第12話 ホワイトドラゴン

「これはまた……何とも……流石猫様といいましょうか……」


 倒れた古代龍を見てコロネが何とも言えない表情でそう呟いた。

 カエサルを鑑定してみれば、きちんと死体扱いになっているので、倒すのには成功したらしい。


……。


 ………。


 ………。


 にしてもである。


 うおーマジ焦った。よく勝った。頑張った自分!

 いきなりレベル1200とかありえないでしょ。などと考えていると


≪古代龍カエサルを倒しました、経験値を獲得しました≫



 ゲームで聞きなれた、システムメッセージが流れる。

 経験値を取得しましたとか言われてもねぇ。

  そもそも、レベル補正で自分のレベルのプラマイ20を超すレベルの敵は適正値ではなくなり、獲得経験値が大幅に下がる。


 レベル100も差がある時点で経験値は均一『1』しか手に入らないはず。

 レベル差が1000もあるのだから、貰える経験値は『1』確定だ。

 これだけ苦労しても経験値1とか悲しすぎるわ。



 思った瞬間



≪経験値1234000000011を手に入れました≫



 ……はい?


 ありえない経験値に思わず固まる



≪所持している経験のポータルによって経験値が二倍になります≫



 ……はいぃぃ?


 そのシステムメッセージの後、急激に身体の中に何かが入ってくる。

 システムメッセージはいまだ、レベルが上がったなど言ってるらしいが、すでに聞いていられる状態ではなかった。



「うああああぁぁぁ!?」



 身体全身に何かが蠢くような、感覚に思わず絶叫をあげた。


 痛みとはまったく違う、よくわからない感覚。


 突如襲ってきた不快な全身を荒れ狂うような感覚に、私はそのまま意識を失ったのだった。



△▲△


 夢を見た。

 それはいつも同じ事の繰り返し。

 神殿の中に佇む自分。そして対峙するプレイヤー達。

 まずプレイヤー達に先に攻撃させた後、自分の攻撃の番がくるという今考えれば奇妙な戦いだった。

 プレイヤーが攻撃してくる間、自分は棒立ちで、その攻撃を食らわないといけないのだ。


 何故避けなかったのか。自分でもわからない。


 だが、当時はそれが日常であり、自分の仕事だったのだ。


 仕事はプレイヤーに倒される事。


 プレイヤー達に自分が殺されたとしても、10分後には何事もなかったかのように復活し、再び別のプレイヤーと対戦する。


 何の疑問もなく、毎日その作業を繰り返していた。



 しかし、ある時ふと、プレイヤーと呼ばれる人間達が来なくなった。


 毎日のように「レアアイテム」と呼ばれるアイテムを狙ってくる、プレイヤーがぱったりと来なくなったのだ。


 そして気が付けば何故か自分は神殿ではなく神殿の外に放り出されていたのだ。



 何故だろう……?


 私はそれに疑問をもった。




 そして、同時にプレイヤーと戦うという事以外、何も考える事の出来なかった自分が思考をもったことに気づいたのだ。




 そう、私は開放された――この世界のシステムから



 私が生まれた瞬間だった。




△▲△


「猫様っ!!大丈夫ですかっ!!」


 コロネの声で私は目を覚ました。

 どうやら急激なレベルアップに耐え切れなくて気を失っていたらしい。

 直接脳に話しかけられたせいか、何故か夢でホワイトドラゴンの過去まで見えていた。


『ダイジョウブ?』


 コロネの横でホワイトドラゴンも心配そうに私に話しかけてきた。

 ただ、コロネと違うのは脳に直接テレパシーみたいな形で話しかけてくる。

 少しゲーム内のパーティーチャットと似ていなくもない。


「あー、大丈夫大丈夫!なんか急にレベルが大幅に上がったから、身体がびっくりしたというか何というか。

 ほらレベル上がってるだろ?」


 言いつつ、私がゲームと同じ要領でステータス画面を開くと……


 そこに表示されていたレベルは……


「な……ななひゃく……ごじゅうさん!?」


 そう、そこに表示された数字は何度見直しても753と表示されているのである。


「……古代龍カエサルを倒したのもありえませんが、レベル753ですか。

 伝説で言われる高位魔族クラスのレベルなのですが……」


 コロネが呆れたようにため息をついた。


『コダイリュウ タオシタ ネコ ニンゲンなのに スゴイ』


 ホワイトドラゴンがカタコトで話しかけてくる。

 声は随分幼い可愛い女の子の声だ。そういえば鑑定をまだしていなかった。

 私が鑑定すれば。



***


 種族:ホワイトドラゴン

 名前:リリ

 レベル:400


***


 と、でる。

 うん。レベル400とか普通なら凄い事なのだが相手がレベル1200の古代龍では手も足もでなかったのだろう。


『ネコ コロネ タスケテクレテ アリガトウ』


 リリがぺこりと頭をさげていえば、私はパタパタと手をふって


「あー、気にしない気にしない。

 もしかしたらリリが神龍召喚失敗したの自分達のせいかもしれないし

 むしろ謝らないと」


 そうあのラファとかいうプレイヤーが何か細工しなければ、リリは普通に神龍を呼び出せたのかもしれないのだ。


「いえ、例え神の使い手と言われるホワイトドラゴンでも神龍の召喚は無理でしょう。

 呼び出すには複数の条件が必要です」


 私の言葉をコロネが否定し


『リリも ムリだとはオモッタ デモ ホカニ たすかる ほうほうなかった』


 リリがしょんぼりしながら言う。


「へぇ、そんなにすごいモノなんだ?」


「神龍はレベル1200の神に近い存在ですから……といいましょうか、古代龍カエサルも、伝説級の魔物です。

 神に最も近い存在なのです。

 それを倒してしまわれるとは……目の前で起きたことが本当に信じられません」


 言ってコロネが目頭を抑えながらうめいている。


 うん。そう言われても倒せてしまったものは仕方ない。

 これはあれだ、ゲーオタの知識と運良くゲットできたレアアイテムのおかげなのだが。


「まぁ、運良く倒せるアイテムがあっただけで、もう一回やれとか言われても流石に無理だし」


「一度でも出来てしまうのが、恐ろしい事なのですが」


 呻くコロネはとりあえず放っておいて、私はいそいそとカエサルの死体を回収した。

 ほら、よく漫画とかだと解体して売れるとかいうし。


 ――にしてもである。


「とりあずここは危険だから移動しようか。

 またレベル1200の敵がでてきても嫌だし」


「そうですね。しかしカエサルがいたという事はここは山頂でしょうか?

 確か伝説ではカエサルはカルネル山の山頂に封じられていたはずです」


 コロネがくるりと振り返りリリに聞けば、リリはぶんぶんと首をふり


『リリ、ヨクワカラナイ でも ヤマニアッタ ケッカイ ヤブレタ

 ココ チュウフウアタリ? ホカノ まもの やま オリテイッタ』


 と、リリちゃんがわりと深刻な事態をさらりという。

 カルネル山といえば高レベルの魔物をエルフの結界で閉じ込めていたはずである。

 それが破れたということは……高レベルの魔物が大量に山から降りていったわけで。


「そんな!?それでは魔物がエルフの住むエルディアの森に降りていったということですか!?」


 コロネが真っ青にしてリリに聞けば、リリは無言で頷いた。

 くっそーーー!!異世界にきてまだ4日目なんですけど!! 

 なんだよこのイベント盛りだくさん状態!!


「この山の魔物は基本レベルいくつくらいなんだ!?」


 私がコロネに聞けば、コロネは顔を青くして


「恐らくレベル300〜700くらいかと思われます」


「うっしっ!!じゃあ倒しに行くぞ!!コロネ!!」


「……は?」


 私の言葉にコロネが物凄く驚いた顔をした。うん。なんでだし。

 確かに装備がレベル200状態だが、一応課金アイテムのレベルに応じて強くなる武器を2万円で買ってあるので問題ない。

 まぁ流石に武器性能的には中くらいのランクの武器だから心もとないのはたしかだが。


「って、助けに行きたくないのか?エルフの領土なんだろ?」


 私が聞けばコロネは首をぶんぶん横にふり


「いえ!行けるのなら喜んで行きます!

 ですがなぜプレイヤーの猫様がそこまでしてくださるのでしょうか?」


「えーい!!こういうのに理屈も理由もあるかよ!!

 とりあえず行くぞ!!」


 コロネの首根っこをつかめば


『リリも いきたい リリ ノレバ 山おりる はやい』


 と、リリが申し出る。


「レベル700を相手にしないといけないんだぞ?

 死ぬかもしれないけどいいのか?」


 私が聞けばリリはコクりと頷いて


『リリ タスケテモラッタ こんどは お礼 スルばん!』


 言ってむっふーといわんばかりに鼻息を吐く。

 

 うん。なんて萌キャラ系ドラゴンなのかしら。

 リリちゃんマジかわいい。


「よっしゃ、じゃあ頼むぞリリ!行くぞコロネ!!」


 言って、私はコロネを担いでリリに乗り込むのだった。

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