翌日、学校で(前編)

「失礼します」


 皆様、おはようございます。

 今日も早速、大ピンチでございます……!


「座りたまえ」

「は、はい……」


 何故かと言うと、そう。

 私は幹部格の先生から、呼び出しを受けてしまったのです!


「さて、君を呼び出したのは他でもない」

「はい」

「君が姫魚黒騎君と一緒に帰ったという事だ」


 ……あれ?

 思っていたのと違います。

 てっきり、昨夜の喧嘩の事かと思っていたんですけど……。


「聞いているのか?」

「は、はい!」


 とはいえ、まだピンチは終わらないようです。


「ならばよろしい。

 さて、話の続きだが……。万一この件が外部に漏れたら、どうなると思う?」

「そ、それは……」


 考えるまでもありません。

 この“鋼鉄人形学園”の名誉が地に落ちます。


「言うに言えないといった様子だな。

 では、私が――」

「「「失礼しますッッッ!!!」」」


 突如、大音声だいおんじょうが響きました。ぎょっとする幹部格の先生方。


「りーちゃん、こんな所にいたのか!」

「えっ……!?」


 けれどその声には、聞き覚えがありました。黒騎君です。


「ちょっと姫魚君、今は……」

「待て。私が呼んだ」


 そう言って幹部格の先生の一人を制したのは、“ガルム”――我らが“鋼鉄人形学園”の学園長――でした。


「処断の有無は彼の意見を聞いてからでも遅くはないだろう?」

「え、ええ……ガルム」


 ガルムと幹部格の先生は、一斉に黒騎君を見つめます。


「では問おう、姫魚黒騎君。

 君はどうして、駆川理園先生と一緒に帰ったのかな?」


 圧し潰されそうな視線に、雰囲気に、しかし黒騎君は平然としていました。


「そんなもの、決まってますよ。


 ねっ、りーちゃん❤」

「えっ!?(り、りーちゃんって……。黒騎君、恥ずかしいよぉ!)」

「「何と!?」」


 と、黒騎君は私に抱きついてきました。

 さりげなく、腕を私の胸に押し当てながら。


「この際ですから話しますけど、僕はりーちゃんと幼馴染だったんです。年はちょっと離れてますけどね。

 よくお世話になったなぁ、駄菓子買ってもらったり、一緒に遊んでくれたり……。ね、りーちゃん?❤」

「えっ、えっ?(何、どういう事!?)」


 突然の豹変ぶりに、私はもちろん、“ガルム”や先生方も戸惑っています。


『先生、ごめん。

 けど、今だけは合わせて』


 と、黒騎君から精神会話が届きました。

 昨夜話しかけたように。


『う、うん……!』


 私は同じく精神会話で返事をすると、黒騎君は更に甘えてきました。

 チラリと“ガルム”や先生方に視線を向けると、やっぱりと言うか何と言うか、ドン引きしていました。


「りーちゃんに久々に会えたのが嬉しくて嬉しくて、つい一緒に帰ろうって言ったんだ❤ ねっ、りーちゃん❤」

「う、うん……❤」

「もういい、よくわかった。

 ただの昔馴染みの再会というだけだ、口を挟む道理は無い。二人とも下がって良し」


 見るに見かねたのでしょうか、“ガルム”は私達を解放してくださいました。

 私と黒騎君は「失礼します」と言い残すと、部屋を後にしました。


     *


「大丈夫ですか、先生?」

「ええ。助かったわ、ありがとう」


 部屋を出ると黒騎君は、呼び出しの時とは打って変わって、いつもの凛々しい表情に戻りました。


「黒騎君は、演劇部にいるの?」

「僕ですか? いえ、帰宅部です。

 打ち込みたい何かが、特にあるわけではありませんから」


 淡々と、私の質問に答える黒騎君。

 けれど、その目はキラキラと輝いていました。無理もありません。


 何せ、さっき存分に腕で私の胸の感触を味わったのですから。


「お兄ちゃーん!」


 と、ゼスティアちゃんが慌てた様子で走ってきました。


「どうしたんだい、ゼスティア?」

「お兄ちゃんの……お兄ちゃんの、偽物が!」

「どういう事だ?」

「ついて来て!」


 ゼスティアちゃんが、黒騎君を急いで引っ張ります。

 私も二人の後を追い、“黒騎君の偽物”を目に収めようとしました。


 ……と、そこには。


「ま、参った!」

「…………」


 黒騎君と同じ剣を、尻餅をついた男子生徒の喉元に突き付けた人物がいました。

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