第33話取引を持ち掛けられる男

 目の前でには総一郎氏と雪乃氏がぼーぜんとした表情を浮かべている。

 その顔は、まるで予期せぬ出来事を言われたかのようであり、俺の真意を測りかねているようで、二人はひそひそと会話をしていた。


「翼さんとの仲を認めるもなにも。俺達付き合って無いんですけど」


「「!?」」


 何故か驚愕の表情を浮かべる。


「と言うかどうして俺が翼さんと付き合ってると思ったんですか?」


「ワシらが雇った探偵によると。翼は最近お前さんの部屋にいりびたってるそうなのじゃが……」


 最近はよく一緒にいるのは確かだ。リリアナに勉強を教わる為に部屋に来たり。リリアナが作る食事を食べに来たり。リリアナにパソコンの使い方を教えたり。とにかく事あるごとに部屋に居ついている。


「それは一緒に勉強したり、食事をしたり、話をしたりしてるからですね」


 仲良きことは美しきかなとばかりにべったりしている。俺としては最近リリアナをとられたような気分で複雑なのだが……。


「そもそも。俺は総理大臣を紹介してほしいと言ってるんです。翼さんからもその旨伝わってるのではないでしょうか?」


 今は湯皆との仲よりも総理大臣だ。シリウスの無言の圧力はもう受けたく無いのだ。

 女を紹介しろと言う大学の友人のように「お前解ってんだろうな?」という視線を向けてくる。


「その件もそうなのじゃ…………。おぬしが何故総理に会いたいかで現状は大きく変わってくる」


 異世界の王子が偉い人に会いたいからが理由なのだが、こう言われると流石に気になる。


「ちなみに湯皆さんはどういう意味だと思ってるんですか?」


 俺が政治家に取り入る野心を持った人間とでも思われているのだろうか。もしそうなら当たらずともといった所か。

 権力者を権力者に仲介するのは自分が甘い汁を吸うからと思われても仕方ないからな。


 そう考えている俺に対して総一郎氏は答えを返してくれた。


「実は湯皆家は代々結婚式の際に総理大臣に仲人を頼んでおるのじゃ。翼も君もそれを知っていて頼んできたと思ったのじゃが違うのか?」


「違います」


 俺はきっぱりと否定をした。





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「と言うわけで。俺と翼さんは単なる隣人。良き友人なんですよ」


 あれから何とか誤解を解く。俺は二人に対して湯皆にそう言った感情を持っていない事を説いたのだ。


「それにしては翼の熱の入れようったらなかったのだけど。本当に付き合ってないのかしら……」


 納得する総一郎氏に対して、雪乃氏は疑わし気な視線を向けてくる。


「何故にそのような疑惑を持たれるのです?」


 確かに仲は良いかもしれないが。湯皆は財閥の孫娘だろう。俺なんかよりふさわしい相手が居るだろう。


「「唐山さんに会ってください。私の命の恩人で、他の人にはない物を持っている人なんです。近い将来湯皆家にとって大きなプラスになるのは間違いありませんから」と猛プッシュしてきたんですよ」


「なるほど。それは恐らく交通事故に会いそうになった所を助けた事があったので恩義に感じて取りなしてくれたのだと思いますよ」


 湯皆はあれで義理堅い性格だから。肉親の言葉という事もあり、もしかして好かれてるのではないかと勘違いしそうになるが、相手はアイドル女子高生だ。妙な勘繰りは避けるべきだ。


「そもそも。翼さんは湯皆家の御令嬢ですよね? お見合いだったり婚約者とかは居ないのですか?」


 世界有数の企業の孫娘だ。金持ち同士での結びつきなんかがあるのは当たり前なんじゃないか?


 ところが俺のこの言葉に二人は苦い顔をすると。


「昔はそうじゃったのじゃが…………」


「あの娘の母親が駆け落ちしてからは私達もそういうのは止めたんです」


 何やら後悔しているような表情を浮かべる。湯皆の家庭環境も色々複雑そうだ。


「それよりも。総理大臣に会わせていただきたいのですが。可能でしょうか?」


 気を取り直した俺は、気まずい空気を変える為に話題を変える。


「ふむ……。ワシらの力をもってすれば可能じゃが…………」


 そこで総一郎氏は値踏みするように俺を見ると。


「ワシには便宜を図る理由が無いのう」


 


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「えっと…………」


 困惑する俺をよそに総一郎氏は話を続ける。


「そもそも。翼たっての頼みじゃから君に会ったが、望みを聞くかどうかは別問題じゃ。こちらに利益が無いしの」


 なるほど。さっきまでは湯皆の恋人として接していたから身内贔屓をしてくれるつもりだったが、今の俺は何処にでもいる一学生だ。優遇する価値は無いのだろう。

 だが、このまま引き下がってしまっては折角機会を作ってくれた湯皆に申し訳ない。


「い、一体どうすれば良いんですか?」


 何せ相手は世界有数の大富豪。金で手に入るものならば全て自力で入手してしまえる人物だ。

 利益にしても、はした金程度を握らせた所では首を縦に振る事はあるまい。


「そうじゃな…………」


 総一郎氏は考え込むと言った。


「今人気のミーチューバ―の【アナリーちゃん】に会わせて貰うのが条件じゃ」

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