小話置き場
その理由を聞かせて
「神楽坂ってさ、僕らの中でも結構運動神経いい方なのに、帰宅部なのって勿体ないよな」
なんか理由でもあるの、と尋ねる隣に座る政輝の目は、いつもどこか冷たいように見える。その質問は、さっき部活のことで連絡があると呼ばれていった大翔のことがあったからだろうか。教室から出て行って十分ほどが経過したが、大翔はまだ戻ってこない。誰も委員会には入っていない俺たち三人の中では唯一の運動部だから、大翔がおそらく一番予定が合わないし忙しいのだと思う。
文化系である化学部に所属する政輝は、相変わらずの温度の感じられない目で帰宅部の俺の顔を見つめている。その質問の答えすら、本当は興味がないのではないかと思うほど温度の感じられない目。でもその温度が心地いいようにも思う。
元々俺と政輝の席が近かった。神楽坂と久我だったから。それで声をかけたのもある。でも、一番は大翔と気が合いそうに見えたからだ。
いつか居なくなるかもしれない俺が、残された西条大翔を任せられるその相手に、久我政輝を選んだのだと。
その理由を知った時、二人はどう思うのだろうか。
言う気はさらさらないけれど、それでも俺を許してくれるのなら。
そんな叶わない願いを抱きながら、俺は質問の答えを口にした。
「部活してるより、早く家に帰って寝たいんだよな」
もちろん、これも嘘だけれど。
俺の言葉に、政輝が「そうなんだ」と口にした。
そっちから聞いておいてなんて淡白な返事だなと、自分の嘘を棚に上げてぼんやり思った。
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