第64話見物する男

「ふぐぐぐぐ」


「うぬぬぬぬ」


 目の前ではリリアナとカタリナが両手を組み合うと睨み合いながらも押し合い力勝負をしている。

 俺の記憶が確かなら、リリアナは相当な怪力の筈なのだが……。


 あちらの世界の人間の潜在能力についていちいち驚いていたらきりがない。俺はお茶をすすると――。


「だいたい、何故ラフィエット王国の貴族がこっちの世界にいるのですっ!」


「それをあなたに言う必要はありません。プリストン王国の宮廷魔道士っ!」


 出会った時から険悪で、先程から言い争いをしている二人に俺は――


「というかお前らって知り合いだったのか?」


 質問をしてみる。


「……ええ。以前に国際大会で少々」


「魔道士部門の1回戦で当たったのです。それ以来、こいつは敵なのですよ」


 普段のリリアナらしからぬ態度だった。余程カタリナを意識しているのか?


「ふぅ。これだから礼儀を知らない下賤は……」


 勝者の余裕なのかカタリナはリリアナに侮蔑の視線を送るのだが……。


「な、生意気なのです。ちょっとはその胸と同じく慎ましい態度をとるのですよっ!」


 だが、その余裕は一瞬で消え失せ顔を真っ赤にする。


「なっ! ちょっと発育が良いからっていい気にならないでっ! 私はまだ成長期ですっ!」


 争いって同レベルでしか成り立たないんだっけな……。

 俺はリリアナとカタリナのある部分を見比べる。


 ふむ。カタリナはあいつと同程度か。


「二人ともそこまでだ。その話は間接的にある人物を傷つける」


 なにせ、もう女子大生になってしまっているのだ。成長の余地があるカタリナとは違い、既に成長期を終えている。


 俺がとある人物を揶揄するニュアンスを含ませると、


「へぇっ? 一体誰が傷つくんですかねぇ?」


 背後から肩を掴まれた。馬鹿なっ!? 気配を感じないだとっ!?


「翼っ! いつの間に!?」


 もしや翼も転移魔法を使えるのではなかろうか?

 もしそうならカタリナといい、転移魔法のバーゲンセールだな。


「いつでもいいですよね。それで誰が傷つくんですか?」


 笑顔が怖い。俺は翼の質問をスルーすると。


「これ以上無駄に時間を使えないんだ。そろそろ本題に入ろう」


 煙に巻くのだった。



 ★



「ここが異世界……ですか?」


 あれから俺はカタリナに俺が話せる内容を説明した。


「その可能性は高いと思ってました……ですが妙です」


 カタリナは口元に手を持っていき思案をする。


「だとしたらなぜサトル様がいるのですか? ついでにそちらの魔道士も」


「むっ! ついでとはっ――はにゃっ!」


 話が進まないので俺はリリアナを抱きしめてやると手で口を塞いだ。


「それは俺が異世界を行き来できる転移魔法の使い手だからだよ」


「そ、そんな途方もない能力……存在するわけが……」


 大きく目を見開くカタリナ。これまで以上の畏怖がその視線にこめられていた。


「本当だよ。悟さんは凄いんだから」


 まるで自分のことのように翼が誇らしげに語る。


「……確かに、見たことも無い物ばかりが置かれた部屋です。迷い人が持ち込んだ道具だとしても多すぎるとはおもいますし……」


 どうやら納得したらしい。カタリナは冷静な様子を見せると。


「つまり、サトル様はいつでも二つの世界を行き来できるのですね?」


「ああ、そういう事だな」


 その言葉を聞くと同時にカタリナは立ち上がり距離を詰める。そして俺の手を取ると――


「で、でしたらっ! 元の世界に行ってミオ――――」


 必死な様子で何かを伝えようとしたところをリリアナが遮った。


「駄目なのですっ!」


「あなたとは話してませんよ。プリストン王国の宮廷魔道士」


 苛立ち混じった声でリリアナを睨みつけるカタリナに。


「サトルさん。駄目なのですっ! かえしちゃ駄目なのですっ!」


 単なる意地悪で言っている訳ではなさそうだ。先程までの言い争いとは違い、何か理由がある。そう瞳が語っている。


「リリアナ。どうして駄目なんだ?」


 俺が聞き返すとリリアナはコクリと頷くと。


「ウィレット家には黒い噂があるのです」


 その言葉にカタリナは顔を背けた。それをみて勢いづいたリリアナはある物を取り出す。


「以前、サトルさんが撮ってきた魔法陣の写真なのです」


 リリアナはそれを印刷した物をカタリナに見せた。


「これは召喚の魔法陣なのですよ。異世界から人間を召喚する魔法陣。それも最近使った形跡があるのです」


「だ、だったらなんだっていうのよ……」


 カタリナは真っ青になっているようで足元がおぼつかない。


「お、おい。あまり責めたら可哀想だろ。カタリナは異世界に渡ってきて不安なんだぞ」


 俺がカタリナを庇う発言をすると、リリアナは俺に向き合うと冷徹な顔で告げた。


「自業自得なのです。自分達はそれをするくせに、いざ身に降りかかったからといって同情する余地は無いのですよ」


 普段の優しいリリアナからは想像もできない。


「それってどういう意味なんだ?」


 俺が聞き返すと、リリアナは信じがたい事実を告げた。


「ウィレット家は50年に一度、異世界人を召喚しているのです」


「っ!?」


 図星を突かれたとばかりにカタリナの表情が歪む。

 だが、更なる衝撃をリリアナは語った。


「ドラゴンの生贄に捧げるために」

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