第41話世界十指の大富豪の男
「生憎だが、時間の無駄だろうよ」
総一郎の言葉にシリウスは笑みを浮かべると突き放すように言った。
それに合わせてクリスティーナが動き始める。
シリウスの意図を組んで記憶を消すつもりだ。
それが解った悟と総一郎が息を飲む。目の前の美女が触れる時が総一郎の記憶が失われる時だ……。
「お爺ちゃん。庇ってくれてありがとうなのですよ。お陰でリリーはまたサトルさん達と会えたのです」
ところが、そんな雰囲気を無視したのか。リリアナが総一郎の前に立つとお礼を言った。
リリアナが頭を下げた事で空気が一変する。
「なんのなんの。アナリーちゃんが無事で本当に良かったわい」
即座に総一郎はそういうとリリアナの頭を撫でる。リリアナは目を細めると気持ちよさそうにそれに応えた。
「ちっ」
シリウスの舌打ち。タイミングを外された事で勢いを失った。
先程までの雰囲気ならば強引に事に及んでも問題無かったが、悟もシリウスもクリスティーナも。目の前の老人が身を挺してリリアナを庇った所を見ていたからだ。
シリウスが舌打ちするとクリスティーナも魔法を解除する。
利己的な人間が相手ならば躊躇なく事を進められるが、相手はをリリアナの恩人と認識してしまえばそうもいかない。
シリウスは苦い表情を作ると。
「話してやるよ」
自分たちの事情について語ってみせるのだった。
「なるほどの。唐山君の転移魔法じゃったか、先ほどの熱気はサウナのものじゃな?」
一通りの説明を受けた総一郎は先程の事件について考察する。
「そうです。俺の転移ゲートは一度行ったことがある場所なら繋ぐことが出来るので。サウナから熱気を引き込んだんですよ」
「暑さで思考力を奪った上で、殺人鬼の陽動で敵を殲滅か。良く練られた作戦じゃった」
「そうですね。リリアナさえ邪魔しなければ成功してましたね」
褒められたクリスティーナは特に感慨を覚えることなく呟いた。
「そうだ。リリアナてめぇ。なんで邪魔した?」
「えっ?」
突然のシリウスの失跡に目が点になる。
「騎士団の救出マニュアルにあっただろうが」
「リリーは宮廷魔導士だから知らないのですよっ!」
なるほど。所属の違いで説明を受けていなかったのか。悟はそう考えたのだが。
「そんな訳あるか。お前を戦闘訓練に参加させた時に教えておくように言っておいたんだぞ」
獣人でもあるリリアナは前衛もこなせる人材だ。そう言った想定もしていて戦闘訓練に参加させている。
「き、聞いてないのですよぉ」
シリウスに怒られて涙目で言い返すリリアナ。その様子は嘘を言っているようには見えなかった。
「…………アイツか」
顎に手をあててぽつりと呟く。
「どういう事だ?」
そんなシリウスの様子に悟は質問する。
「恐らくだが、ヴェルガーの奴があえて教えなかったんだろうよ」
救出マニュアルを知らないリリアナが捕まればそれだけ生存が危ぶまれる。忠誠心によっては自害するだろうし、襲い来るモンスターと戦って挟み撃ちにされてしまうかもしれない。
ヴェルガーはそれを承知で黙っていたのだと推測する。
そしてサトルもクリスティーナもその事を察すると表情を険しくした。
リリアナは固まってしまった三人をみて自分がいかに迷惑をかけたのかと判断すると。
「この度は手を煩わせてしまい申し訳ないのです」
ペタリとケモミミを頭につけると激しく落ち込んで見せた。
その様子に三人の胸がチクリと傷むと。
「シリウス流石に言いすぎだろ」
「そうですよ。リリーが可哀想ですわ」
悟とクリスティーナはシリウスを批難しつつリリアナの頭を撫でまわした。
「お、お前らって…………」
リリアナが起きてくるまでは間抜けだなんだとののしっていたくせに手厚い掌返し。シリウスが一人悪役にされて拳を振るわせて怒っていると。
「もしかすると、アナリーちゃんも異世界の住人なのかの?」
「そうだぜ。事情があってサトルと暮らしてるが、こいつは元々俺達の世界の住人だ」
ここまで話したならついでとばかりにシリウスは景気よく事情を暴露する。
「なるほどな。ところでシリウス殿や。ワシと取引をせんか?」
「あん? 取引だと?」
「こうして会えたのも何かの縁。ワシは異世界に並々ならぬ興味がある。お互いに必要なものを提供し合えると思うのじゃが」
総一郎は世界で十指に入る大富豪だ。他の人間に比べてシリウスの要望に応えやすい。だからこそ自信をもって提案したのだが。
「悪いけど信用出来ねえな」
「ふむ」
「話が上手すぎる。たまたま事件に巻き込まれて事情を話した相手から取引を持ち掛けられる。それも一国の王である俺と同等レベルでの取引が可能と来た」
先程の事件もシリウス達をおびき出す自作自演では無いかと懐疑の念を抱くシリウス。
「なるほどのう。つまりワシが嘘を言っているのかもしれぬというのじゃな?」
「そうだ。それを払拭できなければ俺としてはやはり爺さんの記憶は消さなきゃならねえ」
「ふーむ。なるほどな」
それは総一郎にも経験があった。美味しい話が目の前にぶら下がっていざ調べてみるとこちらを詐欺ろうとする算段であったり、何かしらの嘘が織り交ぜられていた。
シリウスも総一郎も似た者同士。そういう違和感が残れば相手を信頼する事は出来ない。
それが解るだけに総一郎も悩んだ。そして…………。
「もしよければ明日付き合ってくれんかの」
「どうしようってんだ? 生半可な話じゃ信用する事は出来ない。たとえあんたがサトルと懇意だとしてもだ」
知り合いの知り合いだからと言って無条件で信じるわけにはいかない。そんなシリウスの内心をしってか総一郎は笑みを浮かべると。
「我が湯皆財閥が開発した禁断の機械。その封印を解くときがきたのじゃよ」
意味深な言葉を呟くのだった。
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