第10話 古代龍カエサル

「なっ!?」


 私とコロネと領主が一斉に驚きの声をあげる。

 

 この手の形状は見たことがある。

 召喚術の一種で、召喚魔法ゴールドハンド 巨大な手であらゆるものを握り潰してしまう。

 レベル10くらいの二人では一たまりもなかったのだろう。

 いきなり殺すとか!?まじありえない!?

 露骨に口封じにきたと見える。


 私は咄嗟に呪文を唱えると二人の亡骸を石化させた。

 復活の呪文は、一定時間死体が経過してしまうと復活できなくなってしまう。

 その為石化させて、時を止めておく必要があるからだ。

 私は復活の呪文がいつでも効く状態にしたあと、殺気のする方に視線を向ければ、城壁の方に何やら動く影一つ。


 私はそのままコロネの首根っこをつかむと、その人影に向かって瞬間移動をするのだった。



 ▲△▲


「えー。こっちの場所がわかるとかまじありえない。

 何なの闘う気?」

 

 私とコロネが少女から少し離れた所に降り立つと、魔導士姿の少女がつぶやいた。

 いかにもロリっ子といった感じの長いピンクの髪の美少女だ。

 少女と私達は城壁の上で対峙する格好になる。


「いきなり攻撃してきたのはそっちだろう?」


 言いつつ、私が構えたまま鑑定してみれば、


***


 職業:召喚士・魔法使い

 種族:エルフ

 名前:ラファ

 レベル:200


***


 と、でる。うん。職業二つ持ちということはプレイヤーで間違いないだろう。

 このグラニクルオンラインはキャラクターが一人しか作成できない都合上、1キャラで職業が二つ選べるのだ。

 ちなみに私は【トラップマスター】と【死神】の二つである。


「面倒なのよねー。君みたいなさ、正義感あって変に実力あるプレイヤーって。

 女神様の計画の邪魔っていうかー?」


 聞いてもいないのにラファがペラペラ喋り出す。

 うん。話の内容からすると、どうやら敵意満々らしい。


「漫画の悪役じゃあるまいし、そんなペラペラこちらに事情を話していいのか?」


 私が構えてラファに聞けば

 

「構わない感じー?どうせすぐ君たち死ぬし」


 言ってラファがにんまり笑えば


「猫様っ!!!」


 コロネが私に手を伸ばしてきた。そして、それは発動した。

 一体いつからあったのか、私の足元に魔方陣ができあがっていたのだ。

 しまった!?あらかじめ用意でもしてあったのだろう。

 私がラファを睨めば、魔法陣の光に包まれながら――最後に見たのはあっかんべーをしているラファの姿だった。


 ああああ、くそっ!!ハメラレターーー!!



 △▲△


 

 心の中で毒づきつつ、気が付けば、そこは山肌剥き出しの山のような場所だった。

 私の足元には魔方陣があり、隣には私にしがみついたのか、一緒に転移したコロネが倒れている。

 そして――その目の前には何故か真っ黒い龍。

 巨大なドラゴンが私とコロネを睨みつけ、黒いドラゴンの後ろには今にも死にそうな真っ白なドラゴンが血だらけで横たわっているのだ。


 ――うん。状況がさっぱりわからんが、とりあえず超ピンチ✩という事だけはわかる。

 ラファの魔方陣で強制転移させられたのだろう。

 あんのピンクロリめ!?なんつー所に転移してくれたんだ!!


 刹那――。

 

 真っ黒なドラゴンが私を見て、目を細め、まるで馬鹿にするかのように鼻を鳴らすと、問答無用でブレスを放つ。


 ちょ!?

 いきなりとか!?


 私はコロネを抱えて、そのまま瞬間移動でそのブレスをなんとか避けた。


 が、マジでやばい。

 

 正直カンで動いただけで一瞬でもコロネを抱きかかえ瞬間移動するのが遅れていたら、即死だった。


 私は攻撃を避けつつ、黒いドラゴンを鑑定スキルで鑑定すれば……


***


 種族:古代龍(エンシェントドラゴン)

 名前:カエサル

 レベル:1200


***


 と、でる。



 うん……?レベル1200……だと!?


 はい。どう考えても無理ゲーです。

 ちょ!?こっちのレベル200だよ!?コロネだってレベル143だ。

 レベル100差の時点でレベル補正でダメージが0になるのに、レベル1000差ってなんだよ!?

 マジ洒落にならないんですけど!?


 コロネを担いで瞬間移動で攻撃を避けまくれば


「…ねこ…さま?」


 コロネが目を覚まし、古代龍の姿にぎょっとする。


「あの漆黒の龍はまさか!?古代龍カエサル!?」


「知ってるのか!?」


「はるか昔、異界の神々に寝返り、神を滅ぼそうとした邪龍です!!

 エルフの結界でカルネル山脈の奥底に封印されていたはずです!」


 と、コロネ。

 くそぉあのロリ幼女め。 

 あの古代龍に私たちを殺させるために、私たちをここに転移させたわけか。


 などと私が歯ぎしりしていると、それは唐突に入ってきた。

 変な表現かもしれないがそう表現するしかないのだ。


 唐突に、血だらけで倒れてる白いドラゴンの思考が入ってきたのだ。


 その白いドラゴンの説明によるとこうだ。


 いきなり古代龍に襲われて、命懸けで神龍を召喚したら何故か私達が召喚された。

 間違えちゃってごめんね✩

 とのこと。


 うん。間違いなら仕方ないよね。

 そう、間違いなら仕方ない。


 大事なことなので二回言いましたとも!


 まぁ、恐らく白いドラゴンが召喚に失敗したのも、ある意味私たちのせいなのかもしれない。

 あのロリっ子魔女が何か細工をしたのだろう。

 ああ、本当にムカツク。本来ならレベル200の雑魚が、レベル1200の格上など相手にできるわけなどないのだが。

 私にまったく勝算がないわけではない。


 そう、昔レイド戦でゲットしたレアアイテムがあるのだ。


「コロネっ!お前は白龍の回復を頼む!

 自分はあのカエサルを倒す!!」


「た、倒す!?ですか!?

 いくら猫様でも、あれはレベル1200の神級の力を持つ邪龍です!!倒せるわけが」


「いいか、コロネ!倒せるかが問題なんじゃない!!

 倒さなきゃいけないんだ!!」


 わりと中二病のセリフを叫び、私はコロネのローブにポーションを突っ込む。

 そしてそのままコロネを白龍めがけて投げつけた。

 うん。もちろんコロネにはシールドの魔法はかけたので、白龍にぶつかった所で無傷になるように計算している。


「猫様っ!??」


 コロネが抗議の声をあげて吹っ飛んでいくが無視して、私はカエサルに向きかえった。

 正直言い争いなどしている暇はない。適当に納得してもらうしかないのだ。

 カエサルはほぅっという感じで目を細めたが、気にしない。


 私のカンが告げている。もしここでコロネと二人で逃げた所で逃げ切れないと。

 これでも昔からカンだけは異様にいいのだ。

 今は自分のカンを信じるしか手立てはない。


 ――逃げ切れないなら全力で倒すまで。

 勝算は0じゃない。



 私はアイテムボックスから超レアアイテムを取り出した。

 私がゲームと同じく念じるだけで手の中にすっぽりとそのアイテムは現れた。


 

□□□□□□□□


【闇の女神の涙】使用回数2回 レア度:✩5

 女神アルテナが人間達の欲望に失意して闇に堕ちる前に流した涙が水晶化したと言われるアイテム。

 攻撃したい相手の身体の一部をささげ、使用すると、敵の90%のHPを奪いさり、一定時間回復不可能状態にする。


□□□□□□□□


 そう、これが私の切り札。

 鱗でガッチガッチに固めてあるドラゴンから身体の一部をもぎ取るのは至難の技だがそこはどうにか乗り切るしかない。

 さぁ、勝負だ。古代龍カエサル。

 

 レベル200の雑魚の悪あがき、とくと味あわせてやろうじゃないか。

 絶対あの性悪幼女の思い通りの展開になどなってやるものか。


 こうして、私と古代龍との戦いがはじまった。

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