王都 宿探しの人命救助
王都に到着した俺とリリナは、王都の中を歩いていた。目指しているのはギルドと呼ばれる機関だ。
以前説明したとおり、そこで登録すれば、五歳でもお金を稼ぐことが出来る。
そうすれば、生き抜くことが出来るのだ。
リリナには俺の魔力適正を幾つかと、スキルも少しだけ付与してある。それは話してあるし、同意も貰っている。
リリナ自身、防衛手段を持たないと危険なのは理解しているのだ。親の無い、子供だけ。しかも、力も無い。
この世界は非情だ。前世のように警察など居ないし、簡単に強くなれる。だからこそ、自己防衛の力が必要。
暫く歩き、ギルドらしき場所に辿り着いた。木製の重厚な扉には、馬と弓が交差するように描かれている。
その下に、ギルドだという証明のような看板があったので、間違いない。
中に入ると、そこにはかなり静かな空間があった。
別に、呑んだ暮れがいないとかそんな話じゃない。
目前に一人の男が倒れており、そしてその男の前にいる女性。その女性の周りを囲むように男達が立っており、その顔は唖然としたものだ。
微妙な空間の中を、俺は素通りして歩いた。
なんだか嫌な予感があったし、それに早く登録したかったからだ。他人の命よりも、俺自身の幸せ。
そう決めたのはつい先日だ。
受付の女性も驚いたように見ていたが、俺が来た事で復帰した。俺の姿を捉えると、柔和な表情を浮かべ、優しく語り掛けてくる。
「どうしたの?」
「登録に来ました」
俺の発言に驚いたように、その女性は固まった。まあ、流石に五歳でギルドに登録しようとする人はほとんどいないだろう。
ギルドに登録する規定は無い。ギルドとは、”仕事を斡旋する仕組み”の呼称であって、それ以外の何でもない。
仕事を受けるかどうか選ぶのは本人で、それを良しとするかは依頼主だけ。
女性は、困ったように笑って答えた。
「駄目よ。だって、冒険者は危ない仕事だもの」
「知ってます。ですが、俺には戦う力がちゃんとあります」
力強く答えると、女性は少し真面目な顔で俺を見つめた。俺も、しっかりとその瞳を見つめ返した。
「なら、試験を受けてもらいます」
「試験?」
女性が言った試験という言葉に、俺は首を傾げた。女性は、そんな俺を置いて奥から一つの水晶を持って来た。
丁寧に布で包まれた水晶からは、僅かに魔力を感じる。
「この水晶に触れてください。もしも、それで金色に輝いたら良いでしょう、君を冒険者として金級の称号を与えます」
「・・・・・・・・・・・・・わかった」
そう答えて、俺は水晶に触れた。
――瞬間。
「へ?」
女性は俺が水晶に触れた、それだけで驚いた様子だったが、しかしそれよりも遥かに驚愕するべき事態が起きた。
水晶が、輝かしく金色に輝いているのだ。
それも、ギルド内を明るく照らすように爛々と。その光景に見蕩れていると、後ろから魔力の高まりを感じた。
俺が選んだのは、”対処”と”適応”そして”反撃”の三つだ。
一瞬で横に跳躍した。直後、俺のいた場所に雷が落下した。
それを避けた俺は、放った相手に突撃していた。
相手は、まさか避けて反撃してくるとは思っていなかったのだろう。まったく対応出来ずに俺に殴られる。
その腹へと拳が触れる瞬間、俺の手が輝き魔法が発動する。
「”魔力拳”」
そう俺が呟くと同時に、男は後ろに吹き飛んだ。壁に激突して倒れた男の腹は、大きく凹んでいる。
その出来事に、ギルド内はまたもや静まった。
そこへ、ギルドの二階から人が降りて来る。
赤い髪を伸ばした綺麗な女性だ。その瞳は、真っ直ぐ俺と先ほどの女性を見つめている。
驚くほどに透き通って、全てを見通すかのような――
(ッ?!)
ふと、俺は自分が探られているような感覚に陥った。見られているのでは無い。
視られている。
そして、女性の瞳が、大きく見開かれた。その視線を一心に浴びた俺は、1つの結論に至った。
此処に来ての御出ましか、なんて体よりも遅く機能する思考で考えつつ、俺は走る。
(まさかッ!)
「シッ!」
俺は、女性の懐に一瞬で詰め寄り、腹に一撃を与えた。背中を押さえたことで女性は吹き飛ぶことは無く、静かに気絶する。
俺は、そんな女性を見ながら複製を発動した。
【複製により、スキル”鑑定””鑑定妨害”を取得しました】
(やっぱり・・・・・・・・・)
予想は的中。想定していたよりも厳しい事態に直面した。
__________________________________
≪名前≫ リュウ・シルバー
≪LV≫ 12
≪魔力適正≫ 複製 神力 氷抵抗 炎電 保管庫 絶空 取得 炎剣 強奪 反撃 弱毒 閃光 付与 対処 適応
≪スキル≫ 魔法技能 暗算 成長促進 剣術 成長補正 自然魔力 舞技 鑑定
鑑定妨害
≪称号≫ 女神の心 神の代行者
___________________________________
どうやら、鑑定を妨害するためのスキルも取得できたみたいだ。でも、鑑定のスキルを取得したのが一番嬉しい。
これがあれば、魔力適正を複製するのがかなり楽になるからだ。
簡単な話で、鑑定を使えば妨害系のスキルを持っていない人のステータスが見れる。
そして、見ることさえ出来れば俺には複製することが出来るからだ。それに、鑑定妨害なんてスキルは持っている人を探すほうが大変な程少ない。
10人に1人いれば良い方じゃないだろうか。そんな訳で、このスキルの有用性は物凄く高いのだ。
ステータスを見られたことについては、手を打つ必要があるだろう。前世の、何もしなかった俺の頭では考えることの出来る未来は数少ないが、まず面倒なのは確定。
ならば、それをどれだけ軽減出来るかが問題だろう。
一方で、ギルド内は騒然としていた。
ヒソヒソと話される声から、目の前の人物がこのギルドのマスターなのだと知る。それと同時に、優秀な冒険者だとも。
(まあ、俺はそんなこと知ったこっちゃないんだけどね)
けれど、関係は無い。プライバシーの侵害、なんて言葉があるのか知らないが、正当防衛であるのは間違い無いはず。
現に、俺を咎めようとする者は一人も居ない。彼女が鑑定を頻繁に無断で発動するのは知れ渡っているのだろう。
という訳で、先ほどの女性の場所に戻って来た。そこでは、物凄い速さでカードを作成する女性が待っていた。
「あ!君、はい。これがギルドカードです。金色はほぼ全ての依頼を受けられるからね」
「ありがとうございます」
何処か焦ったような女性に俺はお礼を言ってから、リリナと一緒にギルドを出た。
『金色はほぼ全ての依頼を受けることができる』という言葉から推測するに、恐らく位の高いカードなのだろう。
今いち掴みづらい設定に困惑しつつも、俺はギルドカードを〝保管庫〟にしまう。
今日からは俺とリリナの二人だけなため、まずは宿を取る必要がある。そうしなくては、寝る場所が無い。
――と、その時だった。
そこへ、ギルドに入ったばかりの時にいた女性が走ってきた。どうやらかなり疲れているようだが、俺に用事ではないだろう。
俺はリリナを促して先に進み始めた。
「ま、待って!」
「はい?」
まあ、呼びかけられたのだから答えるのは普通だろう。よく見ると、女性というより、この人物は少女寄りの身長だ。
もしかして、そこまで俺と歳が変わらないのかも知れない。
息を荒くさせながらも俺のことを見上げる少女を見つめつつ、内心若干急がないとなぁ、なんて思ってしまう。
「貴方、さっきギルドで金のカード貰ったよね!」
「まあ」
「一体、どんな手品をしたらそうなるの?」
「手品?」
この少女が何を言いたいのかが分からない。手品というが、俺は何もしていないし、する気も無い。まず、貰ったから何なのかもわからない。
俺が首を傾げると、少女は頬を膨らませた。
「白々しいわね!赤の天才と呼ばれるこの私が聞いてるのよ!答えなさいよ!」
「?」
赤の天才とか言われても誰か知らないし。なんて、この目の前の短気そうな少女に言っても意味無いのだろう。経験則なんてものは存在しないけれど、何となくそう思う。
それに、何よりも何もしていないのだからしょうがないだろう。だが、少女には伝わらなかったようで、余計に怒りを増してしまったようだ。
「ああもう!!貴方みたいな子供が金級の冒険者な訳ないじゃない!!」
(……子供は違う。つまり、大人、それも『貴方みたいな』が俺を言うなら、”弱そう”だな。じゃあその逆で強い、大人……)
やっぱり、想像通りにこの金色のカードは凄いんだなぁ、なんて思う。まあ、目前の少女の手前、そんなことしたらついに殺されるかもしれないが。
つまり、あれだろう。自分が越せない目標を簡単に越せて嫉妬してる奴。
そこで、俺は昨日の鍛錬で騎士達が驚いていたのを思い出した。
「なら、3日後の朝・・・・・・・そうだな。ギルドの裏にあった練習場に来てよ。俺の鍛錬を見せるから」
「・・・・・・・まあ、それで許してあげるわ」
「そういうことで。じゃあね!」
少女が渋々といった様子で頷いたのを見て、俺は笑みを浮かべた。鍛錬を見せる=で何に変換されたのかはよくわからない。
けれど、どんな考えをしたのかはわからないけれど聞き分けの良さは分かった。案外、根は悪くない͡娘なのかもしれない。
別れを告げて、俺は歩き始めた。
(そういえば、宿って何処にあるんだろ?)
ギルドの前の通りを、リリナと一緒に歩きながら、今更になってそう思い出した。既に夕方であり、今からギルドに戻るのも大変そうだ。
(でも、宿の目印なんて知らないからなぁ・・・・・)
村にも小さな宿と呼べるかわからないような店はあるにはあったが、俺がそこへ行くこと自体少なかったし、覚えようとも思わなかった。別に、俺は無駄に器用で細かい所も覚えているような人間ではないのだ。
面倒なものは面倒だと切り捨てるのも当然だ。
っと、言い訳を自分の中でしながら、俺は近くの店を見て周った。
「色んな店があるね」
「うん!おーとはすごいー!」
満足そうにそう答えるリリナに、思い出す。そういえば、リリナはまだまだ子供だ。五歳の俺と、年下のリリナ。
それが、此処まで賢い人になっているのは、もしかしたらやはり俺が関係するのだろうか。
そんな事を考えながら、俺はリリナに答えた。
「そうだな。リリナは、夕飯何が食べたい?」
「う~んとね。じゃあ、リネのみがたべたい!」
「そっか。じゃあ、リネの店を探そう!」
「おー!」
元気な返事を聞きながら、俺は少しだけ背伸びをして周囲の店の品物を見た。リネの実というのは、日本でいう林檎のような果物だ。
瑞々しく、甘味も高いリネの実は、俺の村特産らしい。多くのリネの実を、毎年のように食べていた。
(まあ、その村も・・・・・・・・か)
暗い感情に思考が陥りそうになり、俺は慌てて意識を戻した。リリナが少し不思議そうに俺を見上げるので、笑いかけるとその視線も消えた。
(ふぅ。やっぱり、このままじゃ駄目だな・・・・・・・・・兄として、いつでも頼れる人でいないと)
そう考えて、俺は再び歩き出した。
――その数舜後だった。
「きゃああああああ!!!!!」
悲鳴が、俺のすぐ左に続く路地から聞こえてきた。いや、路地裏の方だろう。
悲鳴が聞こえたその瞬間から、俺の頭は冷水を浴びたように静かに判断していた。
(無視するのが自然で当然。でも、感情が許してくれないな・・・・・・・)
そう考えて、俺は隣にいるリリナを見た。頭では理解している。この少女を
〝助けられる命〟に、どうしようもなく呼応する。
悲鳴を聞いて、村の事を思い出したのか、僅かに顔の青いリリナは、俺を見上げていた。
まるで――「どうするの?」――とでも言うような表情だ。
「なあリリナ。兄ちゃん、またお人好しになっても良いか?」
「・・・・・・・・うん!リリナはだいじょーぶっ!」
「そっか・・・・・・・・・・・・」
リリナの満面の笑みを見て、俺は決心した。
嬉しそうにそう呟き、俺は立ち上がる。
「”絶空”」
そう呟いて、リリナの周囲に超強力な重力場を創った。この方法が、俺にとって一番安心出来る方法だ。
「じゃあ、ちょっと待っててな」
「うん!」
リリナの返事を後ろに聞きながら、俺は路地へと走り出した。子供の速度には限界があるが、それでも並の大人よりは速いだろう。
先程の悲鳴の位置を頭の中で計算しながら、俺は道を曲がった。
(コッチか・・・・・?でも、さっきの声なら・・・・・・)
二階建てだろうか。建物がずらりと路地に並び、まるで迷路のように入り組んだ道が広がっている。
そんな中、俺はなるべく気付かれないように進んでいた。
既に、魔力を融け込ませることで位置は割り出している。技術、〝検索〟。
目前に立つ建物、その更に奥にある二階建ての建物。その建物の一番右端の部屋のようだ。
1人の女性と、2人の男性の反応が俺には伝わって来ていた。
(潰す・・・・・・)
「”氷抵抗”」
有り余る魔力を存分に使って、俺は氷の道を空中に形成していった。下に基盤を作っていないこの道を維持するには、かなりの魔力量を必要とする。
それを、湯水の如く魔力をつぎ込むことで対応しているのだ。
目前の建物、その屋根の上を通り過ぎ、そのまま空中に身を躍らせた。目標の部屋の、その窓に向けて腕をクロスさせて、そのまま突撃。破壊。
パリン!!!!
ガラスの砕け散る音と共に、俺は部屋の中へと侵入した。それと同時に、視界の中に映ったのは、予想に反した二つの光景。
まずは、男は二人共同ではなく、片方は騎士であり、男の前で剣を構えていること。
もう片方の男は、片手サイズの短剣を構えている。
そして、もう一人は女性だ。いや、”少女”だろう。
「え・・・・・・・?」
「え?」
俺と、少女の声が沈黙の中で響いた。それと同時に、思考が再び動き始めたのか、少女は呟く。
「え、だって、貴方はさっき・・・・・・・・・・・」
「チッ!」
少女の言葉は、しかし男の舌打ちによって邪魔された。
騎士の男性は、驚愕したような瞳で俺を見ていたが、今は冷静に俺と男を視認しながら少女の前へと立つ。
どうやら、少女を守るために居るようだ。
(味方かな・・・・・・・・)
そう判断して、俺は男の方へと目を受けた。
黒いマントとローブに身が包まれている男は、しかし雰囲気から伝わってくる。
素人だ、と。
「めんどくせぇな。さっさとその女を寄越せっつってんだよォ!!」
荒々しくそう言いながら、男は短剣を振り回しながら突撃してきた。
下手だ―――誰もが、そう思っただろう。
――しかし。想像は現実と異なった。
「なッ!?」
キイィィン!!!
という高い金属音とともに、騎士の剣が折られた。勿論、男の短剣は無傷だ。
驚き、次いで恐怖に陥る男性を見て、男はニヤリと笑った。そして、短剣を男性の胸へと突き刺す。
――寸前で。
「させるかっ!」
そこへ俺が割って入り、男の短剣を弾いた。勿論、炎は使えないから、氷の剣で、だ。
”剣”と付いていない魔法だから効率は悪いが、それでも俺の魔力量を以ってすれば問題無い。
氷剣を胸の前で構えながら、俺は男を鋭く睨みつけた。男は、俺に少しだけ警戒するようにしながら、見下した。
瞬間。
(来た!)
俺目掛けて、狭い部屋の中でダッシュしてきた。間合いが詰まるのに掛かる時間はたった数秒すら無い。
だからこそ―――
「”絶空”」
「ガハッ!?」
―――逃げ場所も無い。ただ存在する”滅”の概念。
俺の魔法によって、内臓を潰された男は、そのまま前方へと倒れ込んだ。沈黙が舞い降り、次いで消えた。
俺が、そのまま窓へと跳躍し、空中に身を躍らせたからだ。
「あっ・・・・・・」――という声が僅かに耳に届いたが、気にすることも無い。そのまま、リリナの元へと走った。
(それにしても、あそこが宿か・・・・・・・)
先程の建物の看板を思い出して、俺はそう考えた。今回の件で命を救い、問題も解決したようだ。一石二鳥。
何やら嬉しそうなリリナと、安堵に身を包まれた俺は、夕日の照らす王都を歩いて行った。
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