王都#4 積み重なった努力





 宿屋で寝て翌日。

 俺とリリナは鍛錬の為に練習場に来ていた。そこでは、新人と思われる冒険者が訓練をしていた。


 見回した限り、革製の防具を着て、剣を素振りしている人が多い。逆に、練習場の端には魔法を放つ人が多く見える。

 そのほとんどが、未知の魔法、『適正魔術』なのだろう。


 俺とリリナはその端に向かって、向かい合った。そこでリリナは目を瞑り、手の平を前に出す。

 魔力を発動する際に集中するためには、こうすると良いからだ。


 そこに魔力が集まっていき、そして”炎電”の魔法が発動した。現れたのは火、雷は伴わない。

 現れた炎は俺よりは劣るが、それでも確かな魔力が込められている。


「できたよ!」


 嬉しそうにそう告げるリリナを見て、俺も嬉しくなるだ。このままいけば、もっともっと成長できる。

 それが、目の前にあるのだ。前世ではできず、現世でも失ってしまったものを、これ以上増やさないように。


 そこへ、少女がやってきた。今日ここに俺が呼んだ少女。貴族であり、ギルドに登録した日、男を倒していた少女。

 名前は知らない。


 ただ、その顔が今日は少しだけ驚愕していた。俺の顔を見てすぐに不機嫌になったが。


「二人とも。私の家に来なさい!」

「何故?」

「お父様が、貴方のことを話したら連れて来なさいって」


 いつもすぐ傍にいる騎士が今日はいないので、普通にため口。少女も問題が無いようで、そのまま返してきた。

 首をかしげる俺だが、別に問題は無いので頷いた。少女はすぐに来た道を歩き始める。急ぎ過ぎないほうがいいと思うけど、なんて思う。


 けれど、まあこの少女の親という事は貴族の当主だろう。そんな相手を長く待たせる訳にもいかない。

 俺とリリナも、その後に続く。


 少女の後ろを歩く中、俺は前を歩く少女へと話しかける。


「そういえば、君の名前は?」

「え?私の名前知らないの?」

「え?あ、うん」


 俺が頷くと、目を見開いて何度か俺の顔を見る。俺が、それを不思議そうに見ると、少女は溜息を吐いた。

 

(何故俺が溜息を吐かれるんだよ……)


 そんな愚痴を言う暇も無く、少女は答えてくれた。


「・・・・・・・・カレン、カレン・ルーティアよ」

「そっか。俺の名前はリュウ、リュウ・シルバー」

「リリナはリリナっ!」


 名前を名乗りあった所で、また歩き出した。カレンが行くのは、当然のように貴族街。区分として存在していて、大通りを王城寄りに進んで行くと入るのだ。

 道のりとしては面倒だが、此方の方が清潔そうな雰囲気があった。









  ◆◇◆◇◆◇◆










「此処がカレンの家?」

「そうよ!凄いでしょ!?」

「うん、凄い」


 確かに、カレンの家は豪邸であった。素直に凄いと、無意識に呟くくらいは。当然のように、カレンはドヤ顔。

 貴族街の一角を、大きく仕切った屋敷が目前には鎮座している。この大きさは、普通に不要だと思ってしまうのだが。


 囲うように高い壁があり、その周りを兵士だろう者が徘徊している。壁は当然の如く金属と異世界産の何かを配合させたような見た目で、パッと見王都の防壁よりも堅そう。


 なんだか普通にお嬢様の屋敷なんだが、カレンのイメージとは合わない。まあ、そんなことを言ってもどうしようもないのだが。


 門はカレンの顔パスで通れた。

 広大な庭が広がっており、その先にある少し開けた場所に数人の人が集まっているのが見えた。

 驚きなのは、その中に、キールさんの姿があること。


(第三騎士団って、辺境防衛じゃなかったっけ?)


 既に王都に帰還してから三日が経っている。詳しいことはわからないが、キールさん自らに何かがあったのだろうか。

 そんなキールさんは、俺を見て驚いたような顔をした。


「金の冒険者と聞いたけど、まさかリュウ殿だったとは」

「久しぶりです」


 見知った顔に、俺は少しだけ安堵した。それと同時に、貴族達の前でため口は危ないと判断して、敬語を使う。まあ、丁寧語の域はまったく出ない。

 キールさんも、俺のことを”殿”呼びしてきたのは驚きだった。


 流石に、こんな知らない大人ばかりの場所にリリナと二人は緊張する。隣のリリナを見れば、俺よりも後ろに隠れるようにして立っていた。

 若干怯え気味。


「おや、キール殿の知り合いでしたか?」

「ええ。以前話した少年ですよ」

「……ほう、では、かのアシュラス盗賊団を一人で討伐に追いやったというあの少年か?」

「その通りです」


 なんだか大人の間で会話が飛び交っているが、俺には分からない。というよりも、聞こえない。キールさんが円の中に戻り、俺たちはその外に佇むだけ。

 小さな声の会話は、素直に聞き取りづらい。


 まあ、別に知りたいわけでは無いから良いのだが。


 話が終わった頃合いを見て、俺はキールさんに話しかけた。


「じゃあ、早速前のを見せれば良いんですよね?」

「そうしてください」


 キールさんに聞くと、そう答えてくれる。なので、俺は前と同じように魔力を侵食していった。

 空間が少しだけぼやけるように見える。俺の魔力がさらに多くなり、一定空間に侵食して溶解しておける最大を越してしまっているからだ。







  ◆◇◆◇◆◇◆







 また、今回も”炎剣”で炎の剣を握った。燃え盛る業火が象った剣を両手で握ると、早速魔法を発動していく。


 侵食した空間の真下を〝絶空〟で風の刃を創り、切り裂く。それと同時に、円を描いていった。

 これが、危険線。これ以上入るのであれば、それは敵対物体と見做す。


(展開……発動)


 右から飛んでくる魔法を切り裂くと同時に後方にステップし、目前を通る魔法を切り裂く。

 切り裂いた先から魔法が飛来するが、それも返す剣で切り裂く。

 振り下ろした剣先を左に走らせると魔法に直撃して切った。



 右、右、左、上、後方、左、斜め__


「フッ!!」


 だんだんと魔法の速度と量を増していく。この訓練は、何時行っても疲れる。

 ただ、その運動が堪らなく楽しいのだが。こうして、自由に飛びまわるのは爽快だ。


 右に大きくステップを踏み、振り向きざまに魔法を切り裂く。今度も、前回と同じ技を使う。

 回転するように大きく切り裂いていく。剣の間合いを四角と見立てて、ステップを刻みながら、四つの角でそれぞれ剣を振るう。

 中央で、重心を傾けた状態から切り払うように剣を振るう。


「”天空破”」


 前回はこの辺りで終わらせたが、今回はまだ続ける。もう視界全てに魔法の弾が映るようになった。

 それでも、俺はまだ諦めない。


「”対処””適応””反撃””絶空””閃光”」


 五つの魔法を発動し、本気の状態になる。閃光の輝き、対処と適応のオーラ、反撃の威圧、絶空の威厳。

 その全てが今俺の元に集い、そして発動している。


「ハァッ!!」


――周りの音は消え失せていた。


 右、右左上後方斜め右左上、横左上後方後方、前、右__!!


 脳を焼き尽くす程の量、魔法が全方向から飛来し、それを判別、判断、対処を脳で命令していく。その過程プロセスが、どんどんと零れ落ちていく。

 全ての魔法に対して急所を打ち抜き、そして次の弾に移る。


 一瞬で一〇の魔法弾を切り裂くのは、かなり体力的に厳しい。


――しかし。


(止める理由には、ならない!)


 キールさんが見ている。あの夜、俺が告げた覚悟を。だからこそ、諦める訳にはいかない。


(ッ?!)


 ジリッ!と、脳が焼け切れるような痛みを引き起こした。処理速度が間に合っていない。脳がマヒしていく。

 しかし、鍛えられた五感と身体は、本能のままに動いていく。


(まだ!)


――ヒュン!


 反応が遅れた魔法が、俺の頬を掠めていった。寸前で気付いたために回避できたような結果だ。切り裂かれたような跡とともに、血が流れ落ちる。

 しかし。


(まだッ!)


 腕は振るわれる。次第に、音が消えていく。魔法が空気を切り裂く音。俺の息の音。剣が振るわれる音。土を踏みしめる音。

 だんだんと、音が遠ざかっていく。


(カハッ?!)


――背中に、魔法が直撃した。


 炎だったのが幸いして、背中は皮膚が焦げ、出欠は止められる。それと同時に、熱さによって酷い痛覚も機能しなくなる。

 立ち止まることは許されない。腕を休めた瞬間に、数十の魔法が被弾するだろう。


(”あ”あ”ッ!!)


 生きるために。








(これで、最後だッ!!)


 一瞬だけ剣を胸の前で構えて、俺は剣を振るった。


「”焔斬”!!」


 剣に業火が纏われ、そして回転斬りが発動する。大きく焔を撒き散らしながら回転を終わると、魔法の発動も止まる。

 荒い息で呼吸しながらも、俺はしっかりと立っていた。



――聴覚と痛覚、左腕を

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る