第38話サウナに監禁される男
リリアナは一人で廊下を歩くとシリウス達の部屋へと向かった。
元の世界で、上司であるイリスからクリスティーナの世話を一任されているからだ。
「ここはお二人にとって異世界なのです。何かと不自由するはずなのです。道具の使い方を一つずつ教えるのはリリーの仕事なのですですよ」
尻尾こそ出ていないがその軽い足音から機嫌が良いのが解る。シリウスとクリスティーナとの旅行という事もあるのだが、悟と同室でお泊りという事もあり嬉しかったのだ。
「クリス様。お風呂行くのですよー」
そんな訳で、リリアナはシリウス達の部屋へと到着するとそのドアを勢いよく開けた。
本来であるならばノックをしてはいるべきだった。それが元の世界の常識だからだ。だが、リリアナは浮かれていた上にこっちの世界のドアが軽い事もあってその辺が抜け落ちてしまっていた。
勢いよく開いたドアからリリアナは中を見る。
そしてクリスティーナと目が合うと――。
「しっ、失礼しましたなのですっ!」
物凄い勢いでドアを閉めるのだった。
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「どうもご無沙汰しています」
悟はペコリと頭を下げる。まさかこんな所で遭遇するとは予想もしていなかった人物に会ってしまったからだ。
「ほっほっほ。よそよそしいのう」
苦手な人物に遭遇したような態度の悟に総一郎は笑って見せる。
「安心するのじゃ。医者から興奮するのはとめられておる」
どうやら再三にわたる興奮状態でドクターストップがかかっているようだ。
「なあんだ……それなら……」
「だから唐山君に制裁をするのは完全に治ってからじゃよ」
安心していた悟だったが、総一郎の物騒な言葉に身体が震えた。
「……勘弁して下さい」
そしてげんなりとそれだけを呟くのだった。
「それで。総一郎さんはどうしてここに?」
場所は変わってサウナルーム。70度を超す熱気が籠る中二人は汗を掻いていた。
「退院後の経過が微妙でのう。ここの宿に湯治にきておるのじゃよ」
ここの温泉は頭痛腰痛神経痛から頭皮のケアやら様々な効能がある。総一郎は身体の状態が崩れるとここを訪れて療養するのが習慣になっていたのだ。
「サウナなんて入っていいんですか?」
こうしているだけでも汗がだらだら出る。ましてやしゃべりながらなのだ。慣れていない悟にはこの暑さは辛かった。
「問題無いのじゃ。こう見えてもワシは暑さに強くてのう。30分ぐらいはいつも入っておる」
サウナに入ってから5分。悟はすでに暑さで限界が来ていた。
「そうですか。それじゃあ俺は先に失礼しますね……」
そういって立ち上がる。そしてサウナの入り口を開けようとするが。
「残念。そこの鍵はワシが持っておる」
鍵がかかっていた。
「あの……。開けて貰えないですかね?」
振り向いて悟が懇願するのだが。
「まあまあ。老人が一人寂しくサウナと言うのも可哀想じゃろ。話し相手に付き合ってくれると嬉しいのう」
ニコニコと笑いながら鍵をくるくると回転させている。
「……中々良い性格してますね」
言っても聞いてくれなさそうな総一郎を悟は冷めた視線で見るのだった。
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「つ、疲れたぁ」
あれから地獄のサウナバトルを終えた悟はシリウス達と合流してレストランに食事に来ていた。
「随分と疲れておいでですね。宜しければ回復しましょうか?」
そういうとクリスティーナは悟に魔法を掛けるか提案してきた。
あれから悟と総一郎はお互いに意地になってサウナに籠ったのだ。結果は45分程でつき。悟のKO勝ちとなった。
自力で戦う総一郎に対して、悟は見えないところでゲートを繋いで外気を確保。呼吸を楽にすることで長時間耐える事が出来たのだ。
「すいません。お願いします」
クリスティーナが肩に手を置くとジワリとしたものが身体に入ってくる。暖かいそれのお陰で先程のサウナでの疲労が溶けるように消えていった。
「所で二人とも顔が赤く無いか?」
レストランのテーブルで四人は一緒に食事をしていた。
悟の目の前にはシリウス。左にはリリアナ。斜め向かいにはクリスティーナという配置になる。
正面と横の二人が会話に参加しなかったので不振に思った悟だったのだが。
「そっ、そんな事ねえぜ」
「無いのですよ」
二人揃って否定する。
シリウスもリリアナも態度がよそよそしい。これでは何かあったと言っているようなものだ。
そんな二人の様子を見ていたクリスティーナは。
「きっと長湯で湯あたりしたのですわ」
ナイスフォローとばかりにシリウスとリリアナが尊敬の眼差しでクリスティーナを見た。
「そうなのです。のぼせてしまったのですよ」
「お、おう。それだそれ。風呂でのぼせちまったんだよ」
リリアナに続いて勢いに乗っかろうとしたシリウス。
「ずっと待ってたけど来なかったくせにか?」
だが、悟にしてみればずっと風呂にいたのでシリウスが着ていない事は知っている。付け加えるとシリウス達が何をしていたのか知っていた。
そしてリリアナのこの反応である。恐らくだが覗き見てしまったのだろう。
「それよりこの料理美味いな。なんて料理だ?」
「ええっとですね…………」
そうとも知らずに誤魔かし続ける二人。
「シリウス」
「…………なんだよ?」
「次からはちゃんと鍵しようぜ?」
その瞬間全員が固まるのだった。
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「全く。お爺さんは何しに湯治に来たのです?」
横になって団扇で風を送る雪乃。総一郎が温泉から帰ってきたかと思えばそのまま布団へと倒れこんできたのだ。
「うう。まさかこのわしが負けるとは…………おのれ唐山君め…………」
完全に自業自得だった。
「それで。お爺さん。唐山さんにフォローはしてきたのですか?」
まさか嫌がらせをして負けてそのままでは大富豪の名が廃る。
「もちろんじゃ。ラウンジの酒を飲み放題とプレイルームの施設使い放題のパスを発行しておいたわい」
サウナからでて涼しい顔で立ち去ろうとする悟にたいして総一郎は負けたのならと施設の全てを無料で使えるように取り計らったのだ。
「それに。後ほどアナリーちゃんがお見舞いに来てくれる予定なのじゃ」
貰ってばかりでは申し訳ないと思った悟は時間が出来た時にでもリリアナを見舞わせる約束をしていた。
「ほんと。転んでもただじゃ起きない爺さんですね」
そう言いつつ雪乃もそわそわし始める。なんだかんだでこの二人。揃ってリリアナのケモミミと尻尾に魅了されていたのだ。
――コンコン――
ノックの音が聞こえると。
「アナリーちゃんっ!?」
総一郎は布団から飛び起きると一目散にドアへと掛けていく。雪乃はそんな総一郎を呆れた目で見ていたのだが……。
「アナリーちゃん良くきたのじゃあああああああああ」
出会い頭に抱き着いた。その感触は浴衣姿では無く、まるでしっかりしたスーツに身を包んでいるようなごつごつとした感触だった。
生配信でみせたケモミミも尻尾の感触も無く総一郎は不審なものを感じると顔を放すと。
「湯皆総一郎及び湯皆雪乃だな」
黒いスーツにサングラスの男たちが4人。手には黒光りする拳銃が握られていて。
「大人しくこちらの指示に従って貰おうか」
「貴様らはもしや…………」
険しい顔をした総一郎の声は部屋の中へと消えていくのだった。
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