17話

「さて、私の相手はあなた方ですか」


上級悪魔のヒルデスハイムも指示された場所で戦闘を開始しようとしていた。

彼のスキルは《鑑定》。

ありふれたスキルではあるが、永い時を過ごす悪魔の《鑑定》は物の良しあしを見分けるだけに留まらない。

戦う相手の情報を読み取り、戦力判断ができる。

彼は個人としての強さは悪魔の中では高い方ではないのだが、そのスキルによって戦う相手を選び、生き続けているのであった。

ただし、そうやって培った戦闘能力は人間に太刀打ちできるものではない。



「(そのはずなのですがね……)」


ランドールを従えているあの人間。あれは別格だ。

自分の《鑑定》スキルを全てはじいてしまった。

彼はいままでどんな強大な相手でもその強さの一端くらいは理解することが出来た。

それによって逃げたりしていたのだから。


「(しかし、あれは無理でしょうね)」


それほどまでにユウトの存在は埒外であった。



「悪魔め!我らが討伐してくれるわ!」


ヒルデスハイムは自らの前に立ちはだかる人間たちを一瞥し、すぐに興味を失う。

「敵」と呼ぶにはあまりにも弱かったからだ。

それもそのはず。

ユウトは戦闘が得意ではないヒルデスハイムを訓練生のいるところに送っていたのだから。


「(こちらのことは筒抜けですか……。いやはや、一体何者なのやら……)」


訓練生の攻撃をするすると避けながらさらに考えを巡らせる。


「(複数のスキルを持っているようだというところまでは察しがつきますが、さて。どういった絡繰りなのでしょう?)」


本来、スキルは一個人に一つである。

それは人間も悪魔も例外ではない。



「くそっ! なぜ攻撃が当たらない!」

その間も攻撃をし続けていた訓練生たちはほぼ全員息があがっている。

息のあがっていない数人は実力があるが故に既に諦めて静観している者たちだ。

《鑑定》を極めると次に相手が何をしようとするのかが筋肉の動きなどを見ればわかるようになる。魔法も口の筋肉の動きで予想できる。

洗練されていない予備動作だらけの訓練生の攻撃ではヒルデスハイムに一撃も加えることはできない。



「そろそろですかね」


考えを打ち切り、訓練生に向き直る。


「お疲れさまでした。《眠りの歌》」


対象者にしか聞こえない悪魔の歌が辺りに響く。

彼は魔法も得意というわけではないので、相手を消耗させてからこういった状態異常を引き起こす魔法を使うことが多い。

相手が悪魔という極限状態で戦っていた訓練生たちは次々に眠りに落ちていく。

まぁ、ヒルデスハイムにしてみれば戦闘をしているとすら感じていなかったのだが。


「さて、これ以上の危害をあなた方に加えるつもりはございませんよ」


初めから諦めていた数人に声をかける。


「ユウト様は情報をお求めのようですからね。この国のことを色々と教えていただきましょうか?」


彼は戦いもせず、持ち場を制圧したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る