第14話 念話

「うあああああ!?」


 カルネル山の麓で。

 私は盛大に頭を抱えた。

 いや、別に敵を取り逃して砦に被害がでたとか、魔物をやつけられなかったのではない。

 すでにレベル700〜600の敵は容赦なく全部撲滅した。


 そりゃもう八つ当たり気味に全部ぼっこぼっこのケッチョンケッチョンにしてやったのだが……。


 問題はそれよりもリリに繋いでもらった念話だ。

 相手の見たもの、思ったものがなんとなく通じ、会話もできるという超便利機能だったのだが。


 会話の時の声が、まさかの私本来の声だったのだ。

 そう、女声だったのである。


 うおおおお!?バレター!!まさかの中身女だとバレたー!!

 男言葉の痛い子になちゃうんですけど私!?


『ネコ オンナ 秘密 のコト しらなかった ゴメン』


 リリがすまなそうに謝り


「猫様!中身が女だろうが男だろうがこの、コロネ・ファンバードあなた様への崇拝はかわりません!」


 と、どこぞの宗教家のような事を言い出すコロネ。

 くっそー!!そういう問題じゃないんだけど!?


「それに、猫様、プレイヤーの魂と身体の性別が別の可能性があることは、エルフの上層部などには知られています。

 猫様は時々、女性らしい気の使い方をなさるので……観る者がみれば性別が女性であるという事はバレるかと」


「ええええ!?マジか!?

 じゃあコロネはとっくに自分が女なのを気づいてたのか!?」


「はい。その……薄々は……。

 確信がもてたのはモロッコの街で、女神はプレイヤーに異性のハーレム要因をつけるという話を猫様にした時にこちらを睨んだ時でしたが」


 あー。うん。あった!そんな事あった!

 やべぇ、無意識に睨んでたわ!!

 あああもうとっくに気づかれてたんじゃないか!?

 なんだよ、もうとっくに男のふりをしている痛い子とバレていたなら気にしたってしょうがない。

 うん!そうだよ!そうに違いない!


「何だよ。バレてたならもういいや」


 私がげんなりした顔で言えば


「もし差支えなければ、何故プレイヤーの方は本来の性別とは別の身体でゲームを始めるのかお聞きしても?」


 と、コロネが小首をかしげる。


「なんていうか女プレイヤーだと口説かれれたり、リアルで会おうとか付きまとわれる事があってな。

 面倒でなんとなくネトゲは男キャラでやる癖がついたっていうか」


「猫様を口説くとは!?そんな不埒な輩はこのコロネが撲滅してみせましょう!!」


 と、コロネ。


「や、口説かれたのは別のネトゲだから相手はここにいないのだが」


「ではいますぐそのネトゲとやらに!!」


「行けるかーアホっ!!」


 うん。コロネって時々変態化するよね。マジで。


▲△▲


「それにしても……あれですね。

 まさか全部本当に倒してしまわれるとは……」


 なんとかコロネをなだめて落ち着かせたところで、コロネが死屍累々と転がる魔物の死体を見て呟いた。

 見渡す限りモンスターの死体が所狭しと転がっている。


「うん。なんだか今のやり取りついさっきした気がするんだが」


 私が頭をポリポリかきながら言えば、コロネは大きくため息をついて。


「猫様が規格外すぎてもう驚くことしかできません」


 と、ため息をつく。


『デモ、まだ 山の マソ きえてない また沸く ドウスルの?』


 と、リリがわりとトンデモない事を言ってくる。


「ええええマジで!?またモンスター沸くのか!?」


「はい。ですが結界が破れた事により一気に魔素濃度が下がりましたので

 恐らく沸くとしてもレベル400くらいでしょう」


「魔素濃度?」


「魔物は人間や動物などとは違い、生殖行為などせずに、魔素が一定数値貯まると勝手に生まれます。

 カルネル山はその魔素を古代龍カエサルが放っていたのに加え、神々の結界でその魔素の逃げ場がなかったために、強力な魔物が生まれていました。

 カエサルも倒され、結界が破れた事により魔素が山に篭る事もなくなりましたから、レベル700などという数値のレベルの敵はでないとは思います」


「うーん、400くらいの敵なら自分の罠でどうにかなるかな」


「400でも十分驚異的強さのはずなのですけれどね……」


 と、コロネが目頭を抑える。


「んじゃ、いっちょ、600以下の魔物が山から降りてこれないように罠を設置するからコロネ達はそこで待っててくれ」


「そんな事が可能なのですか!?」


「うん。自分のレベル100以下のモンスターがその魔方陣の中に入れなくするトラップがあるからな。 

 まず最初に自分の罠が無効化する魔方陣を山に設置して、それより大きい魔方陣でそのトラップを設置する。

 そうすれば通れないから出て来れないはずだ」


「猫様は……本当になんと表現していいか……規格外という言葉しか思いつきません」


 と、コロネが思いっきり呆れるのだった。



 △▲△


「……さて、問題はこれからどうするかだな」


 魔物の死体を片っ端からアイテムボックスにいれたあと、私たちは考え込む。

 ちなみに魔物の死体をアイテムボックスにいれたのはコロネの助言だ。

 死体をそのまま放置しておくと、魔素が貯まる原因になるらしい。

 下手をすると死体を放置した場所から強力な魔物が現れてしまうとのことなのだ。

 そこらへんゲームとは微妙に違うので地味に面倒くさい。


「一度エルフの砦カストリーナに戻られて休憩をとられてはどうでしょうか?

 あそこには私も別荘を一つ所持していますから、おもてなしもできますし」


 と、コロネ。


「うん。たしかに一度休憩したいかも。流石に連戦で疲れたし」


 言って私が辺を見回せば、日もすっかり暮れかかっている。


「所でリリはどうするんだ?」


 勢いで連れてきてしまったが、このまま一緒に連れ回していいものなのか本人の意思を確認しておかないと。


 途端、念話で思考をお互い繋いでいたせいで、リリの思っている事が伝わってくる。

 一人寂しくカルネル山で丸まって出る事の出来ない外への世界へと憧れをもつ日々を。

 魔物と念話で会話を試みても、彼らに意志はないようで――何一つ返事はなく、ただ一人で会話することもかなわぬ寂しい日々が脳裏に過ぎる。


 リリがしまったという顔をするが、私はそっとリリに手を差し出した。


「よっし!リリ、行くところがないなら自分と一緒に行こう。

 リリの面倒は自分が見るから」


 と、ウルウルと潤んだ目で見つめてくる白龍のリリちゃん。

 ドラゴンのウルウル目とか可愛すぎて反則だと思うのですけど。


「イイノ?ほんとにいいの?」


「リリが迷惑でないなら」


 言って私がコロネを見れば


「私は元々猫様に無理矢理ついて行っている身分ですから。

 判断は猫様にお任せします」


 と、にっこり微笑む。


「んじゃ、決まりだな。

 一緒に行こうリリ」


「アリガトウ!」


 私がにっこり笑って手を差し出せばリリも嬉しそうに微笑んだ。

 念話で思考がつながっているせいか、嬉しいリリの気持ちが通じてくる。

 うん。やばいこの子マジ可愛い。


 ……ドラゴンに可愛いという形容があってるかは不明だが。


「にしても、リリが一緒だとすると……」


 と、私はリリに視線を向けた。

 うん。リリでけぇ。


「リリの大きさじゃ砦に入れてもらえなくないか?行き先を変更しようか?」


 私が聞けばリリが小首をかしげて


『大きい ダメ?』


「ううーん。砦の中だとどうしても建物と建物の間が狭いから、下手すればリリの羽で建物が壊れるってことも」


『なら、リリちいさくなる』


 言って、リリは咆哮を上げた。

 ドラゴンにとってはこれが魔法の詠唱なのかもしれない。


 ぽぉぉっと、リリの身体が柔らかい青い光に包まれたあと……


 今までそこにいた白いドラゴンが消え、そこには銀色の髪と瞳の可愛い少女立っていた。


 うん。ロリっ子だ。

 何かの小説で、仲間になったドラゴンは確実に幼女化するものだ!それがロマンだ!ついでに義務だ!などと書かれていたのを思い出す。

 なにそれエロゲ脳?と思ったが、本当にドラゴンとやらは幼児化するのが義務らしい。

 うん。これで中身が見た目と同じ男でロリ趣味なら大喜び……したかもしれないが、中身女なので、流石にリリたん萌!!!とかにはならないが。

 庇護欲は確実にそそられるよね、これ。

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