第3話 冬至の祭り

「キリストが実在していたって、なんで分かるんですか」

「なぜって、歴史的に正しいからさ」


 男はにっこり笑う。


「カエサルが、戸籍を登録するようにお触れを出した。国民すべてに、生まれた土地で登録しろと言ったんだ。あっちこっちに人が行き来した。そのときのゴタゴタの中でイエスは生まれた。ちなみに、季節は秋だと言われている。十月ごろだろうね」


「そこまでわかるもんです?」


 くすくす笑いながら、コーヒーに口をつける男は、マキノにイタズラっぽい視線を投げた。思わずまた赤面がもどって、あわてて自分のカップをつかむ。


「そう、わかるんだ。記録が残されているからね。イエスが生まれた晩、近くの野で羊の番をしていた連中のところへみ使いがあらわれ、キリストが生まれたから見に行けと言ったんだ。羊飼いは真冬に羊たちを外に出しておいたりはしない。だからやっぱり、十月だよ」


 ぐるぐると、頭がまわる。ウインドウ越しのクリスマスツリー。じゃあ、今日はいったい何の日なのか。このうかれ騒ぎはなんのため?


「次の十二月二二日は冬至だね。夜が一番長い日」

 男が急に話題を変えたのかと思って、マキノは混乱する。


「はあ」

「ヨーロッパの地方では、冬至にケルトのお祭りがあったんだ。そりゃあ大々的なお祭り。みんなが楽しみにしている。だけどキリスト教を広めたい人間たちにとっては、異教の祭りなんか許容できるわけがない。だけど新しい信者は欲しいから、この日はケルトの祭りじゃなく、キリストの誕生日なんだよ、と言って改宗させたんだ」


「なんか、詐欺っぽい」

 マキノが言うと、男もくすくす笑って「だろ?」と言った。


「イエスは、自分の誕生日なんか祝ったこともないのにね。聖書には一度も、イエスの誕生を祝うシーンなんか出てこないよ。なのに後世の人間が、その正当性を疑うこともせず、こぞってパーティにいそしんでいる」


「あれは、どうなんですか。ほら、ヘロデ王」


 男は目を広げ、「よく知ってるね」とうれしげに言った。本当は漫画の知識だが、マキノは悪い気もしないので、「えへへ」とごまかし笑いした。


「そう、ヘロデ王はイエスを殺そうとした」


 にやりと笑う男は、心底楽しそうに、頬杖をついて窓の外のクリスマスツリーを見やった。そのてっぺんで煌々と輝く、大きな星を見つめた。

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