第4話 聖杯ファントリウム

「さぁ、勇者様。腕輪をどうぞ」


 言ってにっこりと絶世の美女が私の腕に呪いのかかった腕輪をはめようとし


「どうですか。猫様。納得していただけましたでしょうか」


 と、謁見の間の天井のシャンデリア部分から声が聞こえる。


「なっ!??」


 突然の声に私を除く他の人物が天井に視線を向けた。

 そこに居たのは緑色のローブを身にまとい、壊れているのだろうか?穴の空いた金色の聖杯を抱えた、エルフ耳のイケメン中年。

 そう、捕まっていたはずのコロネ・ファンバードだ。


「あー、うん。

 こいつらマジえげつない。

 コロネの主張が正しかったみたいだな。

 疑って悪かったな」


 と、私が言えば


「いえ、片方の意見を鵜呑みにせず、きちんと己の目で真実を確かめようとするその姿勢。

 このコロネ・ファンバード感服いたしました!」


 と、やたら大仰なポーズをとり言うコロネ。


「貴様!!コロネ・ファンバードか!?

 もしやその聖杯は!?」


 国王が椅子からガタッと立ち上がる。


「はい。貴方の部下が私たちエルフから盗み出した聖杯ファントリウムです。

 返してもらいにこうして参った次第です」


 にっこり微笑むコロネ。


「どういう事ですか!?勇者様!!まさか私たちを騙したのでしょうか」

 

 お姫様が私を睨むが


「人に従属の腕輪をはめようとしてよく言うな。

 プレイヤーには鑑定のスキルがあるのを知らなかったのか?」


 と、私がその腕から腕輪を取り上げる。


「――!?」


「衛兵達よ!その者を捕らえよ!?」


 と、国王が兵士たちに指示を飛ばし、何がどうなっているのかわからない青年魔導士三人組はアワアワしている。

 だが――甘い。

 コロネにこうなる予想は聞いていたのだ。

 悪事がバレれば、私たちを捕らえようとするだろうと。

 私は何も対策をたてないで、城に乗り込むなんてことはまずしない。

 そう、安全第一主義なのだ。


 うん、本当に安全第一主義者なら、城に乗り込むだなんて危険な事はしないのだろうけれど。

 でもまぁ、騎士達のレベルを見れば20〜30。

 レベル200の私の敵じゃない。


 既に城にの下に、土魔法と氷魔法を駆使して大きな魔方陣を描きあげている。

 トラップ発動に必要な魔方陣を。

 私がVRMMOにおいて、トッププレイヤーと言われていたのは、魔法で一瞬で好きな大きさの魔方陣を描きあげる事ができたからだ。

【罠師】の上級職【トラップマスター】の職業は伊達じゃない所を見せてやろう。


【愚者への束縛!!】


 私が罠を発動させると同時、コロネとお間抜け魔導士3人組みを除く、その場に居合わせた者全員が、鎖に絡まれるのだった。



 △▲△


 話はトルネリアの砦のモンスターたちを相手をしている所まで遡る。


 私はトルネリアの砦から瞬間移動で飛び出し、モンスターの大群に向かっていた。

 モンスターの数はザッと……数え切れない。

 うん、よくもまぁこんなにモンスターを集めたものである。

 これが普通のプレイヤーなら倒すのにそれなりに時間がかかっただろう。

 だが、私にかかればこれしきの数、敵ではない。

 レベル200の私にとってはレベル20〜60のモンスターなど、雑魚に等しいのだ。

 しかも、ゲームの仕様そのままならレベル100差あれば、レベル補正でダメージ0のはず。

 まぁ、ここは実はゲームと仕様が違いました!などという事があるかもしれないので、後できちんと確認しておく必要があるだろうけれど。


 私はモンスターの大群の前にストンと降り立ち、地面に両手をついた。

 同時に詠唱し、土魔法でモンスター全員を飲み込むほどの巨大な魔方陣を一瞬にして描きあげる。

 そう、私がグラニクルオンラインで上位プレイヤーだった所以は、大地に繊細な魔方陣を一瞬で好きな大きさに描きあげられることにある。

 というのも罠スキルかなり強いのだが発動条件がなかなか厳しい。

 トラップに必要な条件は魔方陣の上に対象者を乗せる事。

 普通の罠のスキル持ちは魔方陣を描いた布を持ち歩いているのだが、必ずしもその布の上に敵が乗ってくれる保証などどこにもない。

 それ故、罠師は強力な力があるが使い勝手が悪いと、不人気な職だったのだ。

 私はそれを好きな場所に好きな大きさの魔方陣を土魔法で描きあげるという技で克服したのである。

 言葉でいうのは簡単だが、考えてもみてほしい。

 何も見ないで魔方陣をかきあげる。

 これがどれほど難しいことか絵を描いたりする人ならわかるはずだ。

 複雑で繊細な魔方陣を間違える事なくかきあげるなど普通はできるわけもなく、それこそ私はゲーム内でかなりの努力をした。

 血のにじむような無駄な努力をし、かなり数のある魔法陣の一つ一つを覚え、それを土魔法をコントロールして描けるまでになったのだ。

 うん。リアルだったら、ゲームに何ムキになってるの!?とドン引きされるレベルの話なのでとてもじゃないけど言えないけれど。

 今こうして役だっているのだから結果オーライである。

 

 私は敵全体を魔法陣の中に入れ込み、罠発動の対象者を魔物だけに限定し、トラップを発動した


「トラップ発動――【死神の演舞!!】」


 私の言葉とともに現れた黒い骸骨の顔をした死神達が、無慈悲にもモンスター達の首を跳ねるのだった。



 △▲△


「これは……どういうことだ」


 私が満足げに倒したモンスターの死体を眺めていると……遠くの方から馬にのった集団が現れた。

 よく見れば全員エルフ耳の、エルフ達と思われる。

 これがあれだろうか、モンスターを砦に煽動したエルフということだろうか。


「貴様一体何をした!?」


 わりといかつい隊長格らしい怖面のエルフが私に剣を向けて叫んだ。


「見てのとおり、砦に向かっていた魔物を倒したんだが。

 やっぱりこのモンスターを砦にけしかけたのはアンタ達エルフなわけか?」


 私は聞きつつ、エルフ達をざっと鑑定のスキルでレベルを調べる。

 大体60〜80といったところで、私の敵ではない。


「何を馬鹿な!!元はといえば、お前たち人間が聖杯「ファントリウム」を我らエルフから盗み出したのが原因だろう!

 聖杯を取り戻そうとトラップが発動したにすぎぬ!それを我らのせいにするとは盗人猛々しい!!」


 と、いかついエルフが剣をこちらに向け、威嚇してくる。

 聖杯「ファントリウム」ってあれか。レベル100のカンスト時代にゲームの中のレイド戦ででてきた聖杯と同じ名前だ。

 てか、エルフさんがこちらに攻撃を仕掛けてきたのはいろいろ事情があったらしい。


「とにかく!貴様にはこちらに同行してもらおう!

 力づくでな!」


 と、騎士が吠え、他の兵士達もそれに習い、私を取り囲もうとしたところで。


「やめなさい!貴方達ではこの方に傷一つつけることもできません!」


 と、騎士達の更に後方から凛とした声が聞こえるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る