06 謎は贈り物とともに
なかなかの一日だった。菖瞳は仏壇の前で出来事を振り返った。
懐かしい兄弟子との再会と思い出話に花が咲く。若かりし日の父の姿を覗き見たそんな新鮮な気持ちにさせられたと思いきや、兄の彼女とのギスギスした空気。それも最後にはわかり合えそうだと望みが持てたのだから気持ちにマイナスはない。
兄の一日も早い精神状態の回復を願い、この日もまた天の父を思って手のひらを合わせ祈るのだ。
「そうそう、杏希さんなんだけどね、復興饅頭持ってきてくれたんだよ」ともらった包みを台に置いた。杏希は父の分まで用意してくれたのだ。
「お父さんも覚えているかな。食べてみたいって言ってたあの饅頭よ」とつぶやいて包みケースを開いて見せるようにしておく場所を整えたのだが小さな箱の包み紙が邪魔をした。
いつしか忘れていた兄からの誕生日プレゼントだった。
「私としたことが…」
ずっとそこにあったのに見えていなかったのだ。誕生日を祝ってもらってからそこに手つかずに忘れ去られていた。
菖瞳はそれを手に取り二週間前の兄を思い出す。正座でしびれて笑われたシーンがよみがえる。
ラッピングをほどき中身を改めさせてもらうことにした。あの日兄が言っていたように中身はチョコレートだった。それも放つ高級感は確かに笑っちゃうぐらいのものだった。今となっては値段を聞いても口を利いてくれる可能性は皆無だ。
一つつまんで口に含む。
ほろ苦い香りとともに口いっぱいに広がる甘みに舌がとろけそうになる。そして小さな苦みが残るのだ。
「お兄ちゃんに何があったの?ねえ?お父さん…」
込み上げてくる涙を手で拭い小さな肩を落とした。感情がだんだんと下を向くのだ。それは母も一緒に違いない。最近は仕事終わりに病院に寄ってから、家に帰るなり早々に眠りに就くのだ。菖瞳も見ていられなくなる。
お線香も終わりを告げ、灰と化していた。寂しい仏間に一人取り残された気がしてならない。
菖瞳は仰向けになり天井を眺め見た。鴨居に並べられた先祖の肖像画や写真がこちらを見下ろしているようであり、我関せずと言ったようにも見える。実際見つめられていたらホラーだが、祖先に見放されたような気がしてしまう。
父の死に続き、兄の精神病。この家に災いが訪れている気がしてならないのだ。
そこにおなかが鳴った。
それがなぜかおかしくて笑えて来た。菖瞳は体を仰向けから横に向け持ったままだったチョコレートのケースをまさぐった。もう一粒だけと欲望のままに手を付けた。もしかしたら一個1000円ほどもするかもしれない。そう思うと気が引ける。こんな空腹時には贅沢で仕方ない。
結局金銭感覚に支配され二個目に手が出せなかった。母の用意してくれたあり物の食事で空腹を満たそうと思い、身体を起こし再び仏壇の前で膝をついて手を合わせた。
行儀の悪いところを見せたことを謝り、チョコレートのラッピングの包み紙を手に取った。すると何やらはらりと床に落ちるものを目撃した。
ラッピングとともにあったということは兄からの手紙に違いない。
気恥ずかしさと小さな好奇心に誘われて二つ折りのその便箋を開いてみた。
(好きとか書いてあったりして)と変な気持ちが込み上げていたが、それはそんな不純な内容ではなかった。
『ファイル名:0102Shira10 パスワード:MHSYuki』
という二つの文字の羅列とともにメッセージが添えられていた。
『俺に何かあったら探してくれ』
「何?」
菖瞳は直感的に仏間を飛び出すと元の兄の部屋に立ち入った。
兄が家を出て行ったままの状態でベッドも机も変わりない。そして机の上のパソコンに目を向けた。
コンセントプラグを差し込み起動を確認する。5年くらい前のモデルだが、特に性能に障害となるようなところはない。起動後すぐにパスワードの要求に遭う。
そこでメモのパスワードを入力してみた。だが三度試みるも、予想に反してロックは解除されたままだった。そのうちにパスワードを解除するヒントとなる質問が挙げられた。
『母の旧姓は?』
「森」正確な回答を入力しエンターキーを力いっぱいに押す。
『飼っていたペットの名前は?』
「不正解?何個か答える仕様なの?ペット?」と改めて質問に答えた。
結果は当然不正解。ペットを飼ったことがないのだから『いない』でいいと思ったが違ったのだ。
『好きな色は?』
この質問には自信がある。菖瞳は堂々とワインレッドと入力したが、エンターを推す手前で躊躇って『赤』と答えなおした。
『自分を動物に例えると?』とパソコンからの要求は続いた。
「動物?」もはやクイズ問題の回答者の気分だった。この問いは完全に主観的な質問だが予想はつく。あの兄がイヌやネコと答えるはずはない。最も身近な動物名。
『虎』
『初恋の人の名前は?』と容赦なく質問が繰り出された。
「知るかああ~」
所詮はパーソナルコンピュータ。個人的な質問に答えられるはずはない。
それでも母の旧姓を間違えるはずはない。これは兄が意図的に質問の答えを変えていると見ていいようだ。
菖瞳は諦めて、コンセントプラグを引き抜き部屋を出た。意図的にゆがめられた答えを出すことはできない。
虚無感にさらされた菖瞳は自らの部屋に入るとベッドに横になった。夕食を食べたりつけっぱなしの居間の電気のことやお風呂にも入っていない。
それでも脱力的にベッドに仰向けになりたかった。
手にしたメモ紙を宙に持ち上げて、クルクルと裏返し上下にまわしてみる。
パスワードは違った。何かあったら探せと書いてあっても、これでは何も見つかるはずはない。爪の甘いと言うべきだろうか。
菖瞳は折りたたんだメモ紙を持つ右手を胸の上に乗せ、左手首で両目を覆った。
このまま眠りに就いてもいいと思っていた。食事や入浴、節電もどうだっていい。仮眠でいいから取らせてほしかった。
突然の眠気に襲われ体が動かない。
そこは夢の中だっただろうか?菖瞳の頭にメモの違和感がよぎった。
(どうしてファイル名から書かれているのだろうか?)
もし仮にパスワードから書かれているのなら、それはきっとコンピュータに接続するためのものだと思うに違いない。メモのパスワードこそがファイルにたどり着く一歩だと想像できるだろう。
だが、どうしてか、兄はファイル名から触れている。それはまるで情報への接触は容易だが、どのファイルが目的なのかを突き留めてほしい、という意図さへ感じられるのではないだろうか?
長いこと眠りについていたような脱力感を感じながら、身体を起こす。腕や手が接触していた胸や目元が汗で不愉快だった。
頭がくらくらする中でも仏間に向かった。
ふと見た時計で気が付いたことだが、さっきから一〇分もたっていないではないか。
菖瞳は散らかしたラッピングとチョコレートの小箱を手に取ってから、つけっぱなしの電気を消した。
とにかく風呂に入って汗を流したい衝動だった。湯船の準備はとっくにできている。
胸元のボタンを解きながらチョコの箱と包装紙を居間の机の上に置いた。だらしがない、ずぼらだと思うだろうが汗がひどいのだ。それに誰も見ている者はいない。体裁を気にする必要はない。
下着姿になり、ブラウスシャツを丸めて脱衣所に向かおうとした。すると何かの拍子でフローリングの床に物が落ちる音がした。
気になって音のしたもとへと頭を下げて覗いてみた。するとチョコレートのケースのふたがテーブルの柱のそばに落ちているのだった。
誰かさんみたいだなと思い、ふたを片付ける。すると裏側にメモリーカードが付いているではないか。
すっかりシワの付いたメモを広げて、自らのノートパソコンを起動させる。
だが、メモリーカードにはいくつもの写真が表示されるだけで、文書といったものはない。それでもそこに並べられた画像のどれもが懐かしく、菖瞳は思わずそれらを眺めてみてしまっていた。
目的を忘れそうになっていた自分に気が付き、さっそくメモのファイル名を検索にかけてみた。
兄が何の理由もなくこのメモリーカードとメモを自分に託すわけはない。
するとどうであろうか?一件ヒットしたのだ。ファイルは見えないように表示を加工され画像の中に埋もれていたのだった。
ファイルを開くのにパスワードが要求される仕組みであった。メモのパスワードを何度か読み返しながら入力し解除を試みる。思った通りにファイルは展開され、極秘情報が菖瞳の前に現れた。
いくつもの文書データや音声ファイル、さらに電子化された古い文献まで多面的な情報がファイルの中に収められているのだ。
「いったいこれは何なの?」
兄の意図が分からない。これらのアイコン名はそれぞれ番号や文字の羅列でしか表されておらず、どのようなものなのか詳しく見てみないことにはわからないのだ。
だがそれがいったい何を示しているかはテキストの一つを覗いただけで理解した。
『検死報告書 嶺橋茂雪』
兄は父の死について調べていたのだった。
それに気が付いた時、背中を刺すような強い寒気を覚えた。
いつまでも下着姿でパソコンとにらめっこしているわけにもいかず、調査を中断しお風呂へと向かうことにしたのだった。
父が亡くなったあの日、実は嶺橋雪虎は警察に厄介になっていた。そのことは母も妹も知らない。それは記録にも残らない、行政的に抹消されるほどの小さな出来事だった。
父の内臓に裂傷が見られるとしながらも機能していると聞いた雪虎は思わずこう言った。
「まさか」と。
その一言を驚きや事実を確かめる相槌だと勘違いした医師はこう言っていた。
「私も驚きました。医学界の常識を覆す不思議な症状です」
しかしそれは雪虎の意図からは的外れの返し。雪虎は何も同じ反応を返してほしかったわけではない。
「体にキズはないんですか?」
「え?いや。まさか。目立つようなケガは…」
雪虎の頭の中にはある推測が確証に近づいた。
病院を抜け出し、家に急いだ。いつの間にかカマイタチにでもあったように腕から血を流していたが、痛みを気にしている余裕はない。
(今ならまだ父を助けられるかもしれない)という思いが彼の頭を占領していた。
以前聞いた父からの教え。もしそれが本当なら父が侵されている状況を解き明かすことができる。そして回復の見込みがあるということなのだ。
家にたどり着いた雪虎は勢いのままに居間を通り抜け仏間に向かった。静まり返った我が家は灯を無くし、闇が覆いかぶさったように暗かった。
そしていつもなら暗い中でも確かに実感できる存在を確認できない。
仏間の電気を灯した雪虎は愕然とした。
あるはずの刀が消えているのだ。
刀掛け台に唯一存在を放つ家宝がない。推測はすぐに確証へと変わっていた。
父から教えてもらった我が家の家宝。それは代々受け継がれてきた貴重なものであり、守るべきものだと教わっている。
『銘刀 白星十文字』
「それが刀の名前である」と父は当時中学3年の雪虎の前に置いた。
「へえ~」とさして興味がなさそうに雪虎は手にしようとした。
「手にするときは注意して扱うように。それは嶺橋家の唯一の家宝であり、唯一の刀だぞ」と父はやけに強調して話す。
「ふ~ん」
「何か言うことはないか?おかしいなとか思ったことは?」と茂雪は何かを期待して待っていた。言ってほしい、答えてほしい言葉を期待している。
「これって刃が付いているの?銃刀法違反とか言われない?」
「真剣だし、その刀に関しては許可もある」と仏壇の向かい側の鴨居を指さした。そこには公安委員会の文字と許可書という言葉が書かれているのだが、達筆すぎる文字に雪虎はそれが何なのかわかっていない。
「さあ、他に聞きたいことは?」
「いいや、ないけど」と興味を失った雪虎は刀を父に戻すと正座をほどき胡坐をかいた。
茂雪は分かりやすく落胆してみせた。
「お前みたいな年頃にはこんな刀に胸躍らないのか?」
「別に。まだゲームしていた方が楽しいし」
「それに、ほら、聞きたいことがあるんじゃないのか?」とちらちらと床の間に向かってアイコンタクトを送るのだ。
「分かんねえ。それよりもういい?俺、これでも受験生だぞ」
「今日はするな。父さんの話を聞いて憶える。それだけに集中しなさい」
「そんな親、父さんぐらいだ。どこの世界に息子の現況を妨げる親父がいるんだよ」ともはや胡坐をかいて座るどころか、身体を床に投げ倒し重力に逆らうことをやめている。
「いいから聞け」と茂雪は刀の柄を握り、鞘を抜く。
仰向けになっていた雪虎は思わず飛び起きてそのむき出しの刃先に見とれていた。
露わとなった刃は全体的に白い。電灯の下においても輝く白さは刀本来の繊細さを見せつけているのだ。それに反りが何とも美しい。醸し出す曲線美はまさに美人の象徴。
この上ない美しさと気品あふれる白さ。これが『白星十文字』である。
雪虎にとって床の間に置かれていたただの装飾品程度にしか思っていた刀。それがこれほどにまで研ぎ澄まされた美しさを持っているとは夢にも思っていなかった。
「この刀は名刀だと言ったのはこれだ」
見とれていた雪虎に父茂雪は話し続けた。
「だが、この刀は銘刀でありながら妖刀とも言われている」と刃を鞘に戻した。
「何だよヨウトウって」
「簡単に言えば呪われた刀のことをいう。刀ってものは本来、人を殺すために打たれたものであろう?鍛冶職人の思いが込められてこそ刃こぼれしない、銘刀というものが生まれる。それはやがて職人の込めた殺意どころか殺してきた使用者の殺意や殺された被害者の無念さも宿り、そして呪われた妖刀ってものになる」
「じゃあ、持っていたら拙いんじゃないのかよ。呪われているんだろ」
「それがこの刀の銘刀たるゆえんなんだ。この『白星十文字』はその定義の妖刀とは違う。所持者に影響は与えないんだ。この刀は通称、『
「確かに、刃こぼれも傷もなかった」
「違う。傷がないのは刃のことではないんだ」と言って茂雪は立ち上がり『白星十文字』を元の刀掛けの台に戻すとそばの戸棚を開いて中を漁り始めた。
雪虎は父の様子に注意を向けつつ、刀掛け台に目を向けた。二段ある台座に一つの刀。二段目は空席のままである。
「見つけたぞ」と茂雪が古びたクリアファイルを取り出して雪虎のもとに置いた。
「これが結構古い資料だから、大切に扱うように」とばらばらとページをめくった。
中には黄ばんだ古い紙に筆書きの文字。虫が食ったように穴が開いたものや、とんでもなく古い新聞の記事まで一枚一枚が固いページに挟まれているのだ。
「俺には読めないよ」
差し出されたファイルをそっくりそのまま父に戻した。
「これにはこの『傷無刀』のことが書かれている。うちの先祖がその刀を持つきっかけやけがを受けた者たちのことが収められている。もったいぶるのもなんだが、この新聞なんかは分かるんじゃないか?」
『怪死続出。無傷の死人多発』
見出しなどないが、クリアファイルの上から線が引かれていた。だが、この時代のことは少しは分かった。
新聞には一八七三という西暦、それは明治期のものだった。
日本は激動の真っただ中にある。
記事の中には前代未聞のけが人に悪戦苦闘する医師の姿や、症状について、目撃証言などについて記載されているのだった。
「これが本当にその刀だって言うの?」
「そのようだ。現代において使ったものはいないからハッキリとは断言できないが、そういうことのようだ」
刀の印象が大きく変わる。
そして雪虎は興味を持って資料を広げた。そこには嶺橋家がこの刀を所持するに至った経緯もしっかりと記述されていた。
『お上の命により死人と共に見つかりし刀、保持に仕る。未知なる畏怖の刀に名は無く、刃の白さとその夜の天に輝きし星の配置から名を白星十文字と名付けたり』
どういうことだろう、刀どころか資料すらなくなっているではないか。
戸棚にしまったはずのファイルだけが抜けている。
刀もファイルもなくなっている。これはまず間違いなく、我が家宝を狙った強盗殺人と見て違いない。
雪虎は早々に警察に110番して家に来てもらう。
すぐにパトカーが家の前に停まった。
親が不在であり、高校生の息子ひとりということ、盗まれたものが刀であることに、警察はしっかりとした相手をしてくれない。殺気立った雪虎は冷淡な警官を殴った。
父親が救急車で搬送された後という事実から、大ごとにはならず、というよりも未成年者の言うことを真剣に聞かなかったという後ろめたさから暴力事件の事実を見送ったのである。
現場検証や指紋の採取など一様に始めたのは父が亡くなったという知らせから三日後のことであった。
検死報告書では死因は内臓の異常疾患とされ、亡くなった刀について知る者は長男雪虎のみであること、刀の存在を表せる客観的事実に乏しいということから、事件性はなく、父の死はただの病死として処理された。
あの夜の兄の行動を文面で初めて知った菖瞳は目の下にクマを宿らせていた。突然駆けだした兄がいったい何をしていたかなど一切口にしたことはなかった。だから、この時のことはさっきまでずっと根に持っていた。
(お兄ちゃんにひどいこと言っちゃっていたんだ…)
誕生日の夜、思わず口に出た皮肉は今となっては後悔でしかない。
そしてなくなったとされる刀の存在。
前々から不思議に思っていたことだった。そこにあったと思っていた刀がいつの間にかなくなっているという違和感は間違いではなかったのだ。刀掛け台の上段は明らかに空白が目立つ。それが父の死と関連しているなどとは思いもしなかった。
それにしても不思議だった。兄はなくなった一本の刀の詳細についてだけの説明書きを残しているのだが、二段目の刀の名前どころか存在すら触れていない。父の死の件とは関連がないということなのだろう、菖瞳はそう思うことにした。
兄の残したファイルから一つの真実に近づいた。父は家宝の銘刀によって殺害され、その凶器は犯人の手によって盗まれたという根拠である。
そして兄は人知れず事件の真相を追っていたようなのだ。
あの兄が警察になると決めたことは少し意外であった。菖瞳はてっきり兄は普通に大学を出て、就職先に建築業界を選ぶと思っていたのだ。それが父の死後、警察学校に行くと言い張りそのまま今に至るのだから、うまくいっているとばかり思っていた。兄は兄なりに父の事件を追い詰めていたのである。
当時の報告書や関係者資料がファイル内にあふれていた。音声ファイルは関係者への聞き取り調査で得たものだろう。
そこで一つの推測が浮かび上がった。
兄は事件の真相に近づいて返り討ちにあったのではないかというものである。メモリーカードの更新日は4月の下旬。菖瞳の誕生日祝いの2週間ほど前になっていた。そして最後の更新内容はカモフラージュともとれる画像写真だった。
事実的に懐かしい写真集ではあるが、これぐらいの内容なら菖瞳のコンピュータデバイス内にも保存されている。同じ画像をあえて送るほど兄の思考回路はおかしいものだったとは思えない。
それにメモのメッセージだ。
『俺に何かあったら探してくれ』と言うことは何かを予言していたのだ。だから前もってファイルを作成し、隠すようにして誕生日のプレゼントとともに送り、一目見てもわからないように隠してパスワードまで組み入れる用心さ。
父の事件と兄の事件の関連性を疑ってみてもよさそうだと菖瞳は託されたメモリーカードを握りしめて、再びチョコレートの箱に張り付けたのだった。
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