王都#2 散策






 初めての宿屋は、村の家とは少しだけ寝心地が違かった。

 それでも、リリナと俺は気持ち良く寝れて、目覚めも良かった。流石に、緊張が解けたとかあるのだろうか。


 そんな事を考えながら、俺とリリナは朝食を食べに街中を歩いていた。


「あ!おにーちゃん、あれたべてみたい!」

「ん?」


 リリナが指差したのは、何かを液体に漬けたようなモノ。ハッキリ言って、食べ物であるという確証すら怪しい何か。


(何でこんなゲテモノを好んで食べようとするんだろう・・・・・・)


 リリナに聞いても答えてくれるか分からないが、そんな事を思う。昨日もだが、以前からリリナは玄人好みのゲテモノばかりを選ぶ。

 チラリと横を見れば、興味津々といった感じのリリナ。


 ハァ、と諦めの溜息を吐いて、俺はその露店へと近付いた。


「すいません。それを2つください」


 瓶に似た何かに入れられたそのナニかを指差して、俺はそう言った。

 店主であろう男は、俺を見てニヤリと笑い――


「お、面白いガキが来たな?良いだろう。2つで銅貨4枚だ」


 ポケットから銀貨を出して、銅貨6枚を受け取る。

 それと同時にそのナニかも受け取った―――のだが。


「これは・・・・・・・・・・・・・・」


 思わず、食べるのを躊躇うレベルで凄まじい臭いがする。嫌いでも無いが、好きには到底なれない変な臭い。

 そんな俺を見て、リリナは笑みを浮かべて近付いてきて―――


「とりゃぁっ!」

「うわっ?!」


 手に持ったナニかに、かぶりついた。

 呆然とする俺を無視して、笑みを絶やさないまま噛み、飲み込む。


(え・・・・・・・・・・・・速過ぎない?)


 見届けてから、理解した。食べるの速過ぎるのではないだろうか。

 口に含んでから、僅か数秒ほどで飲み込んでしまった。


 大きさ的には、リリナの口じゃ一口では収まらないというのに。ははは・・・・・・・・と、思わず苦笑しながら、俺はリリナを伺った。

 ただ、リリナは笑みを崩さないのを見て、俺は理解する。


(うん。美味しいんだな、きっと)


 それ以上を考えるのは何かがダメになるような気がして、俺は考えるのを諦める。

 手に残されたもう片方のナニかを見つめて――


「む・・・・・・・・・・」


(あ、魚を焼いたのだ・・・・・・・・・・・・・・)


 ――そう思った。





















 さて、色々とあったが朝食の済んだ俺達は、そのまま街中へと歩いて行った。特にコレといって用事がある訳では無いので、観光だ。


「わ~!みてみておにーちゃん!これ、きしさんのけんだよ~」


 ふと、リリナの目に留まったのは露店に置いてあった一振りの剣。鉄で出来ている剣で、確かに騎士達と同じ製法の様だ。

 その粗悪さを除けば。


 っと、そんな事を考えていると、リリナの楽しそうな姿が視界に入る。


「おとと、とうりゃあぁ!」


 足りない力で何とか剣を持とうとしているが、ピクリとしか動かない。微笑ましい気持ちになるのを感じながら、俺はリリナに近付いた。


「ほら、他のお店も見に行こう?」

「ん?・・・・分かった!」


 剣と俺を交互に見比べた後、リリナは笑顔で頷いた。


(そこは悩まないでほしかったなぁ・・・・・・・・・・・・・)


 っと、そう思うがリリナも小さな子供だ。剣というものに憧れるのも当然だろう。

 前へと進んで行くリリナを追いかけるように、俺も歩き出す。


 その時だった。


「あら、昨日ぶりね」

「え?・・・・・・・・・・・ああ、昨日の」


 突然後ろから聞いたことのある声が聞こえ振り向くと、そこには昨日の少女が。少し驚いたように目を開いていることから、偶然なんだと思う。


 付き添いのように、背後に2人の騎士が佇んでいる。


「何してるの?」

「ん?・・・・・・・・・妹と買い物です」


 唐突な質問に素で答えてしまった途端、騎士から威圧が降りかかった。一度間を置いてから話すと、威圧は軽減される。

 この少女は、貴族だ。俺は平民。

 その事を、理解しないと駄目なのだろう。


「ふ~ん、そ。じゃあ、私も付いて行くわ」

「そうなん・・・・・・え?」

「なによ?私も付いて行くと言ったのよ、文句ある?」


 俺の返答に、呆れたような口調で少女が答えた。どうやら、本気で言っているようだ。

 バレないように、小さく目を動かして騎士を確認。


(き、気にしてない・・・・・・・・・・・・)


 驚くことに、騎士は何の問題も無いように、無言を貫いたままだった。表情も、数瞬前と何も変わらない。

 つまりこれは――


(か、確定・・・・・・・)


 なんだか満足気な少女を連れて、俺はリリナの後を追った。なんだろうか、嫌な予感がする。

 今日一日を思って、やる気の削げていく自分に気付いたのだった。

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