第5話

「生存者はこれだけかっ!!」

 冒険者ギルド職員が、怯えた様に一か所に固まっている村人に尋ねた。

 そこにいる村人は貌は汚れ、衣服はぼろぼろだった

 老人、子供、乳飲み児を抱かえた女達だった。

「一列に並んで、馬車に乗ってくれ!」

 救援に参加していた冒険者の1人が、切羽詰まった声で告げる。

 村人達はゆっくりと立ち上がって馬車に乗り込んでいく。


『(村一つを襲撃した割には、

 ゴンザレスは、馬車に乗り込む避難者を見ながら貌を顰める。

 しばらく何か考え込むと、『』に持ち込んでいる、携帯無線機トランシーバーなく使う

「 「ナナシ」へ こちら『ゴンザレス』 状況を知らせてくれ オーバー」

 ゴンザレスが携帯無線機トランシーバーで尋ねる。


『 こちら『ナナシ』 村の井戸水付近にてゴブリンを掃討並び、逃げ遅れの

 住民がいないか探索中! アウト』

 携帯無線機トランシーバーから、雑音混じりの声が返ってくる。

  「こちら『ゴンザレス』 「ナナシ」ヘ  慎重に行動しろ。

 やけに がいる

 可能性があるオーバー」

 ゴンザレスが返答する。

 すぐに返答が返ってくるはずが、返ってこなかった。



「こちら『ゴンザレス』  「ナナシ」ヘ  ゴブリン狩りに夢中になるのは

 良いが、優先順位は村人の保護だぞ? オーバー」

 怪訝な表情を浮かべながら、ゴンザレスが尋ねる。

『 こちら『ナナシ』!!  「ゴンザレス」へ  村の井戸水付近にて厄介な『ゴブリン』を発見した!!

 繰り返す!! 厄介な『ゴブリン』を発見した!! アウト』

 突然、 携帯無線機トランシーバーから怒鳴るような声が聞こえてきた。

「こちら『ゴンザレス』  「ナナシ」ヘ!! 発見したのは!?

 オーバー」

 ゴンザレスは、貌から血の気が引くのを感じながら、怒鳴る様に尋ねる。

『こちら『ナナシ』 「ゴンザレス」へ だっ!! 繰り返す、!! アウト』

  携帯型無線機トランシーバーから、再び雑音混じって興奮した声が返ってくる。

「こちら「ゴンザレス」 『ナナシ』へっ!! そいつは『』しろっ!!  オーバー」

 ゴンザレスは、怒鳴る様に返答する。



『こちら『ナナシ』  「ゴンザレス」へ!! 『ウィルス隊』もしくは、

『デニーロ隊』から至急何人か右側側面に回してくれ!!  逃げ遅れた村人を発見した!! アウト』

  携帯型無線機トランシーバーから、早口返ってくる。

 聞こえた状況を聞くと、すかさずゴンザレスは小さな口笛を吹き合図をする。

 警戒態勢の『ウィルス隊』と『デニーロ隊』が視線を向けてくる。

 手短く手信号ハンドシグナル…をする。

『デニーロ隊』と『ウィルス隊』から、それぞれ1人が親指を立て周囲に視線を向けながら集団から立ち去っていく。



 ゴンザレスが何か言おうとした時、周囲を警戒していた『ウィルス隊』と『デニーロ隊』が、M1991A1をホルスターから素早く抜き、撃鉄を起こして発砲した。

 密かに忍び寄っていた『ゴブリン』の群れに、銃弾を撃ち込んでいる様子だった

のニコライさん!! いつでも避難できるように

 しておいてください――――――『ナナシ』ヘ! 逃げ遅れの住民保護及び

』の排除を終えたら、急いで戻れ!! 」

 ゴンザレスは、冒険者ギルド職員に告げ、そして携帯型無線機トランシーバーで連絡した。



 平時なら村人達の憩いの場として使われていた井戸周辺には村人の姿は

 なかった。

 子供達の歓声が響く事もなく、そぞろ歩きをする親子連れや恋人同士の姿もなかった。

 代わりに醜悪な『ゴブリン』の群れが付近を埋め尽くしており、そんな中を

 ナナシは、10人規模のハリウッド俳優貌を引き連れて死闘を演じていた。



『キアヌ・リーブス』隊と『ドルフ・ラングレン』隊は、群がってくる

『ゴブリン』に、容赦なく銃弾を見舞う。

『ゴブリン』にとっては、哀れな獲物ではなく死神の群れだ。

 くすんだ様な色の青空の下、『ゴブリン』は銃弾を撃ち込まれ、緑色の液体を

 まき散らしながら倒れていく。

 ナナシの方は雄たけびを上げ、

 西ヨーロッパの刀剣の一種――――ロングソードを握りしめて、他の

『ゴブリン』をかき分ける様に出てきた『黒ゴブリン』に向かって、

 襲い掛かっていた。

 その『黒ゴブリン』は、全身が闇よりも濃い肌だった。

『黒ゴブリン』の口から、怒り狂った叫びを発する。



 暴風にも似た刃風の連続で、ナナシは『黒ゴブリン』を圧倒する。

 一撃一撃が速く、『黒ゴブリン』はじりじりと後退を重ね、額から小さな汗の玉を飛散させた。

『黒ゴブリン』は、迫る眼の前の恐怖を振り払おうと必死になった。

 だが、ついに耐えかねた『黒ゴブリン』は、握りしめていた剣を引こうとした。

 その隙を待っていたと言わんばかりに、ナナシは『黒ゴブリン』の両腕を

 素早く切り裂く。



『黒ゴブリン』は緑色の体液を両腕から噴き出させて、空気を震わすほどの絶叫を発した。

「ゴブリン狩りは最高だぜ」

 凄まじい笑みを浮かべながら呟くと、『黒ゴブリン』の顔面に蹴りを放ち、

『ゴブリン』の群れに叩き込む。

 巻き込まれた『ゴブリン』も無傷といかず、のたうち回って苦しむ。

 その光景を一瞥すると、右側側面にある建物に視線を向けた。

 建物からは、『ロバート・デニーロ』貌と『ブルース・ウィルス』貌が、

 それぞれ少年少女を抱き抱えて出てくるのが見えた。

「 『リーブス隊』 『ラングレン隊』 引き上げるぞ!! 殿は任せる」

 ナナシが怒鳴る様に告げながら、のたうち回って苦しんでいる『ゴブリン』に

 近づき、一匹一匹ずつ蹴り殺す。

 瀕死の『黒ゴブリン』は、ロングソードで頸を跳ね飛ばした。

「  行くぞ! 『』が道を拓く! !」

『黒ゴブリン』の頸を手に持ちながら、ナナシが大声で告げる。

『オウ!』

『リーブス隊』と『ラングレン隊』は、短く片言の日本語で返答すると、

『ゴブリン』の集団に銃弾を浴びせながら後退を開始した。






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