しもやけ〜バランスって、なに?
寒い!
と、マコトは思った。
手袋をしてくればよかった、失敗した!
と、後悔した。
空は真っ青。
日差しは強いのに。
部屋はあったかだったのに。
これが例の放射冷却というものなのか。
雲ひとつない上空に向かって大地から熱が逃げていくという。
ひと晩かけて、朝までには恐ろしく冷え込んでしまうという。
手が冷たい。
足がつらい。
もうだめ。
しもやけ決定。
ここで、マコトは思い至った。
〜手足が寒さに強かったらよかったのに〜
凍てつく空気に負けないくらい熱を発生して、いつも身体がポカポカしている優れた生物に生まれたかった。
そしたら、ぜんぜん寒くないはず。
指先はいつだって温かいはず。
そのためには、末端まで血液が豊富に流れていなければならない。
手指には毛細血管も太い血管もたくさんあればいい。
…………。
でも。
指とかにたくさん血液を流して、いいんだろうか。
アタマに血が足りなくならないだろうか。
それに指って、けっこう表面積、あるからなあ。
外気に触れて冷やされるのに対抗できるくらい血液を持ってくると、脳みそ働かなくなるかもしれないなあ。
ごはん食べたあとに眠くなるのは、お腹のほうに血液が偏るからだとか、いうしなあ。
いや、これは間違った俗説かもしれないけど。
そういえば。
指なんか血流豊富にしていたら、ケガしたときにマズイよ。
切ったとき、ただでさえドバーッと流血するのに、太い血管がたくさんあったら、ヘタすると出血多量で気を失うかも。
死ぬかも。
それに。
指って末端だから。
袋小路の場所だから。
血液がたくさん来るということは、鬱血しやすいということ。
はげしく動かしていればいいかもしれないけど。
いつも手を上に上げていればいいかもしれないけど。
それは、たいへんだよね。
寝てるときとか、心配だよね。
手を下げて立っているときとか、どうしよう。
ああ、そうか。
今のままなら、そんな苦労はないんだね。
寒くて指が冷たいときにも、最初は血管収縮しちゃうけど、あとでそれなりに温かくなってくる。
その程度で、ちょうどいいってことなんだね。
人間が何百万年も生き残ってきたのは、いいバランスを見つけたからなんだね。
…………。
それ、ホントかなあ?
指をケガしてたくさん血が出たとしても、アタマいいんだから人間は生き残ったんじゃないかなあ。
手を守るテブクロなるものを発明して、生き延びたんじゃない?
鬱血しやすいんなら、指サックとか考案してたかもしれないし。
いや。
そこまでアタマよくなかったのかも。
やっぱり、ホカホカと指先があったかかった種は、滅んでしまったのかも。
ネアンデルタールのみんなは、もしかしたら指先、冷たくなかったかもね。
ジャワ原人は指が太くてシモヤケになっていなかったとか、そんなことはあるだろうか。
やっぱり、彼らは頭脳が進んでなかったんだろうか。
そんなことは、ありそうで、なさそうで。
指が温かいか冷たいか、だけじゃないよね、きっと。
いなくなってしまったのには、なにかあるんだろうな。
生き残れなかった重大なワケが、あったんだろうな。
やっぱり頭脳なのかな。
でも、あんまり賢くなさそうな動物も生き残っているよね。
なんだか。
人間って、バランス、くずれてるよね。
ほかの生き物たちとは、どっかが違う。
生き残るために、独特なことができる。
アタマを使える。
それで本当にうまくいくかは、わからないけど。
ともあれ。
いま繁栄している人類なんだけど。
これから生き残れるほどは、アタマ良くなさそうだよね。
だって、問題が山積み。
解決しなきゃいけないことは、増えるばかり。
もう少し脳みそ進化しないと、人間は地球からいなくなっちゃう気がするなあ。
そんな気が、するなあ。
バランスとれてないからなあ。
いや、でも。
それすらも、バランスのうち?
マコトは考え続けるのでした。
すでにカユくなってきた冷たい指を掻きながら。
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