スタンバイ




 村にはすぐに到着した。魔力の消費は少なく、全体では本当に微々たるものだ。

 この調子なら、少しの間なら全力で戦えるだろう。

 魔法の全開戦闘なんて、勿論したことが無い。疲労や魔力残量に気をつけないとダメだろう。


 俺は、俺の戦場を創るために魔力を塗りつぶしていった。自然魔力を用いて、俺の魔力を空気中に侵食させていく。

 その範囲は、村全てを覆うほどだ。


 その中で、俺はを使う。今まで使う機会が無かったために未完成だが、けれど成功すれば間違いなく強力になる〝魔法〟。

 俺だけのオリジナル魔術だ。


(イメージは波紋と電波・・・・・感じるは魔力の源。求むるは魔術)


「”検索”」


 魔力を一定周期で波のように飛ばし、生物のみに反射させて受け取る。それを処理するために考えたのが、【複製】の兼用。

 複製によって反射した魔力の波を脳内に直接コピーする!その時、一枚の紙にさらに細かく書き写すような感覚で・・・・・・・・・・・。


(よし)


 視えた。

 村の中央に盗賊達は集まり、女子供と思われる反応は村の各所家の中から感じ取れた。そして、どの家にも男が二人ずつ。

 その他にも、所々に盗賊達は散っている。状況的には大幅に不利。経験も向こうが圧倒している。


――けれど、俺にしか無いものだってある。


(地の利を操れば、行けるかもしれないな・・・・・・・・・)


 頭の中に映し出された地図を見て、俺はそう呟く。まずは、速攻で準備からだ。

 この戦いに於いて、捕まっている騎士団の人たちは不可欠になる。








  ◆◇◆◇◆◇◆








 魔力で村を覆い終わると同時に、俺は村の中に駆け出した。十字架に張り付けられていた村人は、既に死んでいるようだ。

 盗賊、という職種の者達に欠けているのは、協調性の無さ。一定周期の探索もできず、自身の持ち場すらまともに見ない。


 だからこそ、俺はその隙を通る。寝惚けたような顔の奴の後ろを慎重に移動しながら、定期的に〝検索〟を発動させる。

 盗賊達の位置を確認しながら、ゆっくりと村の中央へと近付く。家々の壁やら、井戸の脇なんかで隠れて、様子を見る。


「―――」

「―――――」


 少し離れた場所で、二人の男達が何かを話しているのが見えた。内容は聞き取れないが、随分と舐めたように警戒をしていない。

 〝検索〟でも、近くには他の盗賊が居ない。


(よし・・・・・・・・・・・・・・・〝粒子〟)


 【炎電】の炎だけを抽出し、男の片方、俺に向けて背を向けている奴の背中へともぐりこませる。

 中々に集中力は使うが、それでも成功させないといけない。


(・・・・・・・・・・・・・!・・・・・・・成功)


 一瞬、男が動いて危なかったが、ぎりぎり間に合った。小さな空気でもその抵抗を強く受け、尚且つ炎の威力は高い。

 慎重に扱わないと、すぐにアウトだ。


(もういっちょ・・・・・・・・・)


 同じ要領で、もう一方の男にも潜り込ませる。こちらは何のアクシデントも無く、成功と呼べる結果になった。

 代わりに、残存魔力が七割を切った。鍛錬の時に知ったことだが、残存魔力の量によって多少なりとも体調に変化が出る。


 子供である俺は特に強く、今の状態でも既に強い倦怠感が出てしまった。


――だからこそ。


(ここからが、勝負!)


 そう自分に言い聞かせて、俺はもう一度動き出した。

 

 音の心配はあるが、必要なことだと割り切って、俺は村の家の中へと小さな石を投げ込む。

 窓なんてあって無いようなものだから、問題も無く中へと入って行った。


 実はこの石に、小さな細工をしておいた。


 母さんが得意としていた魔法の一つ。


(〝氷の種子〟)


 と呼ばれる使だ。主に”付与”に近い効果を持った魔法であり、何かに付与して扱う。

 発動させた後に起句を唱えると、そこから全長三〇センチ程の氷の花が咲くのだ。


 花の種類はランダムだが、その見た目は美しく、それでいて融け難いため、人気らしい。母さんも、これを使って花を育てる雰囲気を味わっていた。


 家の中に侵入したその石が成功することを祈って、俺は移動を始める。

 これで大まかな準備は整った。残るは、最後の実行する部分だけだ。


(絶対に助けるからな)


 聞こえるはずの無い言葉を呟きながら、確かな決意を胸に秘めた。それは、覚悟に足りるものだと思う。

 これから俺は――




――人を殺すのだから。

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