2話

「シルエラなのか……?」


そこには前の俺と冒険をした顔なじみが立っていた。


「---様なの? 本当に?」


言っていることの一部が聞こえない。文脈的に俺の昔の名前を呼んでるんだろうけど……。俺は昔の俺を認識できない。どうしよう……。


「あ、そうか。---っていうのはわからないんだった」


むこうもそのことを思い出してくれたらしい。


「えっとね、あなたいろんなスキルを持ってたりしない?」

「ああ、持ってるよ」

「てことは最初のスキルは《転生》だったりしない?」

「そうだよ、シルエラ」


証明として名前を言ってあげる。



「やっぱりだー!! ーーー様と会えた! 良かったよー。うわぁーん」


泣きがはいってる。


「いや、俺は今ユウトだ。昔の俺の名前はわかんないから」

「そうだよね。じゃあユウト君って呼ぶね」


こいつはシルエラ。俺が《大賢者》だった時に一緒に冒険していた《魔法使い》だ。へっぽこだが。


「なんでお前がここにいるんだ? おれは何十年と言わずもっと前に死んだはずだろ? いくら俺より小さかったとはいえまだ生きているはずがない」

「よくぞ聞いてくれました!!」


なんだよ急に。テンション上がりすぎだろ。



「---様っじゃない。ユウト君は大賢者の時に特殊技能エクストラスキルで《時渡タイムリープ》を完成させたでしょ?」

「うん、だがあれは結局誰に教えても俺しか成功しなかったはずだけど」

「ユウト君が死んだあとも、いろんな人が挑戦して諦めてたんだけど。私は諦めずに! 延々と試行錯誤を繰り返した結果が今です!!」


褒めて褒めてって感じでこっちを見るなよ……。

「それはすごいな。あのお前が……」

「でしょでしょ!」

「だが俺はシルエラにこんな気安くしゃべっていい許可なんてだした覚えないんだけど」


そういって俺は《威圧》を発動させる。


「ひぃっ、ごめんなさいごめんなさいもうしません許してください」


あれ?


「お前こんなに怯えてたっけ?」

「いやユウト君の《威圧》が強くなってるんだよ……」


そうなのか。あ、そういえば


「《魔王》の時に確かに強くなった気がするな……」

「そんなことしてたのユウト君……」


それはそれとして。


「誰を君付けで呼んでるのかなー?」

「ごめんなさいユウト様」


頬をぎりぎり引っ張るとすぐに昔の呼び方に直した。


「でも私がユウト様に様付けしてるほうがおかしくないですか?」

「知るか」


腹が立つだろ。


「そんなぁー」



グルルゥ。

あ、忘れてた。


「悪かったな。ほうったまんまにしてて。そういえばシルエラはなんで俺が俺だとわかったんだ? 容姿も全くかけ離れているけど」


ドラゴンを撫でながら気づいたことを聞いてみる。


「昔みたいにシルでいいですよ。そりゃ10歳かそこらでドラゴンを呼び出してる人見たら疑いますよ……。ありえないじゃないですか」


それもそうか。


「ちなみに言っとくけどこのドラゴンは呼び出したわけじゃないぞ?」

「じゃあどうしたんですか」

「《創造》した」

「は? じゃあユウト様はこのドラゴンの存在概念を《創造》したってことですか?」

「伊達に時渡を完成させてないな。呑み込みが早くて助かる」

「えぇ、まぁわかってましたよユウト様がそういう人なのは…」


フンス!

ドラゴンが自慢するかのように胸を張る。

いちいちドラゴンって言うのおかしいな……。


「じゃあお前の名前はプリュムだ。これからよろしくな」



名付けたはいいものの、


「シルは野宿でいいとしても世話を頼むのはさすがになぁ」

「やめてください。一晩で灰ですよ」

「いやプリュムは氷竜だから氷漬けになるだけで済むぞ」

「いやそれ人間が死ぬには十分ですから!」


防ぎようはあると思うけどなぁ。


「よしプリュム。人間に化けてついてこい。記憶がない体でいくぞ」


そういって俺は《賢者》時代の魔法を発動させる。


擬人化オルト・ヒューマン


するとプリュムの姿が縮み、どんどん小さくなって……。

とうとう6歳くらいの女の子になった。


「お前メスだったの!?」


衝撃である。シルの登場なんぞ比べ物にならない。


「なんでですか! 私けっこう頑張ったんですけど!」


見た目が幼いのは俺が創造してから成長しているからか。


「言葉はしゃべれるか?」


と聞くと、ふるふると首を振る。さすがに厳しいか。


「じゃあ俺がうまく言うからなんとなく合わせてくれ」


そういって歩き出すと

こてんっ。

追いかけようとしたプリュムが転んだ。ドラゴンとしても歩いてないのに人に化けたなった状態で歩けないのは当然か。

なので……。



ひょいとプリュムを抱きかかえ、連れて行くことにする。


「じゃあ俺たち戻るから。そこらへんに隠れててくれ」

「お姫様抱っこ……。私もしてもらったことないのに……」

「おい、聞いてる?」

「あ、はい! 見つからないようにします」

「くれぐれも注意しろよ」


そう言ってシルを置いてプリュムと2人で、いや1人と1匹で村に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る