第63話落ち着かせる男

 私の視界を青白い光が満たす。眩しさに思わず目を瞑ってしまう。


 身体から魔力が抜けていき、突然足元の感覚がなくなった。自分が今地面に足を付いているのか、それとも浮かんでいるのか?


 時間の感覚が無く一瞬の出来事なのかそれとも数時間が経過したのか解らないでいると突如それはきた。


「えっ? これって……」


 視界が正常に戻り、辺りを見渡すと。


「強い明かり……魔力を感じませんね?」


 屋内だと思われる場所だが、天井からは魔法ではない強い明かりが照らされている。

 ふと足元の感触に違和感をおぼえる。


 地面は滑らかで不思議な材質を使われているようです。


「もしかしてここは……」


 私が推測を述べようとしたところ――。


『XXXxxxxXXXxx』


 青い服を着た男性が二人現れて私に話しかけてきました。


「……聞いたことも無い言葉です」


 私の返事に男の人は何かを掴むと口元に持っていく。そしてそれに向かって話しかけている。


「魔道具? では無いみたいですわね」


 魔力を感じ取れない。何らかの道具だと思った私はそのまま見ていると。


「XXXXxxxxXXXXXxxxXXx」


 祖父と同じぐらいの年齢の老人が現れて話しかけてきます。


「XxxXxX? XxxXXxxxX?」


 何度か言葉を変えて話しかけてきます。恐らく言語を変えているのでしょうがどれも聞き覚えがありません。


「ひとまず、どうしましょうかね?」


 こうして立っているだけでも疲労が蓄積しているのか、私は段々と立っていられなくなり始めました。


 老人は諦めたのか、顎を撫でる動作をしました。そして――。


「えっ?」


 何やら指輪を取り出しました。それは魔力の篭っている指輪で、私はそれが何らかの攻撃手段である可能性について考えました。


「さ、させませんっ!」


 体内から魔力を練り上げると氷が私と彼らの間に発生しました。

 老人は慌てて飛びずさると私に向かって何かを言います。


 焦る私はもう一度魔法を放って逃げようとしました。だけど……。


「くっ! 魔力が……」


 急激に意識がかすみます。


「落ち着くのじゃ! 大丈夫なのじゃ!」


 何かが聞こえ、意識を失う直前――


「………………助けて。サトル……様」


 私はそう呟くと意識を失いました。



     ★



「……はっ!」


 目の前ではカタリナが布団をはねのけて身体を起こした。


「ここは……?」


 キョロキョロと油断なく周囲を見渡しているがどうやら俺に気付いていない。

 乱れた金髪が寝間着に掛かると。


「目覚めたか? カタリナ」


「えっ?」


 ようやく俺を認識したのかカタリナは大きく目を見開いた。そして……。


「うっうっ……」


 目元に涙を浮かべると悲しみを堪えきれなくなったのか、


「うわーーーん。サトル様ーーー」


 カタリナは凄い勢いで突進してきた。





「そろそろ落ち着いたか?」


 あれから暫くの間、頭を撫でてやったところ、泣き止みはしないものの、カタリナは大分落ち着きを取り戻した。


「はい。サトル様のお陰ですわ」


 目元をゴシゴシと擦るカタリナ。その仕草は子供じみていて、出来ればもう少し時間を置いてあげたいのだがそうもいかない。


「これまでの事。説明できるか?」


「……はいですわ」


 彼女は俺から離れると一度深呼吸をする。そしていつも通りの取り繕う表情に戻ると説明を開始した。




「私はサトル様を見送った後、日課である魔法陣への魔力注入をしようと屋敷に戻ったのです」


「うん? 一応俺は全部の魔力装置に魔力を注いだつもりなんだけど?」


 俺の言葉にカタリナは首を横に振る。


「一つだけ、当家が代々管理している魔法陣があるのです。その詳細については教える事は出来ませんが、当代では私が管理しているのですわ」


「……そ、そうなのか」


 俺の脳裏に写真を撮ってリリアナに見せた魔法陣の様子が浮かぶ。


「私は地下に降りその魔法陣に近寄りました。目的は魔力の補給。信じられないかもしれませんが、その魔法陣はこの私の魔力をもってしても数年は掛かる程の魔力装置なのです」


「へ、へぇ~」


 どうりでごっそりと魔力を吸われた訳だ。


「それで、いつも通りに魔力を注入しようと魔法陣の中央に立ったのですが、そこで違和感を覚えたのです」


 カタリナは顔を伏せると震え出した。


「なんと、魔法陣の魔力が満タンになっており、気が付けば魔法陣が発動していたのです」


「あーそーなんだー?」


 背筋に汗が伝い始める。


「慌てて避難しようと思ったところ、周囲を青白い光が包み、気が付けば違う場所に立っていたのです」


 そこから先は聞く必要は無いだろう。先程総一郎さんから話を聞いてるし、監視カメラの映像も見せて貰った。

 つまりは俺が黙って魔力を補充した魔法陣に乗ったせいで、こちらの世界へと渡ってきたという事らしい。


 俺が何と言おうか考えているとカタリナは顔を上げると柔らかい表情を浮かべた。


「魔法陣が正しく発動していた場合、私は異世界へと飛ばされていたはずなのです。ですが、サトル様にお会いできた。お陰で懸念は吹き飛びました。目が覚めて始めに目にできたのがサトル様で私嬉しかったです」


 そう言うと抱き着いてきた。どうやら本当に心細かったらしく肩が震えている。

 俺はここがカタリナの言うところの『異世界』だと告げるか悩んでいると――


「サ、サトルさんはリリーの大切な人なのですっ! とっとと離れるのですっ!」


 よりややこしくしそうなケモミミ少女リリアナが乱入してきた。



※報告


この話が投稿されてから6時間後……

12月20日に『ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました』はファンタジア文庫より発売になります。

早い所では本日から販売している場所もあるかもしれません。

電子書籍は日付が変わった瞬間から購入いただけます。

書き下ろし7割の自信作ですので、是非購入して内容を確かめて頂ければと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る