第4話 王と三賢人

「イエスが生まれたあと、遠方から占星術師たちがヘロデ王に会いに行き、ユダヤ人の王はどこかと尋ねられ、絶句したんだ。なんのことだかわからなくてね」


「そこではじめて、イエスを知ったってことですか」

「そういうこと。ヘロデにとっちゃライバルだ。ライバルは殺すしかない。それで占星術師たちを騙した。自分も是非、その王とやらに敬意を示したいから、よくよく星を観察して、その子を特定しろとね」


「星を……? ああ、それが、あの星のことなんですね」

 マキノはツリーのてっぺんに飾られた五芒星を示した。こくりと男がうなずく。


「バカな占星術師たちは王の言葉を信じこんで、星に導かれるままマリアに会いに行った。そこには幼子のイエスがいて、彼らは贈り物をした」


「ちょっと待ってください。それって、三人の博士とかなんとか、ですよね?」

 マキノが割って入ると、「そういう言い方もするね。東方の三博士」と男も同意した。


「それ、イエスが生まれた日に馬小屋に来た人たちじゃありませんでしたっけ?」


「馬小屋に来たのは羊飼いだけだ。占星術師たちが来たのはその少しあと。だいたい、彼らがヘロデ王に会ったのはイエスが生まれたあとだと、聖書にはっきり書かれているよ」


「なんか、いろいろごちゃごちゃなんですね」

「真理を謳う宗教の、神の子の生まれた逸話がすでにめちゃめちゃだ。そんなもんなんだよ」


 マキノはウインナーコーヒーに口をつけ、違和感に気付いた。

 けっこう飲んでいるはずなのに、ちっとも減らない。


「その占星術師たちの夢の中で、神が警告を与え、彼らはヘロデ王に報告せず、遠回りして自分たちの国に帰ってしまった。ここも――ちょっとおかしいと思わないか」


「なにがです? もう、み使いだとか神様だとか、最初からおかしいじゃないですか。別に今さら、なんとも思いませんけど」


「でも、わざわざ夢で警告を与えるくらいなら、どうして占星術師たちとイエスを引き合わせる必要があった? はじめから夢でイエスの住所でも教えてくれればよかったじゃないか。一旦ヘロデのところへ寄ったせいで、疑心暗鬼になった王は、そのあと男の子たちをたくさん殺してしまったんだよ」


「それは……神様がマリアに贈り物をあげたかったからじゃ?」


 けらけらと、はじめて目の前のイケメンが声を立てて笑った。

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