3話

ちなみに言おう。

俺は一人暮らしだ。

俺たちの住む国は治安がいいとは言えず、親は昔に戦争で死んでしまったらしい。村長の家に引き取られ、途中まではキィラの家にお世話になっていたのだが、成長してほとんど全てのことを自分で行えるようになってからは親と住んでいたらしい家に一人で住んでいたのだ。



だから夜にプリュムを連れて帰ることは難しくなかったのだが……。


「ユウトが女の子を連れて帰ってる!!」



翌朝騒ぎになった。そりゃそうか。


「ユウト! あんたその娘どこから拾ってきたのよ!」

「夜にスキルの練習してたら見つけたんだ。どうも記憶がないらしい」


昨日考えていた言いわけをさも当然かのように言う俺。


「ほんとなの!?」


キィラがプリュムに詰め寄る。

ぎゅっ。

俺はプリュムに暴れるのを禁じているのでどうしていいかわからなくなったのか抱きついてきた。


「もう手懐けたの?」


いや、言い方!


「今のところ俺しか信用できないと思ってるんだろうさ。そんなわけで俺と一緒にこの娘住むから。よろしく」


適当に挨拶しておく。



大人たちは俺がということを知っているので比較的すぐに了承してくれたのだが、


「なんでよ! なら私も一緒に住む!」


とかわけのわからないことを言っていたキィラは親に引きずられて帰っていった。まだ納得してなさそうだったけどまあいいか。


「じゃあこれから一緒に暮らすけど、おとなしくしてろよ?」


と言うと、こくこくとうなずく。いい子すぎる。シルとは違うな。



家に帰ってとりあえず不便だからと読み書きを教えようと思ったのだが、少々難航した。俺はプリュムと思念(?)みたいなので意思疎通はできるようにしたのだが、なんとドラゴンには言語という概念がないらしい。道理で思念(?)もカタコトで要領をえなかったわけだ。



というわけでとりあえずこういうものがあるよというのを教えるところでやめておいた。まだまだ先は長いからな。ゆっくりでいいだろう。

そういうわけで夜に向けての作業にはいったわけだがこちらはすごいとしか表現できない役立ちようだった。人モードのときは力をコントロールできるようで一般の人間の力に留めておけと言っていたのだが、俺が水瓶を運んでいるとひょいと奪い取ってしまった。

驚愕もさすがドラゴンで片付け、急いで周りを見回す。誰もいない。


……。



よし、解禁! 楽だし。

そこからはプリュムの力で通常の4倍くらいの量の水を確保し、なんと俺がこそこそと風の魔法の《かまいたち》で切ってたのだが、プリュムはなんとチョップで薪を割れることが判明。手で力尽くで木を割れるって相当な圧力が一点にいってないと無理だぞ……。氷は作れるし。一家に一台……、じゃない。1匹欲しいって感じだな。



食べ物はとりあえず味が優しめのものにした。いくらなんでも動物をまんま食べたりするような成長はしてほしくない。ささやかな試みが成功してほしいものである。なんか子供の世話をしている心境に陥りつつある。とはいえ人間の姿のままずっと過ごさせるのもなぁ……。



少し考えた結果みんなが寝た夜に外に出すことにした。


範囲監視スコープ


これは《狩人》時代のスキルで広範囲にわたり存在の知覚を行うというものだ。基本的には半径100メルで常時展開しているのだが、今回は最大の半径10キルまで広げた。


「だいたいこの範囲までなら大丈夫だから羽を伸ばしてこい」


文字通りの意味で。

そしてプリュムがドラゴンの姿に戻り、たどたどしいながらも人として歩くのよりは楽らしく飛んでいく。


「あれ乗りたいなぁ……」


上手くなったら乗せてもらおうと心に決めるのであった。



ただ、俺は失念していた。半径10キルのなかで上空を飛ぶのだからそれより遠くからでもその姿を確認できるということを。



そして、その見落としは翌朝、プリュムの気配を感じられないことに気づくことで牙をむく。

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