くよくよ悩んで〜事実って、なに?

小雨の降る小道。

砂利を鳴らして歩きながら。

胸が痛い。

ズキズキ痛い。

と、マコトは思った。


しまったなあ。

ひどいこと、してしまったなあ。

なんで、あんなこと、いっちゃったんだろう。

と、悔やむばかり。


ムカッとしちゃって、つい……。

ああ、取りかえしがつかないなあ。

さっきのこと、全部なかったことにならないかなあ。

次に会ったときには、忘れてるといいなあ。

なんのこと? とか、キョトンとしてくれるといいなあ。


過去って消せないものなんだよなあ、とマコトは思った。

時間を遡ることはできない。

事実を消すことはできない。


ん?

でも。

でも……。


でも、事実ってなんだろう?

あのときのことは、ふたりしか知らない出来事だったよね。

世界中のだれも、見ても聞いてもいないよね。

なのに、事実なんだよね。


ここに至って、マコトは大いなる疑問を抱いた。


「あの出来事はどこに行っちゃったのだろうか。過去って、いったいどこにあるの?」


流れる時間は、今だけのもの。

前の時間なんて、どこにも存在しない。

だからこそ、さかのぼって元に戻ることができないんだよね。

ということは過去の出来事は、もうどこにもないわけだよね?


でもでも。

写真で記録されるよね。

映像で残されるよね。

また見れるよね。

録音された声は再生できるよね。

何度だって聞けるよね。

あたかも、あのひとがそこにいるかのように蘇るよね。


あ。

そうか。

わかった。

過去がどこにあるのか。

楽しかった時間や、遠い昔の風景や、愛しいひとのかつての姿が、ほんとうはどこにあるのか。

どこに行ったのか。


マコトは、ゆっくりとうなずいた。

そのあと、ニンマリとして思った。


「ということは、今も、未来も、過去と同じところに行くんだね」


そう。

ここに。





雨はとうに止んで、砂利道がすこし乾いてきたころ。

歩き続けながら、マコトは考えた。

ごめんね、から切り出そう、と。










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