第75話 出自が判明した男
「それで、サトルどうする?」
シリウスの問いに俺は混乱したまま答えた。
「どうするって言われても何が何だかわからないんだが……?」
なぜ突然ラフィエット王国はそんな言いがかりをつけに来たのか? なぜシリウスが俺に問いかけてくるのかわからない。
「サトルさんはこちらの世界の人間のはずなのです。ラフィエット王国の主張は強引なのですよ」
リリアナもケモミミをピコピコと動かしながら首を傾げる。
「そうですよ。だいたい、悟さんの両親は悟さんを捨てて逃げたはずでしょう!」
翼が憤りを見せる。彼女には俺の生い立ちを話してある。俺の気持ちを慮って怒ってくれているのだろう。
「いや、恐らくサトルは俺たちの世界の人間だ。前々から見当をつけて話はしていた」
「そうじゃな、突然この世界に魔法を使える人間が生まれたというよりは、あちらの世界で生まれた人間がこちらに来てしまったという方が説明がつく」
「にしたって、どうやってここに? 魔法陣でも使ったということか?」
ラフィエットにはカタリナが仕掛けた魔法陣がある。過去に生贄として召喚された人間に代わり、転移させられた可能性を俺は考えた。
「その方法は定かではない。だが、核心に至る情報は一つだけあるぞ」
俺が考え込んでいると、シリウスが話を続けた。
「俺がサトルから聞かされている転移魔法のルール。そこに注目するとおかしなことがわかる」
「移動の距離や、ゲートの大きさですか? リリーにはおかしな点は見当たらないのですよ」
何を見落としているのか、俺は喉を鳴らすとシリウスの言葉の続きを待った。
「転移魔法は【一度行ったことがある場所にしか移動することが出来ない】これがあるからサトルはこれまで転移魔法を使う際に一度その場所に行く必要があった」
「それはそうですけど……それって……あっ!」
翼が口元に手を当てる。
今まで、俺は考えもしなかった。いや、最初に能力に目覚めた瞬間の出来事だから例外だと思い込んでいた。だが……。
「俺は幼い頃、プリストン王国にいたことがある?」
「ああ、王族だけが閲覧できる秘密資料にあったからな。プリストン王国で転移魔法の使い手が消息を絶ったという。あれは恐らくお前の事を記録したものだろう」
寝耳に水の話に、心臓の鼓動が激しくなる。
「そうすると、ラフィエット王国の主張は……」
「親父に問い詰めたら『事実だろう』と認めた」
シリウスの言葉に、その場の全員が沈黙する。
俺は突然自分の出自が明らかになったことで考えが纏まらず、身体が震える。
「サトル様は王族だったのですか……」
カタリナが俺を見上げてくる。その瞳には困惑やら複雑そうな色が宿っていた。
「だ、だけどサトルさんはサトルさんなのです。リリーが大好きなサトルさんはラフィエットなんて関係ないのですよ」
「私だって、悟さんを好きになったのは彼が異世界人だからじゃない。ただの平凡な大学生の頃から惹かれていたもん」
リリアナと翼が俺の前に立つ。
「だが、俺たちの世界ではプリストンがサトルを幽閉していると言ってきている。他国の王族を幽閉ともなれば、俺たちは周辺国から批難されるのは間違いないな」
シリウスも険しい顔をするとそう言った。
「ですが、現在のところ、ラフィエットはそれを周囲に漏らすつもりはないのではないですか?」
カタリナがそう言うとシリウスは頷いた。
「そうだろうな、出自がはっきりする前に他国へサトルを連れていかれたら困るのはラフィエット側だからな。情報が漏洩すればより良い条件でサトルを勧誘しようとする国は多々あるだろう」
その言葉のあと、シリウスが俺を見た。
「もちろんサトルがそれを望むのなら仕方ねえ。俺たちにはお前を束縛する権利はねえからな」
「こちらの世界も同様じゃぞ。孫娘の縁で君を縛るつもりはないからな」
シリウスと総一郎氏がじっと俺を見る。俺は首を横に振ると、
「いや、俺としても自分を競売にかけるような行為は望んでいない」
「でしたら、秘密裏に処理してしまえば平気かと」
これ以上俺の情報が広まらないと聞いてほっと胸を撫でおろす。
「いずれにせよ、ここまで情報をつかまれている以上話し合いは必要であろうな。この手の騒動でうやむやにすれば遺恨を残すに違いない」
総一郎氏の言葉にシリウスも頷いた。
「ひとまず、この話はサトルの意向次第でどちらにでも転がる。今日は一旦休んで心の整理をしてもらわねえとな」
シリウスの言葉でその場は解散となった。
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