第65話脅す男

「良いですか。この線よりこっちに入ってきたら制裁を加えるのです」


「うぬぬぬぬ。捕虜の扱いが酷いですよ。国に戻ったら正式に抗議をさせていただきますから」


 あれから、俺達はカタリナを自分のマンションへと連れ帰った。

 それというのも、カタリナの家――ウィレット家が召喚した人間を生贄に捧げてると聞いたからだ。


 リリアナいわく「これは良い機会なのです。ウィレット家には失う苦しみを散々与えて今後の召喚をあきらめさせる交渉をするのです」と言った。

 なんでも、異世界人を召喚して犠牲にするようなやり方は国家として眉を潜める行為らしく、これまでも度々注意はしてきたらしい。


 だが、上からの命令という事もあり、ウィレット家はその提案をはねのけてきたのだ。

 今回、カタリナが失踪したことで交渉のテーブルを用意するのでそれが済むまでは預かって欲しいと。


 そんな訳でマンションに連れてきたのだが、部屋が余っている訳ではない。

 仕方ないのでリリアナと同室にしたのだが顔を突き合わせれば喧嘩ばかりしている。


「お前らよくもまあ飽きずに喧嘩するよな」


「サトルさんも何とか言って欲しいのです。捕虜の分際で生意気なのですよ」


「サトル様は私の味方ですよね?」


 左右からそれぞれが手を握っては目を潤ませて訴えかけてくる。こういう時だけは息があってるというか、寧ろ仲が良く見えるぞ。


「知らん。そっちの国際問題を家まで持ち込むな」


「ガーーンなのです」


「……そ、そんなぁ」


 ショックを受ける二人に俺は更に続ける。


「迷惑かけるようなら山奥に転移魔法で放り出すからな?」


 その言葉に二人は「ウッ」と言葉を詰まらせた。





「……だから。……ニターと…………すよ」


「ふーん。……めらでその場…………もにたー…………すね」


 何やら部屋の中から話し声が聞こえる。

 俺の牽制もあってかそれなりに仲良くやれているようだ。


「……じゃあ、……るのです」


「……いけど。……うからね」


 何やらゴソゴソととしているので気になるのだが…………。


 ――ピロン――


 【アナリーさんが配信を開始しました】


「おっ?」


 ツイスタグラムの告知があったのでタップしてみると――



『今日は特別ゲストを紹介するのですよ』


『ねえ。本当にこれでいいの?』


『良いから挨拶するのですよ』


『か、カナリーです。よ、宜しくお願いしま……す?』


 そこにはマスクを身に着けたリリアナと恥ずかしそうにもじもじしながらカメラに顔を向けるカタリナがいた。


「あいつら何やってんだっ!!」


 俺は呆れた声を上げるのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る