年越し蕎麦と年越し

 年越しのカウントダウンが始まる。

 後、十秒だった。

 ハッと目を覚ましたのは、残り五秒。

「起きたか。」

「あ。」

「お前、毎年丁度いい時に起きるよな。」

 後、一秒。

 こたつから出ると、正座し姿勢を正す。

 三忍さんにんは向かい合うと、両手を床に揃えてお辞儀をした。

「「「今年も宜しく御願い致します。」」」

 声が揃った。

 顔を上げれば珍しいことに、三忍の笑みが揃うのだ。

「えへへ、今年最初の笑顔も声も、見れた!」

 才造サイゾウ虎太コタも、滅多に笑わないし、虎太は普通喋らない。

 それでも、この時だけは揃うから、嬉しくて堪らないのだった。

 夜影ヨカゲの満面の笑みは、二人を確かにドキッとさせる。

「っていうか、さ。起こしてくれればよかったのに。」

「いや、気持ち良さげに寝てたからな。ワシの膝上で。」

「年越し蕎麦そば二人で食べるとか!年越し蕎麦の意味!」

「年越してからだと縁起悪いのは知ってる。だから、お前の分まで食った。」

「一年の災厄さいやくを断ち切ること出来なかったんですけど。」

「災厄がお前に勝てるとは思わん。」

 それには夜影は、笑ってしまった。

「そ、だね、あっはは、だって、こちとら、影神だったもん、ね、あっはっはっは!」

 蕎麦は細く長いことから、延命・長寿を願ったものとされているのだ。

(ちなみに、引越し蕎麦の場合だと、末永く宜しく、となる)

 しかし、蕎麦には様々な説もある。

 家族の縁が長く続くように、という意味もあれば、健康の縁起を担ぐというのもあるのだった。

 蕎麦を残すと新年は金運に恵まれないという。

 そういうことも、彼らはよく知っているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る