第47話相変わらず無尽蔵な男
「ちょっと待ってください」
俺が手を上げると女の子が待ったをかけた。
「ん。どうした?」
「列車を動かすコアに魔力を注ぐのは大変なのです。生半可な魔力だと吸われっぱなしになってしまい、体調を崩しますよ」
「そうなのか?」
「そんな事も知らねえのか。でしゃばるなよ小僧」
何やら唾を飛ばす男。他の客に比べて品が無いな。
「だけど、誰かがやらなければならないんだろう? そして立候補者は俺しか居ないんだ。仕方ないんじゃないか?」
このまま手をこまねいてみていても状況は変わらないのなら進むべきだろう。俺がそんな風に考えていると。
「そういうのは私の出番だと思います」
女の子が名乗りを上げた。
周囲の人間も俺の時とは違い期待に目を膨らませて女の子を見ている。
「任せて平気なのか?」
俺の言葉に少女はほほ笑む。
「まさか、本当にご存じない方だったのですね。私の名はカタリナ。カタリナ=ウィレットです」
「その名前って確か……」
「ラフィエット王国のウィレット領。そこの領主の息女様じゃよ」
聞いたことがあるのも当然。魔導列車の終着駅がそこだからだ。隣国で国境沿い。この子は貴族のようだ。
「貴族という事は理解した。それでどうしてカタリナが適任だと? 危険があるなら俺達大人がやるべきではないか?」
多分俺の魔力ならば問題無いだろうし、いらぬ危険は避けるべきだろう。だが、俺の言葉にカタリナは。
「ふふふ。まさかそのような配慮をされるとは思っておりませんでしたわ。そのお心遣いありがたく思いますが、あまり侮られるのも良くありません」
そう言って車掌が何かを持ってくる。恐らくはこれが魔導列車を動かしているコアなのだろう。
「私は幼き頃より魔力を伸ばす訓練をしてまいりました。それは国境を預かる辺境伯の娘として、恥じない能力を示す為。こういう機会に立ち会ったなら率先してそれを成す義務があります」
カタリナはそう言うとコアに向けて手を伸ばす。コアには複雑に見える魔法陣が刻まれている。
「最低限、黄色まで魔力を注いで頂ければ街まで行けます」
車掌の言葉に頷くとカタリナは魔力を込め始めた。
次の瞬間けたたましい音が列車に響く。
「なっ。一体どうなっておる!」
粗野な男が叫ぶ。その問いにカタリナは。
「これは……炸裂の魔法陣が割り込まれていますね。式を見ると魔力を注ぐと爆発するタイプのようです」
「何を冷静に言っておる。急いでそれを何処かにやらぬかっ!」
カタリナの言葉で乗客に混乱が広まっていく。中にいる人間は我先にとカタリナから離れて外へと避難を開始する。
「あなたは逃げられないのですか?」
コアを持ったままカタリナは俺に質問をする。
「そっちこそ。逃げないという事は何とか出来る手段があるのだろ?」
俺の切り返しが意外だったのか、カタリナは目を見張る。
「ええ。この術式は魔力が黄色まで溜まった時に起動します。ですから、その条件さえ解除してしまえば問題ありません」
「色で言われても良くわからないな。時間も無さそうだし簡単に説明してくれ」
「このコアは魔力を蓄積する事で動力を得る装置です。色によって充魔の量が変わりますが、黄色より多い魔力を注ぐことで術式を解除してただのコアに戻すことが出来るのです」
つまり、この爆弾は大量の魔力を注げば解除できるんだな。
「流石に魔力を使うのでやりたくは無いのですが、緑まで変われば安全かと思います。疲れるんですけどね」
目の前の少女にはそれが出来る力があるのだろう。だから逃げる必要が無い。その事を理解した俺は。
「なら俺がやろう」
そう言って、コアを取り上げた。
「お言葉ですが、凡人には出来ませんよ。あまり時間が無いので返してもらわないと困るのですが……」
「ちなみに。何色が最高なんだ?」
「虹です……ってそろそろ音が高まってきたので危ないですよ」
制止するカタリナを他所に俺は魔力を注いでいく。掴んだ瞬間から、何かを吸われる感覚があったので特に意識する必要もなかった。
冒険者ギルドで100人に魔力を分けた時よりも吸い取られる。
確かに、皆が止める訳だ。
「嘘。緑……赤……ありえないです」
色は緑を越して赤まで到達した。音も鳴り止んだので安全な状態らしい。
「なあ、どうすればこれ止まるんだ?」
俺には魔力をコントロールできるだけの力が無い様で吸われるのに任せている。そうこうしている間にもコアの色は紫へと変わり…………。
「吸い取り切ったら止まります。紫にまでなるなんて……信じられません」
驚愕の表情を浮かべるカタリナ。先程までの演技めいた顔では無いので真剣に驚いているらしい。
吸い取り切れば終わるのか、だとするともう無駄に抵抗する必要は無いな。
段々と、吸い取る力が弱まってくる。恐らくは完了が近いのだろう。
「これで終わりだな」
果たして予想した通り、コアは俺の魔力を十分に吸い取ると停止した。
「凄いです。虹まで到達させるなんて」
その横でカタリナが心の底から尊敬した眼差しで俺を見ているのだった。
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