進歩の自覚と――
「〝弱毒〟」
小さく、そう呟いた。【複製】によって手に入れた『適正魔術』。そのうちの一つである魔法が、この〝弱毒〟だ。
効果は、「三半規管への軽い麻酔効果を齎し、神経の毒となる」。発動後、少しの間はバランス感覚が崩れるという効果だ。
なぜ効果を知っているのか、というのは複製させてもらった相手が話している時に複製していたから、としか説明のしようが無い。
何でも、王都には〝鑑定〟という『適正魔術』を有する人が居るらしい。是非とも会ってみたいという欲を抑えて、俺はさらに移動する。
「〝炎弾〟」
村の中央、その周りを回るようにしながら、俺は各所でそう唱えた。
それによって浮遊する、炎の弾。何てことは無い。空中にとどめておき、起句によって設定した方向へ飛来するだけだ。
――村の中央へ。
丁度一周を終えた直後に、反対側から声が響く。
「敵襲だああああ!」
(待っていた!)
すぐさま行動に移す。
「〝発火〟〝発射〟」
二つの起動を合図する。
「うわあああああ?!」
「あちいぃぃぃッ!」
「おい、何か飛んでk―――」
立て続けに、四方から迫り来る炎と悲鳴に、盗賊達へと恐怖を与えこむ。
見事に、混乱に陥った盗賊達の動きは鈍い。統制もさらに利かなくなっているようだった。
その隙を逃さず、俺は騎士団の拘束を外した。こうゆう場合に”保管庫”はとても有効だ。
手錠事全てを収納することが出来る。
「戦って!」
その一言が、騎士団へと伝わった。
――それだけで、十分だった。
拘束道具が取れた騎士の男達は、すぐに剣と盾を拾った。驚愕している。突然の自体に、着いていけてない。
それでも、彼等は騎士だ。その誇りに掛けて、動揺を押し殺す。
防具も無く、服も着ていない。しかし、騎士としての誇りと技術はあるのだ。
その迫力はかなりのものだった。
騎士達は、大声で威圧しながら剣を手に突き進む。統制の取れた、本物の動き。
突然の出来事に、盗賊達は動揺し、次いで行動を移す。
――そんな暇もなく、呆気なく首を刈り取られた。
そんな光景が、あちこちで見えた。一気に形勢が引き分けた俺は、少しだけ安堵する。どうやら、上手くいったようだ。
しかし、まだ女性達が解放出来ていない。
ならば、此処で終了することなんて不可能だ。
俺は、一瞬で魔法を構築した。
「”氷の狙撃手”!」
母さんが最も得意としていた魔法だ。氷の弾丸を、超高速で相手に向けて発射する魔法。その速度は、およそ人の視界では捉えられない。
それだけで、盗賊の四人が死んだ。
高速で飛来した氷の礫は、その脳を正確に貫いたことによって、勢いの衰えが減ったからだ。
その攻撃に、騎士達は湧き、盗賊は動揺した。
そこを突いて、俺はさらに畳み掛ける。
「”雷と炎の巨腕”」
俺の背後に、雷を纏った腕と、炎を纏った腕の二つが現れた。その大きさは大人よりも大きく、そして放たれる魔力はかなりのものだ。
俺の残存魔力の三割を注ぎ込んで創造したのだから、働いてもらわないと報われない。
魔力を操作して、腕を無造作に振り回す。
その一振りで、数人の盗賊を殺していく。不思議と、不快感は無かった。
「少年に続け!騎士の誇りを見せ付けろ!」
一人の騎士が叫ぶと、周りの騎士も呼応したように叫び声を上げた。
そして、全体で盗賊に向けて突撃していく。
次々と起こることに混乱状態だった盗賊達は、その攻撃の波に飲み込まれていった。
その間、俺は村の中を走り回っていた。各家々に拉致された女性や子供達のために、ドアを破壊し、手錠やロープを回収する。
家の中に居たはずの男達も、居なくなっていた。
「・・・・け・・・て・・・・・・・・・・・けて・・・・・」
「こっちか!?」
その声を聞き、俺はその方角に駆け出した。まだ争いは続いた中だが、その戦火は広がっていた。
この村の中では無く、隣村への途中に防火壕があるのだ。
恐らく、そこにはさらに女性達がいるだろう。俺は、全力で地面を蹴った。
その頭の中では、女性達とリリナの安全を祈っている。
◆◇◆◇◆◇◆
全力で走った俺が到着したのは、一つの家の前だ。
此処の魔力を塗りつぶして分かったのは、この家の中には盗賊らしき者が一人しかいないことだ。
一人しかいないということは、それ程強いのか、それとも偶然か。
発せられる魔力から、恐らく後者だとは思われる。けれども、悩む暇は無く、俺は家の中に足を踏み入れた。
「まさか、俺の盗賊団を壊滅させた相手がこんな子供だとはな?」
「?!」
入った瞬間に聞こえた声に、俺は後ろに飛びずさった。鋭い視線で家の中を睨むと、そこから一人の男が出て来た。
そこまで筋肉が多いわけでは無いため、武術のみということは無いだろう。
警戒をしていると、男はフッと笑った。
「貴様、妙な術を使うな。まあ、良い。俺は貴様を殺す」
そう告げた男は、俺に向けて突進してきた。鹿と同等の速さで走ってくる男からは、殺気が漏れている。
――薄い。
野生の鹿の、命を掛けたあの殺気とは、比べ物にならないくらいに、薄い。
そして、その程度の速度なら対応が可能だ。
「”氷盾”・・・・からのッ”電斬”!!」
鹿の時と同じように雷で刃を創り、それで切りかかった。男の刃に合わせるように氷盾を置き、次いで雷の刃を横から動かす。
男は、氷盾に突進を防がれて動揺している。
「シッ!!」
「なっ!?」
下から切り上げると、男の左腕が宙を舞った。鮮血が溢れ出すのと同時に、俺は返す剣で男の首を切り裂いた。
その攻撃は抵抗も無く男の首を切り裂いた。
「えっ?」
その呆気なさに、驚いたのは俺だ。もしかしたら罠の可能性も考慮したが、幾ら待っても変化が無い。
つまり、あの男はあの喋り方で此処まで弱かったということか。
なんだか腑に落ちない気分を抱きながら、俺は家の中の部屋を回って行った。ほとんどの部屋にいた女性は意識が虚ろで、虚空を眺めていた。
もう、人間としては生きていないだろう。
そんな予感めいたことを抱きながら、それでも俺は解放していった。
――遅かった。
その事実に悔しい気持ちになるが、どうしようも無い。
最後の部屋に希望を託して入ると、そこには一人の少女が拘束されていた。
全裸ではあるが清潔で、此方を見て顔を赤くしているのを見ると、純情のままなのだろう。
そのことに安堵するが、何故こんな所にこんあ少女がいるのかが気になる。
そうやって少女を眺めていたのが悪かった。
「あ、あの!そんなに見ないでください!」
「え?あ、ああ、ごめんなさい!」
セクハラで訴えられたら勝ち目なんか無いのだ。素直に謝るに限る。
(最後まで、締まらないな)
苦笑とともに、俺はそう思った。ともかくとして、これで終わりだろう。
何よりもまずは、勝利への喜びを。
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