第3話 あん♡インストール

 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!

 カードローンが払えなくなる!

 これはマジでヤバイ!


 いや原因は解ってる……。


 俺はスマホの画面を見る。


 攻略した美女はすでに5人。

 それぞれに課金した。


 このエロゲを断ち切らないと、ローンは増えるばかりだ。


 俺は決めた。


 ――――アンインストール――――


 もう…………終わりにしよう。


【アンインストール】を選択しようと、指を画面にタッチする寸前、麗しの聖女のボイスが聞こえた。


『消さないで!』


 え?


 聖女メリー・クリトリスは、涙を潤ませ懇願する。


『あなたは私の運命の人。私を悪魔の手から唯一救ってくれる勇者様なの!』


 そ、そんなこと言われても……。


『お願い、私を消さないで!』


 彼女の頬へ、星が流れ軌跡を作るように、一筋の涙が流れた。


 俺だって君のことが――――。  


 ダ、ダメだ! 

 誘惑に負けるな!


 彼女との思い出が、走馬灯のように浮かび上がる。


 あぁ、これはあの時のデートのシーン。

 こっちは二人の初めてのシーンだ……。


 脳内に浮かんでいるわけではない。

 スマホの画面に次々と現れては消えていくのだ。


 まるで真夏の世の夢。

 泡のように弾ける一時ひとときの幻想。


 こ、これは――――【ギャラリー】!?


 エロゲやギャルゲーには、1回クリアした後に、これまでのイベントやイラストを保存し、何度でも鑑賞すことの出来るライブラリーがある。


 それは主に、ベッドシーンなどのエロ場面ではあるが。


 しかも―――――――。


【当サイトには様々なサービスが盛りだくさん!】


 ダメだ! 誘惑に負けるな俺!

 ん? スクロールしていくと、さらに広告が………………

 ………………………………

 ………………

 …………

 ……








【期間限定、ガチャを回して裸エプロンバージョンをGETしよう!】









 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダスキップ、スキップ、スキップ、ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダフゥ、疲れたぁダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ指ツル、指ツルダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダぁぁぁあああ!!!


 俺は、この素晴らしきエロゲに祝福をしながら、背徳感に溺れたのだった――――――――――――それから1年。


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 目の前のスーツの男は淡々と言う。


「自己破産申請でよろしいですね」


「……はい」


 まさか、弁護士に破産申請の手続きを依頼するとは、1年前の俺は夢にも思わなかっただろう。


 カードローンを精算する為、別のカード会社から借り入れをして返済、さらにその返済日が近づくと別のカード会社から借りて返済に当てていた。


 俺はループから抜け出せなくなった、多重債務者となっていた。


「1年で100万円ですか……そこまで夢中になるゲームとは何だったんですか」


「えぇ、まぁ……流行りのゲームだったもので……」


 言えない、エロゲに課金しまくったなんて、とてもじゃないけど言えない……。


 弁護士は付け加える。


「ともかく、これに懲りてゲームは控えて下さいね?」


「そうします…………」


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 近年、ソシャゲの課金で多額の債務をおい、カード破産するケースが増えています。

ゲームは適度に、楽しめる範囲で遊びましょう。


『みんな……私との、約束だよ?』聖女メリー・クリトリスより。







        【スマホにエロゲを落としただけなのに】

               ~終〜

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スマホにエロゲを落としただけなのに にのい・しち @ninoi7

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