王都へ#4 力の問い





――交差は一瞬。


 その一瞬のみの時間で、俺とキールさんは互いに背を向けるようにして停止した。

 

 沈黙。


 けれど、それは終わりを意味していて、遥かに簡単に途切れを迎えた。

 虚空、星空広がるその空間を、鋭い刃が飛来する。そのまま、大地目掛けて降り立ち。


――キィン!


 高い金属音を残して、静かに埋まった。

 それを皮切りにするかのように、閉ざされた時間が動き出す。ゆっくりと、キールさんが振り返り。


「参りました」


 そう告げる。

 勝ったのは、俺。


(ッ!はぁ・・・・・・・・・・)


 思わず、溜め込んだ空気を全て出し切ってしまう。それくらいに、緊迫した状況だった。苦笑いをするキールさんを視界に収めながら、きっと俺も苦笑いだと思う。

 決着の方法は、至って単純。


 右手に握られた”炎剣”を見下ろしながら、満足感を覚える。


「まさか、私ではなく剣を狙われるとは思いませんでしたよ」

「選択はあってたけど、キールさんの反応速度には驚いたよ」

「そういえば、殺さないルールなんですから、武器を破壊すれば勝ちですものね。まったく気付きませんでした」


――「まだまだ未熟ですね」なんて苦笑いで呟くキールさんに、俺も苦笑。

 さっきのは、上手く戦略が決まっただけ。二度目は無い。

 負けたのに、さっきよりもさらに強い意志を宿した瞳を見て、俺はそう確信できる。次は、今の俺では勝てない。


 そう、理解させられる何かがある。

 

 戦いの余興を味わいながらも、今度は笑顔で、俺は聞く。


「それで、質問とは?」

「そうでした、ね。ええ、私は、どうしても貴方に尋ねたいといけないことがあります」


 戦いの後の脱力感から一転。

 キールさんの空気に呑まれるように、俺の意識も鋭くなっていく。騎士としての独壇場。キールさんの間合い。

 

 俺は、キールさんの視線を真っ直ぐ返す。


「貴方の、その”力”の正体は何なのですか?子供にしては異常で、大人にしては未完成過ぎる。まるで、再現されたかのような動きです。何よりも、その思考力と手札の多さ。『適正魔術』では賄えない部分まである」


 怯えからくるのだろうか。

 その質問には、確かな畏怖が混じっていた。未知の存在へと踏み出すような、禁忌の道を踏むかのような。



――そういえば。今になって気付いたけど。



「俺の力、か・・・・・・・・・・・・・・いや、力なんて持ってないよ、俺は。」



――俺が、何かを成したことは一度も無い。



「ただ、怖かったんだ」



――失望の顔が。落胆の声が。陰口が。嫌味が。何よりも。



「守れない自分が、何も持てない俺が、嫌いだった」



――だから、では可笑しいだろう。俺は、だからこそ。



「守る力が欲しかった。護れる力が欲しかった。守護まもるための力が欲しかった。でも、俺には無理だった。いや、根本的な力の問題では解決できた」



――力は、今世なら有った。最強への種子を宿した力が。ただ。



「俺の意志じゃあ、覚悟じゃあ、無理だった。赤の他人のために、命を賭して戦う。そんな闘いが、俺には無理だった」



――子供の考えじゃない。


 キールはこの時、数瞬を経てその答えを見つけた。思考が、感情が、子供じゃない。それどころか、私すら越えた”何か”を持っている。

 そう理解したキールは、次いでその自身を越えた何かを求めるように、耳を傾ける。



「だから、俺は俺が幸せになるための力を求めた。俺が幸せになれる、夢みたいな残虐な力を。そして得た。俺が幸せになるために、必要なもの」



――それこそが。



守護まもりたい人だ。生きる意味だ。貪欲に、俺の守りたいと、護りたいと思えた人だけを守護る。そんな力」



――他人まで幸せにするのは、俺じゃあ絶対に無理。俺と、その近くの者を守りたい。


 その一心だけで、力を磨いてきたのかもしれない。俺自身、わからない。

 何のために、力を求めていたのか。けれど、今。

 キールさんによって問われた俺の力は、きっと、俺の望むように進化してくれるような気がする。


 俺が、俺を幸せにするために周りを守る力。



――さあ。答えた。だからこそ、深く思慮する騎士に、魅せてやろう。


――得た力を。追い求めた結果を。



「”炎剣””氷抵抗””炎電””弱毒”」


 小さく、呼ぶように告げる。

 炎が刀身を築きあげる。氷が透き通った多角形と成り浮遊する。

 炎が刀身から吹き荒れる。雷が空気中を迸るように伝播する。


 生み出した全てに、薄く緑の膜が覆われた。



――今はまだ、未熟だけれど。最大の応えを。


「これが、俺の力だ。キールさん」


 世界でたった一つの『適正魔術』。それを同時に四つ展開。さらに空中から。

 世界でたった一人の力。



 その力は今、芽吹かれようとしていた。















 翌日。

 今日の昼ごろには王都に到着するらしく、そのために鍛錬は無しだ。午後からたくさん動くのに、今から体力を潰すのは勿体無い。


 昨日の鍛錬、アレはかなり良い鍛錬になるようだ。魔力が大きく上昇し、体力も増えた。

 これからも、アレを日課として行うのが良いだろう。


 そう決めた俺は、馬の上で魔法の鍛錬をしていた。これは、ただ魔法と魔法を相殺させるだけで危険は無い。

 しかも、疲れることも無く、かなり良い――のかは検証中な――鍛錬だ。


 惜しむらくは、これで消費する魔力が微々たるものなことだ。しかし、今それを悔やんでも仕方無いだろう。

 俺は、キールさんを見上げて聞いた。


「キールさん。この騎士団の者の魔力適正を聞いても良いですか?」

「・・・・・・良いですよ」

「お願いします」


 そう、今日こそ魔力適正を聞きだそうと思ったのだ。そうしないと、このままでは機会が永遠に遠退く。

 俺は、かなり焦っていると言っても過言では無いだろう。


「では、この騎士団の魔力適正は私含め五つ。”絶空””閃光””付与””対処””適応”ですね。これ等は全て、魔法技能が無いために発動出来ない者達ですが。その他の者は、確認しておりません。『適正魔術』とは、守秘権利があるので」



【複製により、”閃光””付与””対処””適応”を取得しました】



 _____________________________________



 ≪名前≫ リュウ・シルバー


 ≪LV≫ 12


 ≪魔力適正≫ 複製 神力 氷抵抗 炎電 保管庫 絶空 取得 炎剣 強奪 反撃 弱毒 閃光 付与 対処 適応


 ≪スキル≫ 魔法技能 暗算 成長促進 剣術 成長補正 自然魔力 舞技


 ≪称号≫  女神の心 神の代行者


 _____________________________________




 そのステータスを見て、俺はある重大なことに気付いた。”付与”の効果は<対象に一部を切り渡す>というものだ。

 それで”魔法技能”を付与して俺が複製したら、魔法技能を与えられるのではないだろうか。


 そう考えた俺は、早速キールさんで試してみた。勿論、本人には言わない。

 まず、付与をしようして魔法技能を与える。そして、その魔法技能を複製でコピーする。



 結果は大成功だ。見事キールさんのスキルにも俺のスキルにも魔法技能が存在している。

 これは、かなり有効な手段となりそうだ。


「キールさん。おめでとうございます」


 それだけ伝えた俺は、魔法の鍛錬に戻った。

 いつかきっと、気付くときが来るだろう。



 と、前方に巨大な壁が見えてきた。

 

「見えて来ましたね。あれが、我等が守護するレビテント王国王都、<リバーナ>です。治めるは王に次いだ権力を持つ、赤の剛剣とまで呼ばれる『クルストフィア公爵』です」

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