第60話心配する男
「カタリナの消息はまだわからないのかっ!」
執務室にクリフの声が響き渡ると屋敷の人間は肩を竦める。
「最後にあの娘を見たものは誰だ!」
日頃の温和な表情が嘘のように焦りを浮かべるとクリフはその場の全員を見渡した。
「恐らくは私が最後かと思います」
緊張感が支配する空気の中、メイド長が右手を上げて一歩前にでる。
「それはいつなのだ?」
焦る気持ちを押し殺したクリフに対し、メイド長は記憶を手繰り寄せると――。
「お客様がお帰りになった時です。カタリナ様はその後、上機嫌になりながら屋敷へと戻っていかれました」
門には警備が詰めており、もしカタリナが外出しようものなら確実にそれを発見できる。
それが解るからこそクリフは――
「だが、げんにこの屋敷を徹底的に捜索してもカタリナはおらなんだ」
屋敷中の人間が総出で探したのだ。見落としがあるとは考えづらい。
「そう言えば……」
メイドの一人が口元に手をやり呟く。
「なんじゃっ!」
「いえ、その。確証がある話では無いので……」
メイドの慌てる様子にクリフは。
「いいから話せ。些細なことでも隠し立ては許さん」
怒りを露わにするクリフにメイドは怯えつつも話し始めた。
「先日。私はカタリナ様の命令で魔力補給装置に御客様を案内していたのですが……」
その報告ならば聞いている。普段カタリナが補っていた補給をたった一人で終えてしまったと。そのお陰でこうして屋敷中に明かりをつけることが出来ているのだ。
「それがどうした?」
「お客様は全部で10ある装置を全て満タンまで補給したのですが……その報告をした時にカタリナ様が呟いたのです」
「……なんと?」
「『流石サトル様ですわ。あの方のお力を借りることが出来ればあの子を元に……』」
その言葉にクリフの眉がピクリと動く。
「あの子と言うのは例の迷い人の事だろうな」
孫娘が陰で動き回っていたのを知らないわけではない。
無駄なあがきだと思って見ていたが、カタリナが睨みを利かせていたのであの娘は今もああして生活できているのだ。
「以前、カタリナ様が隣国を訪れたのはご存じでしょうか?」
考え込んでいるクリフにメイドは恐れを抱きつつ質問をする。
「知っておる。戻る際に何者かの妨害があったそうだな」
カタリナを疎ましく思う勢力は国内に存在する。そいつらの誰かがカタリナを襲おうと計画していたのだ。当然クリフの耳にも入っていた。
「その目的と言うのがプリストン王国に現れた大賢者の再来を探すためだったのです」
半年ほど前、プリストン王国の冒険者ギルドに伝説の大賢者をしのぐ魔力の持ち主が現れたと噂が立った。
噂はすぐに消え失せたのだが、水面下ではその情報が操作されていた。
「聞いてるぞ。だが、それは結局空回りだったのだろう?」
もし連れてこられたなら多大な国益をもたらしてくれるはず。そう考えて止めはしなかったのだが。
「ええ。ですが、先日現れたお客様はもしかするとその大賢者様では無いかと思うのです」
メイドの言葉を笑い飛ばそうと思ったクリフだが、真剣に考えこむ。
悟が全ての魔力装置を満タンにした。使っている魔石の純度にもよるが、貴族の屋敷だけあってどの魔石もそれなりの純度を誇っている。
その全てを満タンにとなると、魔力が完全な状態のカタリナでも厳しいだろう。
だが、カタリナはこの国で1・2位を争う魔力の持ち主。けっして出来る人間が存在しない訳では無い以上、決めつけるのは早計と言う物だろう。
「仮にサトル君が大賢者だとしてそれが何だというのだ?」
膨大な魔力の持ち主という事は理解した。彼はプリストン王国の貴族としての地位を持っているのでそれなりに優秀な魔道士なのだろう。
だが、それがカタリナの行方不明に結びつくとは思えない。
そんなクリフの耳にメイドは……。
「大賢者の噂の一つにこういうものがあったのです」
メイドははっきりとその噂を口にした。
「大賢者の再来は『転移魔法』を使える」
その瞬間クリフは立ち上がると。
「プリストン王国に直ぐ連絡しろ!」
そう命令を下すのだった。
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