第15話ギルド最高ランクを得た男

 俺の手には出てきたギルドカードが握られている。


 薄いのに硬く、しなるのに曲がらない。恐らくは高価な金属でできているそれを俺は持て余していた。


「これって何の金属なんだ?」


 俺は隣で固まっているリリアナにカードを見せる。


「……………です」


「えっ?」


「オリハルコンのカードなのです!」


 その言葉がフロアに伝播していくと、思い出したかのように喧騒が沸き起こった。



 ・ ・ ・ ・

 

 ・ ・ ・


 ・ ・


 ・


「間違いありません。オリハルコンギルドカードです」


 あれから、受付嬢にカードを渡して確認してもらった所。どうやら俺のギルドカードはオリハルコンらしい。


 先程、リリアナから受けた説明があっているとすると俺はいきなり最高ランクの認定を受けてしまった事になる。何故………。


「サトルさん。ステータスをみるのですよ」


「ああ。そうだな」


 俺は促されるままに自身のステータスを確認する。それを見ればどうしてそんな事になったのか解ると思ったからだ。



===============


名前:サトル・カラヤマ


性 別:男


種 族:人族


年 齢:20


職 業:魔道士


生命力:120/120


魔法力:40680/100000


魔 力:10000(1680現在)


攻撃力:60


防御力:40


俊敏力:70


知 力:150


===============



「すっ、凄いのですよ」


「これって歴史上最高クラスじゃねえの?」


「ギルド記録によると歴史上5指に入るステータスですよっ!」


 リリアナと野次馬と受付嬢がそれぞれ発言をする。俺は自分のカードのステータスをじっと見ているのだが。


「なんか、偏ってるよな」


 俺のステータスはリリアナが言っていた平均値よりも下回るステータスがほとんどだった。

 現代ではそれなりに身体を動かしているので平均よりは上だと思っていたのだが、恐らく水準をこの世界の人間にしてしまうと劣ってしまうのだろう。


「これなら文句なしにオリハルコンクラスだぜ」


「是非ギルドの名誉会員として活躍してください」


「リリーの魔法力で足りなかった訳が解ったのですよ。サトルさんは凄かったのです」


 後ろから男に肩を叩かれた。歴戦の戦士の風格を漂わせていて、一目でこのギルドでも一角の人物だと解る。

 受付嬢はとても好意的な視線を俺に送っており、その熱い視線に俺は心臓がドキドキしそうになる。


 リリアナは一番事情が分かっているだろうにこうして持ち上げてくる。


 三人の他にも周囲を見渡せば同じような視線を俺に向けている。羨望や嫉妬。大半の人間が好意的なのは俺の魔法力と魔力のステータスが優れているからだ。

 他のステータスが低い事なんぞ問題にはならないのだろう。


 …………使


 一応言っておくが俺は転移魔法以外使えない。応用する事で色んな事が出来るつもりではあるが、期待を受ける程ではない。


「皆。悪いけど聞いて欲しい」


 周囲がざわめいていたのだが、俺が声を発すると全員が一斉に口を閉じる。

 皆。俺の一言を待っているのだろう。俺としてはこの期待の眼差しが失望へと変わるのが怖いのだが、このまま担ぎ上げられてしまっても意味が無い。


 ステータスこそ高いが、無用の長物。宝の持ち腐れである事をきちんと説明しよう。それが真摯な態度と言うものだろう。


「折角皆が褒めてくれた所申し訳ないのだが。俺は魔法が使えないんだ」


 厳密には転移魔法は使える。だが、この衆目の場所で言うにはいささかハードルが高い。


「あの…………それがどうかしたのですか……?」


「そうだぜ。魔法が使えないことぐらい些細な事だろうよ」


 男も受付嬢も不思議そうな顔をしている。


「いや。だって……魔法力があっても魔法が使えないんじゃ戦力にならないだろ?」



 男と受付嬢は見つめあう。俺は何か変な事を言ってしまったのだろうか?

 隣から袖を引っ張られる。リリアナが構ってほしそうにしているようだ。後で撫でてやろう。


「サトルさんは少し勘違いをしているのですよ」


「勘違い?」


「冒険者ギルドと言うのは別に戦闘だけに特化した職場では無いのです」


「というと?」


「冒険者登録する人材には戦闘職の他に支援職もあるのですよ。戦闘職がモンスターを倒すのにたいし。支援職は錬金術で回復剤を製作してギルドに卸したり。ギルドに滞在して治癒魔法を使って怪我を治したりするのです」


「それは確かに必要な仕事だけど……」


 話の繋がりが見えてこない。


「それらの支援職が一番欲しているのは魔法力なのです。治癒魔法を唱えるのも回復剤を製作するのも魔法力が必要なのです」


 リリアナは続ける。


「ですが、一番魔法力が多い魔導士は戦闘職なので魔法力が必要なのです。なので魔法力を大量に持つ人間は冒険に出てしまうのです。そっちの方が稼ぎが良いからなのです」


 確かに、強力なモンスターを討伐したり、ダンジョンに潜って一獲千金を得る。俺が知っている冒険者は大体そんな感じだ。

 魔法力を分け与えるにせよ、治癒も錬金術もお金を稼ぐ必要がある以上はそれ程高額は払えないのだろう。


「よって、冒険者ギルド内部では魔法力不足が起こるのです。魔法力の供給源が引退した冒険者さんぐらいしか居ないからなのです。あの人たちもお金に困っているからでは無いので無理は言えないのですよ」


 なるほど。深刻な魔法力不足。そこに降ってわいた魔法が使えない魔導士。これは魔法力タンクとして期待される訳だ。


「でも。それだけで俺がオリハルコンクラスと言うのはおかしくないですか? 他の能力は一般的な冒険者に全然届いていない訳で……」


 役割があるのならそれは構わないのだが、どう考えてもこのランクは分不相応だろう。


「ランクってどうやって決まってるんですか?」


 俺の質問には気を取り直した受付嬢が答える。


「基本的に初期におけるランクはステータスの合計値で決まります」


「合計ってなんのです?」


「魔力・攻撃力・防御力・俊敏力・知力。この5つの項目の事です。一般的な冒険者の合計値は750です。それだけの数値があればブロンズからスタートできます」


 なるほど。優れた数字を持つ人間に与えられた飛び級みたいなものか。


「ちなみにリリーは最初の合計が1200ありましたので、最初はシルバースタートだったのですよ」


 横から口を挟む。どうやら1000を超えるとシルバースタートで。1500に達すればゴールドらしい。

 ギルドランクの上げ方は他にもあり、定期的に依頼をこなして一定の評価を得る事だ。支援職の錬金術師や鍛冶師は回復剤や武器防具を卸してギルドランクを上げるらしい。


 どちらかと言えばこちらの方が一般的で、リリアナみたいにステータスを伸ばしてランクを上げる人間は大体3割程度らしい。


「そして。オリハルコンランクに必要な数値は5000です。王都でも5000を超える人間は数人しかおりません」


 受付嬢が真剣な顔をして指をピッと立てる。


「つまり。サトルさんは超凄いステータスを持っているという事なのですよ!」


 興奮気味に捲し立てるリリアナ。俺は彼女の頭を撫でて落ち着かせながら受付嬢に話しかける。


「つまり。俺の魔力というステータスが高いからその一点でオリハルコンランクになったと」


 二人は同時に頷く。


「ちなみにこの魔力の数字の横にある(1680現在)ってのはどういう意味なんだ?」


「それは昨晩説明した話とかかわりがあるのですよ」


「ほう?」


「先日話した魔力経路についてなのです。サトルさんは現在魔力経路が傷ついているのでその回復をしている最中なのです。リリーが魔法力を譲渡したことにより幾分回復をしているのですが、まだまだ足りないのです。その数字は現在のサトルさんの魔力を示すものなのですよ」


 なるほど。つまり。現在の俺は魔力を全力で奮う事が出来ないらしい。恐らくこれが回復すれば現代に戻れるのでは無いかと推測する。


「ちなみに錬金術師の魔力回復剤を飲めばある程度の魔力経路のダメージは回復させることが出来ます」


「ほう……」


 俺はリリアナを見る。


「だっ、黙っていた訳では無いのです。ただ、高価な薬なのです。サトルさんは文無しだから言っても買えなかったのですよ」


 まあ、確かにその通りだ。俺はとりあえずリリアナの頭を撫でまわしてやると。


「説明は理解しましたけど、俺も戻らないといけない場所があるので専属は無理ですよ」


「「「「「えええええええぇぇぇーーー」」」」」


 一斉に沸き起こる声。


「あなたが居れば冒険者の方が怪我を気にすることなく冒険に出られるのですよっ!」


「もっとたくさんの回復剤を作れれば危険な冒険にでた冒険者さんが無事に戻ってこられるようになるんです」


「大魔法を数発撃ったら回復に数日かかってしまうんですっ! 魔法力の回復は治癒士や錬金術師が優先されるんで、もっと大魔法を撃ちたいんですっ!」


 そのほかにも切実な声が沸き上がる。どうやら本気で歓迎をされているようだ。


「サトルさん」


 リリアナが俺を見つめている。


「魔法力が足りない気持ちはリリーにも解るのですよ。そのせいで救われない人が居るのは悲しいことなのです」


 悲しそうな瞳が俺に向けられる。過去にそういう体験をしたのかもしれない。


「サトルさんが元の世界に戻りたいのは知ってるのです。でも、もし可能なら少しだけでも良いのでギルドに滞在してあげて欲しいのですよ」


 その真摯な瞳とケモミミがじっと俺を見つめる。俺は溜息を吐くと。


「解りましたよ。ただし、魔法力が尽きる前には止めますからね」


「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおーーーーー」」」」」」


 俺の言葉に歓声が起こった。皆が嬉しそうな声を出す中、俺は引き受けて良かったと思い始めるのだった。

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