第68話聞き入る男

「いいからカタリナは寝ているのですっ!」


「いいえ、説明をするまではお断りしますっ!」


 リビングでリリアナとカタリナが言い争いをしていた。

 これから大立ち回りをしなければならないと言うのに……。


「だいたい、わが国の問題になぜあなた方が首を突っ込むというのですかっ! これは私が招いた問題なのです。ミオンを救うのは私の責任です!」


「違うのです! リリー達は別にラフィエット王国の為にするわけじゃないのです! 逆に今後生贄になる転移者を出さないためにドラゴンを退治するつもりなのですよ!」


 そう。今回の件を片付けるにはただ魅音さんを救い出すだけでは不十分だ。

 あの屋敷の地下の転移の魔法陣がある限り何度でもこちらの世界から人を拉致する事が出来る。例えあの魔法陣を潰したとしても、他にある可能性が否定できない以上は元凶を叩くのが望ましい。


 シリウスからは難色を示されたが、勝算が無いわけではない。

 俺とリリアナの連携を使えばドラゴンを倒せると思っている。


 カタリナは俺達の奥の手を知らないからなのか、とにかく必死に食い下がってくる。そして……。


「それならば私を生贄にしてください! そうすればドラゴンも怒りをおさめるはずです」


 カタリナは胸に手を置くとそう主張する。

 俺は驚きの表情を浮かべたが、それ以上にカタリナの言葉に吃驚したリリアナは。


「なっ! 正気なのです?」


「ええ。もとはと言えば我がラフィエット家の犯した罪です。祖父がミオンの生贄を強行したというならば私こそがその役目に相応しい……」


 そういって悲しみを浮かべる。そんなカタリナにリリアナは。


「そんなの認められるわけないのですっ!」


「どうしてっ! 私は家の利益のためにミオンを生贄にしようと召喚した悪人ですよ!」


 カタリナの言葉にリリアナはスマートフォンを取り出すと……。


「見るのです。この魔法陣を」


 そう言って画面を拡大してカタリナに見せた。


「これは当家の魔法陣ですよね。以前みせられましたわ」


「そうなのです。異世界人を拉致してきた忌まわしき魔法陣なのですよ」


「ええ、確かにその通りです。今思えば召喚の魔法陣に魔力をこめたのはサトル様なのですね?」


 流石に気付いたようだ。俺はカタリナの問いかけに頷くと。


「それよりこれが何だというのです?」


 その疑問にリリアナは答えた。


「真ん中にはまっている魔石を見るのです。これはラプラスの魔石」


 写真には確かに魔法陣の中央に魔石が嵌め込まれていた。


「魔石は魔力を満タンにすると、そのモンスターのスキルを解放することができるのです。そしてラプラスの魔石の効果は【巻き戻し】なのです」


「だから何だというのですっ!」


「召喚の魔法陣に使うべき魔石は【魔力減少】や【効果増幅】が望ましいとされているのです。ここで【巻き戻し】を使った意味があるはずなのです」


「そ、それは……」


 カタリナの勢いがなくなった。


「それはどういう意味なんだ?」


 変わってお俺がリリアナに質問をする。そうするとリリアナは言った。


「カタリナがここにいるのが答えなのです。通常、召喚した人間は元の世界に戻せないのが召喚の魔法陣なのです。だけど【巻き戻し】の効果を使えば一度だけならば元の世界に戻す……つまり送還の魔法陣を作る事が可能なのですよ」


 なるほど。理屈はわかった。


「つまり、カタリナは送還の魔法陣を必要としたってわけか。それはどうしてだ?」


 俺は質問をしつつカタリナを見ると。


「むろん、ミオンさんを送り返すために決まっているのです。カタリナはその為に魔力をこめる事ができる大賢者の再来を求めてプリストン王国にきたのです」


 カタリナの肩が震えている。彼女が泣きだすと、リリアナの推理が的を得ている事がわかった。


 リリアナはカタリナの肩に優しく触れると……。


「だから、カタリナが犠牲になる必要はないのです。カタリナが悪くない事はリリーが一番知っているのです」


 慈愛にみちたリリアナにカタリナは抱き着くつと泣き出した。

 しばらくしてカタリナが泣き止むと。


「私も……連れてって」


「まだいうのですか! 犠牲になる必要はないとあれほど――」


 リリアナは途中で言葉を止める。


「戦力は多い方がいいから。私にもドラゴンと戦わせてほしいの」


 覚悟を決めたカタリナ。先程までと違い、断固たる意志が見えていた。

 そんなカタリナを見るとリリアナは。


「ふ、ふん。リリーとサトルさんだけでも十分なのです……」


 後ろを向いて俺達から顔を隠すと……。


「で、でもそこまで言うなら手伝わせてあげるのです。足をひっぱるんじゃないのですよ?」


 カタリナの参戦を認めるのだった。



 


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