第48話なんでもして貰える男
「おいおい。本当にこれ食べて良いのか?」
「ええ。ここは私に御馳走させてください」
カタリナの返事に俺は目の前の豪華な食事に目を奪われる。最近は割と高級料理に縁が出来たのだが、異世界でおもてなしを受けるのは実は初めてだ。
何故なら、シリウスは会うたびにあちらの世界の料理を望むので、城で料理を食べさせてもらえないからだ。
折角の異世界観光という事でなら多少は贅沢を満喫してみたかった。
「とは言っても、コアに魔力を流しただけなんだけどな」
爆発物になりそうだったとは言え、カタリナが注入するところを肩代わりしただけ。満タンにしてからもまだ多少魔力に余裕があるのを感じていた。
「いえ。私はあそこで魔力を失うのは危険でしたので、お陰様で無事に街に到着できました。謹んでお礼申し上げます」
そう言って薄い胸元に手をやってお辞儀をする。
俺はそんな仕草を見ながら料理をスマホで撮って行く。後でリリアナにこれが何という料理なのか聞いてみる為だ。
「正直そこまで考えていた訳じゃないけど、カタリナは本当に礼儀正しいんだな」
動きが洗練されているというか、リアル貴族と言えばシリウスとその伴侶なのだが、二人とも規格外なのか友人とその恋人という印象でフランクすぎる。
カタリナはナイフとフォークを使い、料理をその可愛らしい口に運ぶと。
「サトル様は今後どうされるのでしょうか?」
列車の中から感じていた視線。どうやらカタリナは膨大な魔力を持つ俺に興味を持っているようだ。
「うーん。取り合えず適当な宿に泊まって明日になったら帰ろうかなと」
思っているよりも魔力を吸われてしまったのか、感覚的に元の世界へ戻るには少し足りない。
であるならば、開き直って一泊してから帰るのもありだろう。
そう考えるとこの食事の誘いもありがたかったりする。
最近は食事の際に常に誰かが一緒だったので、一人で食事をするのは寂しかっただろうから。
「折角来たばかりなのにもう帰られるのですか?」
俺の言葉を捕まえたカタリナは怪訝な視線を向けた。
「ああ。今回の旅行は特に目的あったわけじゃなくて列車に乗ってみたかったからなんでな」
まさか異世界から来たとは言えない俺は咄嗟に電車マニアのような言い訳をしてしまう。
「そうですか……。折角知り合えたのに残念です」
俺の言葉を信じたのか、カタリナはその形の良い眉を潜めると心の底から残念そうな声を出した。
そして暫く思案をした後――。
「でしたら、折角ですので私の屋敷に泊まっていかれては如何でしょうか?」
そう提案をするのだった。
「御客様。お湯加減は如何でしょうか?」
「ああ。うん……。悪く無いです」
あれから、俺はカタリナの誘いを断り切れずに屋敷に案内された。
カタリナに「恩を返さなければウィレット家の名折れ」と大袈裟に言われてしまっては流石に断るのも気が引けた。
そんな訳で屋敷に連れ込まれてしまった訳なんだが……。
「あの……」
「なんでしょうか?」
目の前には美人のメイドさんが立っている。その服装は水に濡れても良いように袖をまくっており、生足がチラリと見えていた。
「自分の身体は洗えるので世話されなくても平気なんですけど」
「いえ。御嬢様からは御客様が望むことは何でもするようにと御命令をされておりますので」
「……なんでもって」
その言葉の破壊力をこのメイドさんは知っているのだろうか?
俺は努めて冷静に思考を進めると。
「だったら命令させて貰いますね。俺は一人で風呂に入るのが一番落ち着くんで。呼ぶまでは外に出て待機してもらえますか?」
「……お客様がそうおっしゃるのなら」
何か悔しそうな表情を浮かべるとメイドさんは出て行った。一体なんだったのだ?
☆
「彼は今どちらに?」
椅子に腰かけると、カタリナは冷たい瞳を向けた。
「はっ。お風呂にて身を清めておいでです」
「メイドに手は出さなかったの?」
簡潔な質問に。
「はい。当家で一番見た目が整ったメイドでしたが、そう言った命令はされなかったようです」
「……そう」
カタリナは口元に手をやると暫し考え込む。
「それで。頼んでいた調査の結果はどうなりましたか?」
「列車の故障の原因についてですが、内部に潜り込んだ者の犯行だそうです。既に捕えており、拷問を行ったところ、狙いはやはり御嬢様でしたね」
「そうでしょうね。偶々私が乗った列車で事件が起きるなんて都合が良すぎるでしょう」
カタリナは今回の事件をあらかじめ予測していた。
「計画としてはこうね。プリストン王国から帰国してくる私に対して、炸裂の魔法陣を用いた罠を用意する。爆発させないためには安全圏まで魔力を注ぐ必要があった」
事実。悟が居なければ他に適任はおらず、カタリナは魔力を失っていたところだった。
「そこを狙って御嬢様を攫うつもりだったようです。あの付近には賊が伏せておりましたので」
「だけど。そうはならなかった」
「ええ。御客様には感謝しかありません」
情報を総合する限り、カタリナの状況は悪かったはず。もし悟が居なければこうして椅子に座る事が出来なかった可能性が高い。
それどころか賊の慰み者になっていかもしれない。
「このタイミングで都合よくあらわれる。これが奇跡なのでしょうか?」
カタリナがプリストン王国を訪れた原因。そして解決しなければならない案件。それを満たすであろう人物が突如現れたのだ。
「如何なさいますか?」
メイドは指示を待つ。その言葉にカタリナは考え込むと。新たな命令を下すのだった。
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