翌日、学校で(後編)

「フッ。

 ではは忙しいので、これで失礼する」


 剣を素早く振るい、鞘に収めるような動きで実体化を解く、偽物の黒騎君。

 けれど、その声は妙に高いものでした。


「待ちなさい、お兄ちゃんの偽物!」

「ゼスティアちゃん!?」


 と、ゼスティアちゃんが剣と盾を実体化させて偽物の黒騎君に迫ります。

 そして偽物の黒騎君に斬りかかろうとし――


「待つんだ!」


 それを、黒騎君が止めた。


「お、お兄ちゃん?」

「いい子だ、ゼスティア。

 だから待つんだ。


 話がある。“僕の偽物さん”に」


「うん、わかった……お兄ちゃん」


 ゼスティアちゃんが渋々ながら剣と盾の実体化を解き、一歩下がる。

 それを見た黒騎君は、一歩前へと踏み出した。


「さて、初めまして。

 あんまりこういうのは言いたくないけれど……僕が“本物の”姫魚黒騎だ。“偽物”さん」

「初めまして、“本物”さん」


 一見和やかな、けれど二人の間に漂う殺気。

 私達は固唾を飲んで、成り行きを見守る事にしました。


「さて、用件を告げよう。


 ……僕と決闘してくれ、“偽物”さん(さて、これで本名を名乗ってくれるかな?)」


「引き受けたよ、“本物”さん」

「……えっ!?」

「お兄ちゃん!?」


 私とゼスティアちゃんは、揃って驚愕します。

 ……まさか決闘だなんて!


「それじゃ、始めるか」

「ああ」


 本物と偽物、二人の姫魚黒騎が対峙する。

 互いに剣を実体化させ抜き……あれ?


 どうして、“本物”の黒騎君は盾を実体化しないのでしょうか?


「舐めているのかい、“本物”さん?」

「まさか、“偽物”さん。

 こっちがしっくりくるだけだよ」


 互いに剣礼をし、決闘の合図に変える。

 ――この瞬間、正式な決闘が始まった。


     *


「……」

「……」


 “本物”と“偽物”の姫魚黒騎は、互いに大剣を構えたまま動かない。

 濃密な殺気が漂い、二人の気を極限まで張らせていた。


 そのまま、しばらく時間が経つ。


 やがて、二人は仕掛けた。


「はぁっ!」

「やあっ!」


 

 霊力を纏った大剣が二振り、ギィンという甲高い金属音を響かせる。


「シッ!」

「!?」


 と、“本物”の黒騎が仕掛けた。

 “偽物”の黒騎が持つ盾を、足で踏みつけて固定したのだ。


「ぐっ……!」


 なまじふちが鋭いだけに、地面に容易く刺さってしまう。

 “偽物”の黒騎は必死にもがくも、がっちりと踏みつけられていた。大剣も、刃が火花を散らす程に強く押し込みあっていては動かせない。


「どれ、お顔を拝見……ん?」


 “本物”の黒騎は、偽物の正体を暴こうとし――違和感を覚えた。


『君には喉仏が無いんだね。

 それに胸も、よく見ると膨らんでる。多分だけど、サラシでも巻いてるのかな?』

『ッ……大きなお世話だ!

 決闘を侮辱する気か、“学園最強”!?』

『いや、ちゃんと戦ってるよ?

 、ね』


 “本物”は“偽物”と精神会話し、正体を暴き始める。


『けど、キッチリ確かめないとね』

『な、何をするつもり!?』

『えい!』


 と、“本物”は“偽物”の


『ひゃぁぁっ!?

 あ、貴方……!』

『素が出たね、“偽物”さん。

 やっぱり君はだった。

 がっちりサラシ巻いてたけど、たっぷり脂肪が詰まった胸だったよ、うん』

「こ、こここここここ、このぉおおおおおおおおおッ!!!」

「おっと!」


 “本物”は素早く後ろに跳び、“偽物”との距離を置く。

 その直後、“偽物”が盾を引き抜いた。


「っ、はぁっ、はぁっ……!

 くっ、こんなもの!」


 と、“偽物”は引き抜いた盾を放り捨てる。

 僅かな間を置いて、盾が霊力に還元される。


「私が……私こそが、本物の姫魚黒騎よ!


 それを証明する為に、貴方と同じ条件で戦ってあげるわ!」

「それでこそ、決闘だよ。“偽物”さん」

「うるさいっ!」


 “偽物”は大剣を構え、“本物”へと迫る。


「フゥ」


 それを見た“本物”は、左手一本で大剣を持った。


『舐めてるの……?』


 “偽物”が非難と問いを投げかける。

 が、“本物”は答えず、“偽物”へと迫った。


「はぁっ!」

「やぁっ!」


 再び、甲高い金属音が響く。

 だが、二人の表情には差があった。


「……」

「ぐぅ……っ!(どうして!? こちらは両手なのに!)」


 “本物”が“偽物”を、片腕でねじ伏せようとしていたのだ。


「終わりだよ!」


 そして“本物”は、“偽物”の首筋に手刀を突き付け――たように見せかけ、“偽物”の。美しい銀髪が姿を現す。

 更に風圧で、朱色のリボンが二本舞った。


 もちろん隙へのセルフフォローは忘れない。

 膝蹴りを腹部に、寸止めで見舞っている。


 誰が見ても、勝敗は明らかであった。


「そこまで!

 この決闘、“本物”の姫魚黒騎の勝利とする!」


 決闘に終止符を打ったのは、駆川であった。


     *


「ほら、これ」


 大剣を霊力に還元した“本物”の黒騎は、“偽物”に朱色のリボンを手渡した。


「っ……。

 ありがとう、ございます……」


 “偽物”は、俯きながら“本物”にお礼を言う。


「さて、そろそろ本名を聞かせてほしい。“偽物”さん」

「うぅっ……。わ、わたくしは……。


 わたくしは、リリア・ハーゲン・インペリアルと申します……」


 涙目になる、“偽物”ことリリア。


「よく、話してくれたね」


 しかし黒騎は、リリアを優しく抱きしめる。

 今だけは、全ての下心を捨てて。


「僕になり切った気持ちは、どうだい?」

「うっ、うぅっ……うわぁあああああん!」


 リリアは堰を切ったように、涙を流し始めた。


     *


「“インペリアル”……」

「どうしたの、ゼスティアちゃん?」

「いえ、何でもありません。理園先生」


 ゼスティアはリリアの名前を聞いて、曇った表情を浮かべていた……。



作者からの追伸


 有原です。


 黒騎君の偽物を無事、撃退しました。

 この後は、黒騎君にまとわりつく予定です。つまりハーレムが結成され始めます。


 さて、偽物ことリリア・ハーゲン・インペリアルのプロフィールを追加します。


     ***


 リリア・ハーゲン・インペリアル


 ヒロインその3。高等部2年生。銀髪を朱色のリボンで束ね、ツインテールにしている。巨乳(Hcup)。

 黒騎の事が大好き過ぎて(誤解の内容に記載すると、“学園最強”に憧れて)、偽物になった。

 擬人化の元となった機体は「リナリア・シュヴァルツリッター(ハーゲンモデル)」。


     ***


 こんな感じです。

 ちなみに、サクッとバラすと、「彼女は黒騎君にオチた」というものですね。あんな包容力を見せられたら大抵オチるだろ。


 では、今回はここまで!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鋼鉄人形学園 有原ハリアー @BlackKnight

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ