第50話女の子達と約束させられる男
カタリナの真剣な瞳が俺に突き刺さる。両手を胸元でぎゅっと握り、瞳を潤ませて不安そうな顔をする仕草は先程まで対していた態度とは違い、年相応に見えた。
「俺が迷い人?」
「私はそう見ています」
「そう言われてもな……」
その言葉が指す意味は何となく理解できるのだが説明しようにも躊躇う。
「本当の事を言ってください。私に出来る限りの事をさせて頂きますからっ!」
必死な訴え。キュッと唇を閉めるその顔を見る。
俺はカタリナとの距離を詰めた。
「……えっ?」
「良いから」
突然の俺の行動にカタリナは慌てふためく。
「あ、あの……サトル様?」
「動くな」
俺が顔を寄せるとカタリナはこれでもかと言うぐらいに顔を真っ赤に染める。そして俺から距離を取ろうとした。俺はそんなカタリナの背中に腕を回すと軽く引きよせ。
「あっ、あの……私……そんなつもりじゃなくて……流石にこれは想定外で……」
目が合う。顔から火が出てるんじゃないかと言うぐらい熱い。
「安心して俺に任せろ」
俺の言葉に観念したのか、カタリナは口と目を閉じて顔を上げる。
俺は急に素直になったカタリナを優しく抱き寄せると右手を伸ばし――――。
「……ゃっ」
その唇に触れた。
「もういいぞ。とれたから」
目をぎゅっと瞑ってプルプルとしているカタリナに俺は話しかけると。
「うぅ……柔らかい何かが口に触れました。これはもうサトル様に責任を取って頂くしか……えっ?」
何やら意味の解らない事を言っているカタリナに俺は右手を見せてやる。
「スープのかやくが口についてたんだよ。とってやったから安心しろ」
「なっ! そういう事は先に言ってください!」
何故か急に怒り出して涙目で掴みかかってくる。
――コンコンコン――
「カタリナ御嬢様いらっしゃいますか?」
「な、何かしらっ!?」
驚くべき速度で俺から離れたカタリナは平静を装うとドアの向こうに話しかけた。
「旦那様がお戻りになられました」
「そっ、そう。解りました。すぐに伺います」
そう言うとカタリナは空のカップを手に立ち上がる。そして――。
「…………今日の所はここまでで引き下がります」
悔しそうに睨みつけてくるのだった。
「えっ? もう帰られるのですか?」
「うん。これ以上は不味いからな」
翌日の朝早く。俺はカタリナに帰宅を宣言する。
「そっ、そんな……まだ何も責任取ってもらってませんのに」
何やら泣きそうな顔をするとカタリナは俺に詰め寄ってきた。
「まあ一宿一飯の義理は果たすから俺に出来る事なら聞いてやるけどさ」
あまりの落ち込み様に可哀想になったので提案してみると。
「でっ、でしたらまた私に会いに来てくださいっ!」
唇が触れ合いそうなぐらい顔を寄せると必死に懇願してくるのだった。
☆
「えへへ。もっと撫でて欲しいのです」
「……仕方ない奴だな」
目の前にはケモミミを垂らして尻尾を振っているリリアナがトロンとした表情を浮かべていた。
「一体いつまでこうしていれば良いんだ?」
何故このような事になったかというと、異世界旅行の件がバレたからだ。
朝早く。カタリナと別れた俺は人気のない場所に移動したのち転移を使ってマンションへと戻った。
自室へ転移して着替えを済ませた俺は何食わぬ顔で起きたふりをして部屋から出たのだが……。
「サトルさんについてる匂いが完全にリリーになるまでなのです」
リリアナが鼻をひくつかせて俺の匂いを嗅いだ所、「知らない女の匂いがするのです」と目を吊り上げたのだ。それで仕方なしに外泊した事実を認めた所このような要求をされるに至ったのだ。
「まあいいけどさ」
諦めた俺はリリアナのケモミミをフニフニと弄ってやる。
「んぅ……くすぐった気持ち良いのです。もっとなのですよ」
尻尾をサラサラと撫でまわす。
「はにゃ……絶妙な触り加減…………なのです。もう……だ……め……なの……で……す」
甘えてくるのは最近では良くある。結局いつもリリアナが身体から力を抜き俺にもたれかかってくるまでが一つの流れとなっていた。
「ほら。リリアナそろそろしっかりしろ」
幸せの絶頂の表情で夢を見ていたリリアナを正気に戻す。
「……あれっ? ここは何処なのです?」
「取り合えずこれで皆には内緒だからな」
寝ぼけているリリアナに昨日の事を内緒にするように言う。シリウスや総一郎氏にバレるのも面倒だが……。
「はいなのです。こんな良い思いするのはリリーだけで十分なのです」
最もバレたく無いのは…………。
「だからサトルさんが異世界で勝手に遊んで一泊した件に関してはツバサさんには絶対ぜーーーったい秘密にするのですよ」
大きな声で宣言するリリアナ。
「ふーん。そんな事があったんですね。良い事聞いちゃったなー」
いつの間にか、湯皆が背後に立っていた。
ふわりと背後から柔らかい物を押し付けてくる感触がする。湯皆が抱きついてきたのだ。
俺の耳に湯皆の吐息がかかる。彼女はしばらくの間嬉しそうにその仕草をしたかと思うとそっとささやいた。
「リリーちゃんばかり口止め料貰うのはずるいので、私とデートして貰いますからね」
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