次へ向けて





 


 全裸のまま頬を赤く染める少女・・・・・・・このままだと普通に訴えられそうなので、俺はすぐさま拘束を外す。

 自由になった腕で体を縮こませ、少女は俺の方を睨んでいた。恥ずかしさと、感謝が入り混じって、どこか悔しそう。


 適当な服――成長したリリナのための大きめのワンピース――を”保管庫”から出して渡し、部屋を出た。


 玄関から出ると、盗賊との戦いは終結したのか、もう戦闘音は無かった。どこからか、穏やかな雰囲気が流れ始めると同時に、死んで逝った者達へと後悔と―――


(わからない・・・か・・・・・・・・・)


――最後まで、俺には理解できなかった感情が降り立っていた。


 全員で目を瞑り、冥福を祈る中、同調できない俺・・・・・・・。

 なんだか物凄く居た堪れない気持ちになり、俺はリリナの場所に走った。


 今度は、行きと比べ物にならない速度で、全力で走る。残存魔力も蚊帳の外。

 若干クラッとしたのは気のせいだと信じて、俺は森目掛けて走り抜けた。



 到着した時、そこにはリリナがしっかりといた。正直、襲われてないかの心配と、年齢からの無邪気さで迷子になっていないか不安だったので、物凄く安堵した。

 この場所で待たせるのは不安だったが、見つかれば確定アウトな村と、見つかっても可能性の残るこの場所で天秤に掛けると、こうするしか無かった。


 そんな内心を吹き飛ばすように、リリナは軟く微笑んで言った。


「おかぇーりっ!」

「ッ・・・・・・・・・・・。ああ、ただいまリリナ」


 そう言って、リリナを一瞬、抱きしめた。顔は見えないけれど、目を細めていそうだと思う。きっと、心から俺が嬉しいから。



 俺はまだ五歳の子供だ。でも、それでも何かをしようと思えば出来るということが分かった。今の力だけでも、戦える。


――前世で果たせなかったことが、果たせる。


 これからは、もっと鍛錬したほうが良いだろう。そして、何かを守れるようになりたい。

 何かを、自分から行える・・・・・・・そうなりたい。そうでありたいと思う。


――だから。


「よしっ!今日は寝るまで特訓だー!」

「おぉー!」


 淡く小さな勝利。人生の中で、これからの路で、幾度と無く降り注ぐ困難を打ち返す戦いの前兆。

 そう称せば、なんだか力になる気がしてきた。





 ◇◆◇◆◇◆◇





 さて、特訓の内容だが、実はそれについてはさっき思いついた方法が在る。

 まず、自然魔力の近辺一帯を俺の魔力で塗りつぶす。残存魔力はそこまで多くないので、ある程度は加減して。


 その状態で、拡散した魔力から魔法を放出するのだ。常時魔力を使用するため、相当な魔力の鍛錬になる。

 イメージを簡単にすれば、空中にある自分の血液から魔法を放つ。これを行えば、さらに魔力量と制御力が高くなるはずだ。


(キツイ・・・・・・・・!)


 空中に、自身の一部があると想像する時点で脳が処理落ちしてしまう。それくらい、想像するのが難しい。

 その上で、さらに目標点は『適正魔術』の発動。更なる想像力を要する業だ。


「〝魔力弾〟・・・・・・・・・・・・!」


 小さく呟き、想像するが――


「ぉわっ?!」


 見事に反転して俺の方へと飛来してきた。それも弾なんかじゃなく、魔力を適当に集めただけのようなナニか。




 このまま、暫くはこの鍛錬をすることにした。その方が良いし、何よりもすることが無いからだ。

 リリナは、そんな俺の姿を見て微笑んでいる、というよりかは眠そうだ。きっと、ずっと同じ場所で同じ光景を見せられているからだと思う。


 何かしてやりたいとは思うけれど、実際問題することが無い。今村に行くのは微妙そうだから、夕方に行くつもり。

 それまでは結局、此処で鍛錬だと思う。







  ◆◇◆◇◆◇◆









 翌日、昨日は村の家で寝たため、此処は村の中。そして、俺は今村の広場に来ていた。

 騎士団の人から、来てほしいと頼まれたからだ。それも深夜に。

 正直声を大にして叫びたかった。「寝させろ!」って。


 けれどまあ、それを騎士団の人も理解しているのか大変申し訳無さそうな顔で言われたので、断るのも帰ってもらうのも出来ずに結局こうなる。




 広場に辿り着くと、そこには立派に着込んだ騎士達が並んでいた。

 その姿は、王を待つ臣下のようにも思える。

 剣を胸の前で、上を向けて持ち、全員が俺の行く道の隣を並んで整列し、王を歓迎するかのような体制。


 その先には、戦いの時に指揮をしていた男性がいた。どこか困ったような顔で俺を見ているので、多分そこまで来てほしいのだろう。


 そこに向けて、俺は歩き出した。五歳の子供に対して過剰過ぎる気がするが、まあそこは騎士としての誇りがあるんだと思う。多分。


「先日ぶりですね。俺はリュウ・シルバーです」

「ご丁寧にありがとうございます。私は王都防衛第三騎士団副団長のキール・クリアです」


 先日ぶりとは言うけれど、直接は会っていない。戦いの最中、声を挙げて鼓舞しているのを一方的に見ているだけだ。

 俺の姿を見た騎士が、報告したりしたんだと思う。


 そしてキールさん、随分と長い肩書きがあるみたい。しかし、何故王都の防衛を任されている騎士団が辺境に来たのだろう。

 そう思っていたのが顔に出たのか、キールさんが答えてくれた。


「実は、国王による使命で、第三騎士団は辺境駐屯任務に移行中なんですよ」

「?」

「説明しますか?」

「お願いします」


 キールさんの説明を要約すれば、以下の通り。


 まず、通常の騎士というのは王都を中心とした四方に散る都市で防衛を行う兵士の事。階級的には、兵士のかなり上で、王都で数年間も鍛えられてからようやくなれるらしい。


 そんな騎士達だが、最近盗賊や魔物などが辺境の村々に被害を及ぼしていると意見があった。そこで、馬の扱いに長けている騎士を中心とした団を結成し、それを向かわせたという。

 それこそが、キールさん率いる第三騎士団とのこと。



 確かに、騎士団を辺境に駐屯させておくのは良い案だ。魔物の被害に怯えている村は多いだろうし、正直兵士には当たり外れが大きい。

 まったく仕事をしないのに金だけ貰っていき、あまつさえ威張るような奴も居る―ーらしい。


 それに比べて、騎士団というのは騎士団長を中心に精神まで徹底的に鍛え直されている者が多いらしく、しっかりと仕事をしてくれる。

 それに、俺にとってもかなり有用になる。


 まずは、魔力適正を頂かなくてはな。


「失礼ですが、本日はどのような御用で?」


 敬語はやっぱり慣れないなぁ、なんて思う。まず、前世で僅かばかり習っただけなので、丁寧語の域をまったく出ない。っていうか無理。

 あんな敬う言葉をホイホイ出せる人種にはなれない。絶対に。


「そうでしたね。・・・・・・騎士団総員よりお伝えします。今回は、助太刀頂き、真にありがとうございましたっ!貴公の活躍無くして、我等が勝つことは厳しいと判断せざる終えませんでした」


 これまでとは違い、凛と響く声でそう言った。

 基本、騎士とは見聞と見栄が重要な職業だ。負けは許さず、失敗も許さない。全てに於いて勝利と成功を修める国の代表となる人達だそうだ。

 だからこそ、今回のような失態は許されないらしい。


 キールさんの言葉に続くように、騎士達もお礼の言葉を口にした。

 俺はといえば、驚きですこし固まっていた。まさか、そんなにお礼を言われるとは思っていなかった。それに――


(お礼を言われるなんて、何年振りだろうな)


 前世では勿論、今世でさえ、未だにほとんどいわれたことが無い。唯一、家族を除いては。


 嬉しい。そして、何よりも胸の奥が温かかった。


(こんな気分も、良いかもしれないな)


 そう思う。そんな俺の顔を見て、キールさんは少しだけ頬を緩めた。

 次いで、事務的な顔で。


「そのお礼とまでは行きませんが、何か頼みはありますか?」


 そう言った。

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