第74話王家の血を引く男
「魅音、よく無事で……また逢えるなんて……ああああっー!」
「お母さん、ごめんね。……ごめん」
目の前では泣きながら抱き合う母娘の姿がある。
失踪事件から実に数カ月ぶりに対面した音無親子は感動の再開を果たしていた。
「ううっ、ミオン。……グズッ。良かったですわ」
カタリナはそんな再会を見ながら涙を浮かべていた。
「使うのです、カタリナ」
「あ、ありがとう。リリアナ」
そんなカタリナにリリアナがハンカチを差し出す。
思えば、この二人。随分と仲良くなったものだ。
「これで、一件落着ですね。悟さん」
翼がそう言って俺に微笑んで見せる。ここ数日、彼女には忙しく動き回ってもらった。
「翼もお疲れ様」
「いえ、女性の世話は悟さんにはさせられませんし、魅音さんに出歩かれると大変なことになりそうでしたからね」
世間的に行方不明になっている魅音さん。それが目撃されたとなると、大ニュースになってしまう。
異世界が存在する話については、まだ情報が公開されていない。
現在は湯皆総一郎さんが政界に呼び掛けており、開示するための段取りを踏んでいる最中なのだ。
なので、今回の再会も場所を選び、湯皆の息がかかった施設で極秘に行われていた。
リリアナと翼、それにカタリナと四人で再会に立ち会っていたが、ふとカタリナに質問をする。
「次はカタリナを元の世界に戻さないといけないな」
彼女は俺が気を利かせて充魔した魔法陣のせいでこちらの世界へと転移させられてきた。
その魔法陣にしても反転効果のあるラプラスの魔石を使用し、魅音さんをこちらの世界に送り返すために用意していたので、カタリナはどれだけこの再会を望んでいたことか……。
「それなのですが、今のところ二つの世界が繋がったという話は秘匿しなければならないのですわよね?」
「ああ、そうだな。現在はシリウスと総一郎さん。他にはそれぞれ少数の人間しか知らない情報になる」
音無さんにも再会させる前に「秘密を守る」と約束をしてもらっているので、情報の扱いは徹底しているようだ。
「それだと、私が元の世界に戻るのはまずいのではないでしょうか?」
「どうしてだ?」
「恐らく、私が戻ると何があったか質問されることになるかと思います」
カタリナは真剣なまなざしを俺に向けてきた。俺はこれまでのカタリナを見てどのような性格か知っている。
彼女なら黙っていてくれると考えていたのだが……。
「今回の件で、ドラゴンどころではない転移魔法のことを知られてしまったのです。もしカタリナが戻ったら拷問してでも聞き出そうとするのですよ」
「もちろん、私は拷問されても喋りません。ですが、あちらの世界には相手を廃人にするのと引き換えに秘密を喋らせる薬も存在しております」
俺は拷問され、薬を投与されて目がうつろになったカタリナを想像すると気分が悪くなった。
「あんなところに戻る必要はないのです、カタリナ。プリストン王国に亡命すればいいのですよ」
リリアナはケモミミをピンと尖らせるとカタリナを説得しようとする。
「ふふ、ありがとうね、リリアナ。でも、私だけが逃げるわけにもいかないの。これは一族が背負った罪なのだから」
魅音さんの方をみてカタリナは覚悟を決めた表情を浮かべた。
俺がその姿にどう話をするか考えていると……。
「とはいえ、てめぇの自己満足のために計画を台無しにされても困るんだがな」
ドアが開き、シリウスが入ってくる。
「こちらとしても、性急にことを進めるつもりはないからな。まずは悟君がいなくても行き来できる方法を模索する必要がある。今回の件は大きな収穫じゃったがな」
どうやら総一郎氏と一緒だったらしく、こちらの会話を聞いていたらしい。
「で、ですが……」
不満そうな表情を浮かべるカタリナにシリウスはなおも言葉を続けた。
「それに、昨晩ラフィエット王国から連絡があったばかりだからな」
「それは一体どのような連絡なのです?」
俺が首を傾げているとリリアナがシリウスに質問をした。
「『転移魔法を扱う青年を引き渡せ。彼はラフィエット王家の血を引く者』だとよ」
シリウスを含めたその場の全員の視線が俺に集中した。
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