第71話凍らせる男

「フハハハハハハ」


 ドラゴンの笑い声が洞窟に響き渡る。


「何がおかしい?」


 俺は眉根をしかめ、不機嫌な顔をするとドラゴンに問いかけた。


「コレガワラワズニイラレルカ。イセカイジンガワレヲタオスダト? コウゲキマホウモツカエヌザコガムリニキマッテイル」


「どうして俺が攻撃魔法を使えないと思った?」


「キサマノマリョクニハレンドガナイ。コウゲキマホウハマリョクヲセイギョスルコトデツカエル」


 実は過去にリリアナに少しい教えてもらったことがあったのだが、魔力を属性に変化させる練習をしたができなかった。


 転移魔法などは無意識に扱えるのだが、どうやら俺にその才能はないらしい。

 ドラゴンはそれを見抜いていたようだ。


「アイツラヲニガシタコトヲクイルガイイ」


 ドラゴンはそう言うと、大きな口を開けて突進してきた。


 どうやら巨体で俺を押しつぶすつもりのようだ。


「当たると思うか?」


 俺は背中にゲートを開くとドラゴンの尻尾の先に転移する。


「コシャクナッ! クラエッ!」


 ところが、転移をしたと同時にドラゴンは振り返るとブレスを放った。


「くっ! 反応が早い!」


 俺は即座にゲートを開き崖の上に移動した。


「ソコダッ!」


 だが、ドラゴンはどうやっているのか移動した瞬間に俺の位置をつかんでブレスを放ってくる。


「しつこいっ!」


 タイミング的に移動が間に合わなかったので目の前にゲートを開きブレスを吸い込んだ。ゲートの出口はさきほどと同じように洞窟の外だ。


「イツマデモニゲマワルツモリカ!!!」


 ドラゴンの怒りが伝わってくる。俺はドラゴンの死角に回り込もうとゲートを開くのだが……。


「うおっ!」


 ゲートを小さめに作っておいてよかった。

 ドラゴンの尻尾が俺のゲートを殴打し、衝撃が伝わってくる。


「危ないところだった」


 どうやらこのドラゴンはゲートの出現を感じ取れるらしい。


「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル」


 崖の上にいる俺を睨みつけるとドラゴンが唸る。だんだん反応が早くなっているのでこのままではいずれ捕まってしまうだろう。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 俺がどうするか悩んでいると、足場に向けてドラゴンがブレスを放ってくる。あの巨体なので登ってくることが出来ないのだろう。俺を落としてかみ砕くつもりなのだろう。


「それはさせるわけにはいかないな」


 ゲートをコントロールしてブレスを逃がしてやる。今度の出口は洞窟内にした。ちょうどドラゴンが立っている場所の真上になる。 


 ブレスは真っすぐ天井に突き進み、


 ――ドガッ! ガラガラッ――


「グアアアアアアアアアッ!」


 ブレスにより天井が破壊され岩が落ちてくる。俺は腕を目の前に持ってきてホコリを遮った。


 地上では土煙が舞いドラゴンが生き埋めになっていた。


「やったか?」


 ドラゴンのブレスを利用して天井を崩した。落ちてきた岩はドラゴンの巨体を押しつぶし、煙が晴れると尻尾が見える。


 目を凝らし、倒せたかどうか確認しているとガラガラと岩が持ちあげられ転がる。

 そしてドラゴンの身体が露出した。


 ところどころに岩に潰された跡が残っていて、そこから赤い血が滲んでいる。

 この攻撃でとどめはさせなかったが、確かなダメージを蓄積させられたようだ。


「グルルッグルルッ」


 息が乱れているが、相変わらず俺を睨みつけてくる。


「しぶといな」


 お互いに身動きが取れず膠着状態になってしまった。

 ドラゴンは自分のブレスがこちらに利用されることに気付いたのか、慎重に俺の隙を伺っている。


 一方俺はというと、迂闊な場所にゲートを出してしまえば見切られてしまうので転移することが出来ない。


 にらみ合いはしばらく続き、


「なあ、そろそろ諦めてくれないか?」


 魅音さんは救出したし、これだけ痛めつければ人間の脅威は刷り込まれたはずだ。

 俺が問いかけるとドラゴンは憎悪を滾らせた。


「ナラヌ。コウナッテハモハヤドチラカガホロビルノミ。キサマガムカッテコヌノナラ……」


 ここにきてドラゴンは俺に背中を向けた。


「ソトニデテニンゲンヲコロシテマワッテヤロウ」


 出口に向けて進み始める。洞窟の出口には兵士が立っているのを確認している。

 動きながらも俺の動向を気にしているようだ。


 進行を阻止しようとすると即座にこちらに攻撃を仕掛けてくるに違いない。


「はぁ、仕方ない。消費するのを諦めるか……」


 俺は懐からある物を取り出す。

 それはシリウスを通じて入手した魔石だった。


「イマサラナニカスルツモリカモウオソイ!」


 まもなく出口に到達しようかというドラゴンに対し、俺は魔石を投げつける。


 次の瞬間――


 ――シュパンッ――


 ――魔石が弾け、周囲を白く染め上げた。


「な、何の音だ一体? ってこ、これはっ!」


 異変に気付いて外の兵士が入ってきた。


「ど、どうしてこんな場所にドラゴンが……」


 彼らは顔に恐怖を張り付かせると言った。


「凍っている?」


 俺が投げたのは【シュカブラ】という氷の高ランクモンスターの魔石だ。

 魔石は魔力を満タンにすることで同モンスターの特殊能力を一度だけ再現することが出来る。


「お、お前は一体何者だ!」


 兵士たちはゲートを足場にして宙に浮かぶ俺を見て警戒するのだった。

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