第5話 即死のコロネ
声とともに、騎士のエルフたちをかき分けて現れたのは中年のなかなかのイケメンエルフだった。
ローブ姿の杖をもった魔導士風の男性だ。
どこかで見たような、見ないような顔立ちのエルフなのだが……。
「我らでは傷一つつけられないということは…よもやプレイヤーか!?
くそっ!!センテール王国め!!プレイヤーをも操っていたというのは本当なのか!?」
いかついエルフが叫んだ。
プレイヤーを操るって何だそりゃ?と思ったがとりあえず様子見に徹する。
「この方から思惑誘導系の魔道具の魔力は感じられません。
貴方は少し黙っていてください。クランベール」
言って、魔導士は私の前に一人で歩みよると
「お久しぶりです。猫まっしぐら様」
と、ひざまつく。周りのエルフがどよめくが、こっちはそれどころじゃない。
やばい。こんな重要な局面なのにまったく思い出せない!この人誰だっけ?
「え、えーっと。久しぶり?」
ひざまつくエルフに、私は何と声をかけていいかわからず、とりあえず曖昧な笑を返した。
え、私こんなイケメンエルフ知らないのだけれど。
もしかしてプレイヤーか?
と、鑑定してみれば。
***
職業:大賢者
種族:エルフ
名前:コロネ・ファンバード
レベル:143
***
とでる。
ああ、コロネ・ファンバードって……
「もしかして即死のコロネ?」
つい、プレイヤーが呼んでいた愛称で彼に尋ねれば
「はい。そうです。覚えていてくださったとは。光栄です」
と、にっこり微笑むのだった。
△▲△
「え、えーっと、コロネってあの宮廷魔術師のコロネで間違いないよな?
帝国に仕えてて、魔獣セファロウス戦で聖杯を使ってた」
思わずもう一度聞いてしまう。
私の知るゲーム上のイベントNPCのコロネは、まだ若く、どちらかといえば青年といった感じだった。
だが目の前にいるコロネはどう見ても30代くらいの中年なのだ。
「はい。私の記憶が夢か幻でなければ、そのコロネで間違いありません。
猫様にはよく魔獣から守っていただきました」
言って、にっこり微笑む。
……うん。彼はゲーム中ではレイド戦で護衛対象だった。
コロネが殺されてしまうと、レイド戦失敗扱いになるからだ。
そのためコロネを守るのは私ともう一人のギルメンの役目だったため、そりゃもうコロネをよく守った。
ただ、守り方にやや問題はあったが。
グラニクルオンラインは主に二つにサーバーが二つに分かれる。
一つはガイアサーバー。こちらはお気軽サーバーで、戦闘はターン制。
敵とエンカウントすると、こちらの攻撃の時は敵が棒立で攻撃をうけてくれ、敵の攻撃のときはわかりやすい攻撃モーションをしてくるので避けやすい。
生産アイテムもアイテムボックスにアイテムさえあれば、ボタン一つで完成してしまう。
働いている人や主婦や学生などにも人気だったサーバーだ。
もう一つはアテナサーバー。こちらはガチ廃人向けサーバーで、戦闘はリアル戦闘モード。
つまりリアルで闘うかのごとく、本当に戦闘をしなくてはいけない。
敵もエンカウント制ではないので、戦闘開始場所が悪いと、敵に包囲される事などもざらにある。
生産アイテムもガチで一からつくらなければならず、本当にニートレベルのIN率でないと生産物一つ作成するのも難しいため不人気だったサーバーだ。
私がプレイしていたのはその不人気だったアテナサーバーだった。
その為、多人数参加型バトルのレイド戦も人の集まりが悪く、いつもギリギリの戦闘を強いられていた。
コロネの護衛に至っては、正攻法では人数不足で守れなかったため、投げたり、石にしてみたり、地面に埋めてみたりと、あらゆる事をしてみたので、かなり酷い扱いしかしていない。
う、うんあれを全部覚えているとか正直かなり後ろめたい。
が、コロネの方は気にしていないのか、ニコニコとした笑を浮かべている。
「ゲームの世界から開放されて300年。
もう二度とそのお姿を拝見出来る事など叶わないと思っておりましたが……。
まさか、再びこうして猫様と出会えるとは」
感慨深げにコロネが言うが。
うん。いま物凄いメタ発言したよね?ゲームの世界から解放されたって。
「ゲームの世界から解放された?」
「はい。プレイヤーの方々には信じがたい事かと思われますが、300年前、世界は突然システムから開放されたのです」
コロネの話によるとこうだ。
そもそも昔はこの世界はゲームの世界ではなかった。
言語も。植物も。魔法の仕組みも今と大幅に違ったのだ。
だがある日、唐突に世界はゲーム化してしまった。
コロネもゲーム化する前の記憶は曖昧で、何故ゲーム化してしまったのかはわからない。
だが、世界はVRMMOグラニクルオンラインとしてゲーム化し、人々は意思をもたないNPCとなった。
そして何年かゲーム化した後プレイヤー達がいつの間にか世界から去った。
プレイヤーが去った何年後かに世界はゲーム化がとけ、普通に動きだしたのだとか。
だが、その事実を覚えているものはごく少数。
コロネを含め数人だけだった。
他の人達はゲーム化した認識もゲーム化前の世界の仕組みすら覚えていなかったのだ。
300年たつうちにゲーム化した記憶があるのはいまでは長寿のエルフであるコロネだけ。
他の者はその事実すら知らず、何事もなかったかのように世界は進行しているのだとか。
「ってことは、やっぱりこの世界は『グラニクルオンライン』の中で、それも300年後の世界ってことか?」
「はい。そうなります」
と、コロネはさらりと言ってのけた。
こともなげに言ってのけるけどそもそも、システムから開放されたって、どうして開放されたんだろ?
まさか、地球でプレイしていたプレイヤーの命を取り込んで、現実世界にしてみました! とかいう恐ろしいオチだったりしないよね?
やだよ。怖いよ。ホラーだよ。
もしそうなら、早いところ現実世界に帰って、知り合いみんなゲーム止めさせないとやばい。
うん。意地でも帰る方法を探さないと。
「……所で一つ聞きたいんだが」
「はい。何でしょうか?」
「どうやったら元の世界に戻れるかとかって知ってたりするか?」
私の問いにコロネは、少しうつむいた後黙って首を横に振る。
はい。デスヨネー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。