王都へ#3 新たなる門出
翌日。
騎士の人達が慌しく出発の準備をする中、俺は魔法の鍛錬をしていた。
する事が無い上、最近魔力の最大値がかなり多くなって来たので、朝から使わないと減らないのだ。
そのため、今から魔力を使用して魔法を発動している。
”炎剣”を手で持ち、周囲の魔力から俺に向かって魔法を放つ。それを、炎剣で切り裂いていく。
これで、体力と魔力が使え、魔法を放つ鍛錬にもなる。ただ――
(ッ!難しいな・・・・・・・)
正直、集中力が擦り切れるようにも思える。神経をごりごり削る訓練だ。
けれど、これからもそうやって毎日試行錯誤しながら鍛錬すると思う。
右から飛んでくる氷弾を確認したまま、後ろに剣を振るう。そこにあった雷の弾が切り裂かれた時には、前方で氷の弾を切り裂いた後だ。
一瞬で四つ程度の魔法を切り裂いて行き、その場でステップを刻んでいく。
「フッ!」
右足に重心を置いて、右から左へと流すようにして回転した。その際に、空中で”炎剣”を上下に動かすことで魔法へと直撃させる。
一秒を一〇秒に。一〇秒を二〇秒に。
だんだんと魔法の威力と速度も上昇していく。フェイントや同時攻撃も仕掛け、その度に俺の体力は削れる。
今の状態は、魔法を制御するための意識は完全に切り離している。前世の俺が現実を直視しないように覚えた
荒い息になっているのを自覚しているが、それでも止まれない。
(止まるわけにはいかない・・・・・!!)
ココで止まるのは、実戦で引くのと同じ。それじゃあ訓練の意味が無い!
右、左、右、後ろ、上空、斜め、右、右、前、左、後ろ___!!
「クッ!」
捌く、捌く。
次々と襲い掛かる魔法の弾は、当たればかなり痛い。既に二発ほど喰らっており、その場所が動く度に痛む。
皮も少し剥けているかもしれない。頬を掠った部分から、温かい液体が滴る。
恐らく、血が流れているのだろう。
それでも、止まる理由にはならない。
右後方から迫ってくる魔法に対して、大きく後ろへと跳躍し――そうすると、背後、拳一つ分ほどの場所に魔法が襲来する――前方へと斬りかかる。
魔法を切り裂くように大きく前進し、振り向き様に刺突。
そのまま回転をするように大きく剣を振り回す。
場を大きく四角で見立て、その中を踊るようにして左右へと剣で切り裂いた。
ステップを踏むようにして移動し、四つの角でそれぞれ剣を振るい、最後に中央で振り下ろす。
「”天空破”!」
風圧と衝撃が周囲の魔法弾に当たり、弾いた。一瞬だけ出来た余裕に、俺は息を整えた。
その直後、魔法の強襲が再開する。鋭くそれを見据えながら、俺はまた剣を手で握り、真っ直ぐに構えた。
「ハァッ!!」
◆◇◆◇◆◇◆
鍛錬が終了すると、周りには騎士達が集まってきていた。そして、誰もが俺を見て唖然とし、次いで驚愕している。
その中で、リリナは嬉しそうに微笑んでいる。
「おにーちゃんはすごい!」
「ありがとう」
喋るのも疲れる程に動いたが、それでもお礼は伝えるべきだ。それに、喋るのも出来ないのなら出発も出来ない。
疲れ切った身体に鞭を打ち、俺は馬に向かって歩いた。
「では、出発!」
キールさんの声と共に、俺達は進み始めた。俺は、乗って直ぐに仮眠に入った。勿論馬に乗って、だ。
これでは、魔力適正を聞き出すのは無理だろう。そんな事を思いながら、意識は沈んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆
やはり、私の目に狂いは無かった。リュウ・シルバーという少年は、五歳という歳で既に自立している。
盗賊との戦いでも、かなりの量人を殺したのに顔色は変わらなかった。
そして今日、朝彼が見せた鍛錬は非常に高難易度なものだった。自身に魔法を放ちながら、それを魔法で切り裂くという鍛錬だ。
普通、これは自分の身可愛さに魔法の威力や弾速が遅い場合が多い。勿論、その普通というのは私達騎士程度では無い。
団長が、その鍛錬をしているのを見たことがあるだけだ。今見た光景の一段階下の訓練を。
少年の魔法は私でも致死傷を負う速さのものだった。そして、その速度の弾を全方位から防ぎきっていたのだ。その判断力と瞬発力、洞察力は凄まじいものだ。
何よりも魔法の種類すらも神々しい。魔法とは、その属性によって色が定まっている。少年が放っていた魔法の種類は――少なくとも三以上。
既に、この少年は騎士団よりも強いというのは私でなくても分かる。
なんとしても、この少年は手に入れるべきだ。
帰ったら、全騎士団長に必ず報告しなくてはいけない。
(それに――)
私は、その小さくて大き過ぎる矛盾を確かめるために、少年へと近付いていった。
◆◇◆◇◆◇◆
暫くしてから、俺は起きた。馬の上。辺り一面は平原といった場所で、特に見映えるものもない。
それとは別に、キールさんが俺の場所へと近付いてきていた。
「こんにちは、キールさん」
「こんにちは、リュウ君」
「どうしたんですか?」
「少し、世間話でもどうですか?」
これはまた珍しい、という程キールさんの事をしっている訳では無いが、俺の乗る馬を操縦してくださっている騎士の男性が驚いた表情をしているところから、恐らく珍しいのだろう。
前世で腐った人生を歩んでいた俺にとって、会話は好きだ。
「良いですよ」
「ありがとうございます。早速ですが、リュウ君は王都へ着いた後、どうする予定ですか?」
「そう、ですね・・・・・・・・・・」
予定としては、幾つか決めていることがある。
まず、『冒険者』になること。この世界に存在する、いわば萬屋に近い職業だ。『ギルド』または『冒険者組合』と呼ばれる場所で仕事を斡旋してもらい、それを達成し、報酬を貰う。
その仕事というのは、その街や、他のギルドなどから回ってきた市民などによる依頼式で、報酬も依頼主が決める。
今の俺が、働ける最善手として、それだけは達成する必要がある。
その次に、宿の確保、というのがあるが、それだけは現地に着かないとわからない。なにせ、宿など利用した経験がない。
王都で、調べながら探すのが一番だと思う。
そういった趣旨を伝えると、キールさんは少しだけ嬉しそうに笑った。
「そうですか、なら良かったです。それと、もう一つありますが――」
――「また後でお伺いします」
そう残して、キールさんは先頭に戻っていった。
一瞬だけ、圧があった。何かを押し殺すような、何か確かめるような、そして、何か怯えるような。
嵐のように軌跡を残した、キールさんの背中をただ呆然と見つめながら、俺は無意識に震えていたと悟った。
夜。深夜とも取れる時間に、俺は起きた。
そのまま、まるで知っているかのようにテントを出て、平原を進む。日中、良い速度で進んだ俺達は丘の先に森の見える平原で野営を行っていた。
夜虫の鳴く声が夜空に木霊していく。踏み潰した土の音が、撫でる草の音で消え失せる。そよそよと吹く風が、少し荒々しく頬を霞めていった。
「待っていました」
視線の先で、騎士の鎧を着たキールさんが立っていた。日中も装着しているが、寝る前には外す重い外装だ。
その事に疑問を抱きつつ、俺も返事をする。
「キールさんの、気配が此処に来たからね」
実は、キールさんのテントから俺のテントへの中心地が今立っている場所。寝る前に拡張していた気配察知の〝検索〟網が、キールさんの反応を捉えたのだ。
「それで、話とは?」
「はい、それですが―――」
――シュキィィン!
言葉では無く、行動で。
腰に帯剣された、丁寧に研がれた剣が抜刀された。キールさんの瞳は、何かを見極めようとしているかのように、鋭く。それに俺は――
「殺す以外を許可しましょう」
――あえて乗る。動揺は無い。何と無く、そう思っていたから。
キールさんには、キールさんの考えがあるのだろう。
俺には、それに応える・・・・・応えたいという想いがある。
「ありがとうございます」
言葉は、それだけ。
「”炎剣”」
声に出して呟く。宣言する。
『応える』と。
呼応するかのように、キールさんは鋭く剣を胸の前で構えた。居合と呼ばれる抜刀術は使わず、抜刀状態からの戦い。
――だから。
「?」
右手に召喚した剣を、左腰へと向けて納刀していく。その姿勢で、僅かに重心を前へと傾け――
「俺の戦いを魅せてやる」
ちょっとだけ、カッコつけてみよう。その気持ちを、持ってそう呟いてみる。俺なりの、”応え”。
後ろからの僅かな風に押されるようにして、加速する。
前世で、ただ唯一見ていたテレビ。バトルもので、当時はほとんど人気も無く、それが何処か俺のようで、ファンだった。
その中で、目立つことが嫌いだった主人公が、たった一つだけ、歴史に名を残す”業”を魅せた。
――弟子への、最高の応えのために!
「
間合いが消え失せるのは一瞬。
視線が鋭く交差するのも一瞬。
そして、俺の技も――
上段から、真っ直ぐ俺を切り伏せようと飛来するキールさんの剣。それに対して、俺は中段からの居合を放つ!
防御を考える余裕は無い。
ただ、ただこの一撃に全てを込めて、この壁を打ち倒さんがために持てうる限りの力を振り絞る。
――一瞬を、無限に。
「フゥッ!!」
「ッ!」
裂帛の声と共に、一撃が前方から放たれる。それとほぼ同時――いや、俺の方が遅く
(越えろ・・・・・・・・ッ!!)
――目の前の騎士を。
――己自身の限界を。
「ハアアァァッ!!」
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