第八話 テラを越えた先にあるのは……
-2018/04/13-
「ふと、閃いたんです!」
この日、僕は天啓を受けた気がして、部室に入るなりそう切り出していた。
「……今日はいつにもまして唐突じゃのう。まぁ、話してみるがよいぞ」
怪訝な顔をして、ムネ先輩は僕を促す。
だから、僕はただ、心に去来したネタを自然と口にしていた。
●テラの超越●
霧子はパソコンのハードディスクを増設しようと思って電気街を訪れていた。
そこで、おじさん達が昔を懐かしんで話しているのを聞く。
かつては数十MBでも大容量だったらしい。
それが、メガを越えてギガになり。
気がつけばギガも越えて、テラになったのだ。
そんな話を聞きながら、霧子は考える。
なら、近いうちにテラも越えてしまうんだろうか?
そうなると、次の単位は……
そこまで考えて、霧子は気づく。
凄く、大切なことに。
自らの真っ平らの胸を撫でる。
唐突に円周率を考える。
円周率の記号の前に順番に単位を付けていく。
うん、どんどん大きくなっている気がする。
でも、次。
次だ。
どうしたことだろう?
何故か一気に小さくなったように感じる。
だが、それは一つの真理を示している。
平らな胸を改めて見る。
そう、テラを越えているのだ、このペタパイは……
霧子は、なんだか嬉しくなった。
「と、こんな感じです。いやぁ、
僕は、ムネ先輩がいつもするようなドヤ顔で語っていた。
きっと褒めてくれるだろう。
そう思ってムネ先輩の顔を見るのだが。
「……どういうことじゃ?」
呆然とした顔で、そんな言葉を漏らすのだった。
「……これ、もしかして」
茅愛も同じように、呆然としていた。
「影響が、出たのか?」
「『テラを越える』なんて……やっぱり、強制的にパラメータ弄ったのがまずかったんじゃ?」
「いや、まだ大丈夫じゃろう。無意識のようじゃしな」
「そうです、よね……」
そうして二人、何か意味ありげな言葉を交わし合う。
でも、僕にはその意味が全く解らない。すぐ近くで話していたのに、不自然なぐらい二人の会話は頭に入ってこなかったのだ。
「ふむ、テラを越える、か。それはそれで、いいところに気づいたの」
訝しむ僕へ、いつもと変わらぬ口調でムネ先輩は語る。
でも、ちょっと眼鏡の奥の目線が定まっていない感じがする。
ここ数日はよく顔を見ていたから、変化が解る。
そう、いつの間にか、胸より顔をよく見るようになっていたから。
ムネ先輩は、じっと見つめてくる僕を訝しみ、唐突に白衣の前を開ける。
その下は、いつもそうなんだけどブレザーのジャケットは着ておらず、ブラウスのみ。
「あ、暑いの……」
「え? そうですか?」
「暑いといったら暑いのじゃ!」
理不尽な、意地になったようなムネ先輩。
やっぱり、様子がおかしい。
まぁ、それはともかく、この発見だ。
「それでですね、このPπの真理に気づいたとき、僕はもう、凄い興奮しちゃって先日のムネ先輩がソファーの下から出て来たときの青春のメモリーを……うぁ」
何かを強く叩き付けるような派手な音が足下でして、次の瞬間、視界が逆さまになった。
「え???」
落ち着いてみると、足に枷が嵌って天井から吊り下げられているようだった。
僕の立っていた場所の床板から枷が出てきて僕の足首を拘束。そのまま床板が勢いよく射出されて天井に固定される仕掛けになっていたようだ。無駄に凝った仕掛けだった。
「そ、そういうことを、わざわざ、言うんじゃない……」
あのときのことを思い出しているのか、顔を真っ赤にしてムネ先輩。
うん、やっぱり可愛いな。僕は、その羞じらい顔を凝視する。
楕円のレンズの奥の瞳に、視線を合わせるようにして。
「どうした、顔ばっかりみて? ま、前までは胸ばっかり見ておったではないか? 今も、せ、青春のメモリーと、あ、あたしの、胸が見えそうになったことを思い出しておった、のに……」
恥ずかしげに、でも、どこか怪訝そうに、僕に問うムネ先輩。
一体、どうしたんだろう? やっぱり、様子がおかしい。
「何を言ってるんですか? シンデレラバストも含めて、ムネ先輩が魅力的だってことですよ? だから、顔を見てると、可愛いなって」
「か、可愛い、じゃと! こ、後輩の癖に、な、生意気を言うんじゃ、ない!」
頬を染めて手を振り回し、先輩風を吹かしているのに子供っぽくムネ先輩は言う。
やっぱり、とても可愛い。
僕は、その顔をじっくりと見る。
僕の視線がレンズの奥のムネ先輩の三白眼と合うと、
「じゃ、じゃが、いいところに気づいたの。ペタがテラを越えていることに気づくとはの。そうじゃ、それは、あんな不埒な肉塊なぞより、シンデレラバストの方がずっといいものという暗示なのじゃ。そうであろう、蓮人?」
照れ隠しにか、ムネ先輩は強引に話を戻す。
「ハァハァ、不埒な肉塊……ハァハァ、ありがとうございます。ありがとうございます」
その言葉に反応し、床で悶えている茅愛。
まぁ、それは放っておくとして、
「ええ、勿論です」
僕はその言葉に賛同する。
――シンデレラバストも、ムネ先輩の一部だから。
僕の方も照れくさいので、それは口に出さずに。
「あの、それよりも、そろそろ下ろしてくれませんか?」
正直、頭に血が上って、大分ぼーっとしてきていた。
「おっと、そうじゃったの」
ムネ先輩が電子魔道書を操作すると、天井に床板を固定していた装置が外れた。
すると、一気に床が近づいて……
「ちょ、落ちる!」
僕は咄嗟に頭を抱えて体を丸め、身を守ろうとする。
が、急に体を丸めたことで変な方向に力がかかったようだ。
頭から真っ逆さまに落ちることは回避しつつも、ムネ先輩とは逆側に向かって飛びこむような形になってしまった。
そして、
「あ……なんだ、これ」
暖かかった。
柔らかかかった。
気持ちよかった。
僕は、何か原初の記憶を呼び覚ますような存在に包まれていた。
心は、とてもとても安らいでいる。
そのまま眠りに就いてしまいたいぐらい、心地よい。
でも、眠ってはいられない。
今は、大切な特殊文芸部の活動時間なのだ。
僕は、今一度自分の位置を確認しようとして、
「だ、駄目です! は、早く、はな、離れて下さい! こんな穢らわしいものに、触れてはいけません!」
「何をしておる! 早く、早く離れぬか!」
茅愛とムネ先輩の焦った声が聞こえる。
それで、ようやく僕は状況を理解した。
どうやら、床に転がって悶え乱れていた茅愛のブラウスの裾から頭を突っこんで、そのまま頭でブラを押し上げ、その双丘に直接顔を埋める形になっているようだ。
そう、僕は埋もれている。
こんな醜く神々しく不埒で魅惑的で唾棄すべき抱きつきむしゃぶりつきたくなる生の乳房に。
ん?
何か、おかしい。
僕は、シンデレラバストが、好き。
あれ?
何、それ?
これ、好き。
茅愛の、おっぱい。
巨乳。
最高!
巨乳が嫌いな男なんて、いるわけない。
シンデレラバストが好きなのは僕。
シンデレラバストなんて性欲の対象じゃない。
巨乳は醜い。
巨乳は美しい。
僕は、シンデレラバストが好き。
でも、巨乳はもっと好き。
あれ?
あれれ?
なんだ、これ?
気が付くと、僕はその膨らみに頬ずりしていた。
離れる気が全くしない。
いつまでも触れていたい。
両手を伸ばし、鷲掴み。
ふにょ~んとした弾力を楽しむ。
「し、しまった!」
焦ったような、ムネ先輩の声。
「昨日辺りから、シンデレラバストへの執着よりも博士への執着が上回ってきてたみたいですし……やっぱり、低い方の数値を上げるより、高い方の数値を下げた方がよかったんじゃないですか?」
頭の側から、何かよく解らない内容の茅愛の声。
あれ、でも博士って誰? ムネ先輩の、こと?
「そ、それは、嬉しい誤算で下げたくはなかったのじゃ……っと照れておる場合ではないの。何はなくとも、早く止めねば取り返しのつかんことになる! 『メタテラ』プロセス、停止じゃ!」
そんな、意味の解らないムネ先輩の言葉に続き、深い眠りに就くような意識の暗転。
刹那。
――やはり最後は、巨乳に回帰してしまうのじゃな。
哀しげなムネ先輩の声が聞こえた気がした。
※ ??? ※
# meta-tera killed.
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