さえもが元通りになっている。
それこそ、奇跡のように。
「…ぁ………ぅ……?」
『?!』
誰が聞いても、見ても理解するような光景。つい寸前までは血濡れた状態で倒れていた少年が、その体を起こしていくのだから。
「おにーちゃん!」
「リュウ君!」
本日何度目かの、二人の声が木霊した。
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~あとがき~
زخم بیش از مقدار پیش فرض را بررسی کنید. بازیابی.
訳 : 規定値以上の傷を確認。復元。
翻訳 : 傷口が規定値以上。回復。
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