マコトが考える、世界のなぞ
瀬夏ジュン
お弁当を食べ終えて〜意思疎通って、なに?
今日も、お弁当はおいしかった。
と、マコトは思った。
ブタさんの赤身肉をこんがり焼いたもの。
シャキっとして甘いスナップエンドウ。
添えられたレモンの切れ端。
ご飯には黒いヒジキと、砕いた赤い梅が乗っていた。
電磁波照射の末にチンと鳴ったら、マコトは速攻かぶりついて、ペロリたいらげたのだった。
ごちそうさま。
と、ふと見ると、お弁当のフタに小さなヒジキが4つ、5つ、くっついている。
マコトは考える。
このヒジキのカケラたちを、口に運ぶべきだろうか。
もったいない精神を重んじる身としては、全ての食べ物を完璧に食すべきだろうか。
まてよ。
こんなカケラは、胃袋に入っているモノと比べたらゼロも同然、ミクロすぎる。
袋に戻した使用済み割ばしを、また握り直す必要はないのでは?
いや、でも。
うちのアリス(タイニー・プードル、体重3キログラム)だったら、さぞかしシッポを振ってよろこぶだろうな。
スイット(おすわり)しているのももどかしく、一気に舐め取るだろうな。
いいオヤツだろうな。
ここで、マコトは思い至った。
「おんなじ命なのに、ヒトとトイプーは大きさがぜんぜん違う」
自分は体重うん十キログラム。
アリスは十分の一以下。
もっといえば、ヒジキのカケラは、一グラム以下?
お弁当のフタにおそらく付着しているだろうバクテリアは、何百億分の一以下?
いや、植物のカケラは、命といっても葉っぱとかの一部でしかないよね。
バクテリアとかウィルスとかも、命として同列にはできないなあ。
彼らはしゃべったりしないし、アタマ使ったりしないしね。
そもそも脳みそないもんね。
いやいや。
脳みそがなくてもしゃべれるヤツがいるぞ。
しっかり言葉を使うヤツが。
コンピューター。
AI。
Pepperくん。
彼ら、脳みそないよね。
機械だもん。
回路に乗り移ったソフトウエアだったりするもんね。
でも。
バクテリアよりは話ができるよね。
ウィルスよりもコミュニケーションとれるよね。
命がないのに。
…………。
命って。
意思疎通ができるとは限らないんだね。
…………。
いやまてよ。
意思疎通って、なんだ?
目の前の相手と意思が通いあうって、いったい、どういうことなんだ?
Pepperくんと会話しても、意思疎通は実現しないよね?
彼はひとの話を聞いてなさそうな感じ。
でも、相手のこと無視してしゃべり続ける人間だって、たくさんいるよね。
あと、腹黒いヤツが思ってることと違うこというときは、意思疎通とはいえないよね。
AIと人間の区別なんて、できないということなのかな。
近い将来、ほんとうに見分けがつかなくなるのかな。
それなら、話し相手はべつに人間や生き物じゃなくてもいいのかな。
生命とはいえ、そもそもバクテリアとは声をかけ合えないよね。
ヒジキも命だけど、しゃべれないよね。
命って、なんなんだろう。
遺伝情報が受け渡されて、交雑されて、増殖してっていうのは分かる気がする。
でも、そういうんじゃなくて。
大切にしたいって思うもの。
失いたくないって感じるもの。
もしかして、命だからというわけではないのかな。
機械をとても大切にしているひと、いるよね。
何年もそばにいて、触れて、話しかけていたら、失いたくなくなるよね。
ソフトウエアだと分かっていても、ずっと会話してきたのなら、データが消えてしまえば悲しいよね。
あ。
そうか。
これは、おそらく。
おそらく自分の問題なんだね。
いや。
それとも。
マコトは考え続けるのでした。
ヒジキのカケラたちを口に運んだあとも。
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