第14話冒険者に登録させられる男

「早く……元に戻らないといけないのです」


 もぞもぞと動く何かがいる。


「まさか。サトルさんに負けるなんて屈辱なのですよ」


 いつまでも聞いていたい心地の良い声がする。

 俺は無意識に手を伸ばすとその声の主を抱き寄せた。


「ひぅっ! サトルさん起きたのですか?」


 手に触れる触り心地の良い毛並みに意識をとられた俺は。


「あー。うん……」


 寝ぼけた状態で返事を返した。


「むむむ。動けないのです。サトルさん抱きしめるの止めて欲しいのですよ」


「あーうん。わかったわかった…………」


「解ってないのです。お願いだから絶対に布団を捲らないでくださいなのです」


 焦る声を聞き流しながら俺はまどろみの中、モフモフに包まれて二度寝をするのだった。



 ・ ・ ・ ・


 ・ ・ ・


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「ふぁーーあ。良く寝た」


 スッキリとした頭で目が覚める。思えば昨日は慣れない異世界に通じない言葉で気を張っていたような気がする。

 肉体労働も相まって自身が疲れているのに気づけなかったようだ。


「そういえばリリアナは?」


 俺は一緒に寝たはずの少女を探す。その答えは布団の中にあった。


「そこにいるのか?」


 俺が声を出すとピクリと布団が動いたのだ。


「い、居るのです。もう少し。本当にあと少し待ってほしいのですよ」


 夢の中で聞こえた気がする焦り声。リリアナが布団の中でもぞもぞと動くと、何かがむくむくと盛り上がるように布団を押し上げていく。


「もう大丈夫なのです。布団をとっても平気なのですよ」


「そうか」


 本人の許可も得たので俺は布団を捲るとそこには――。


「何故裸なんだ?」


 一糸まとわぬ姿にケモミミと尻尾をつけたリリアナが存在した。

 頬が上気して息を切らしており、首筋を伝う汗は艶めかしくも瑞々しい肌を伝って胸の谷間に吸い込まれていく。俺はそれをぼーっと見つめると。


「気にしないで欲しいのです。危うくお嫁に行けなくなる所だったのですよ」


「…………いや。むしろその恰好の方が不味いと思うぞ」


 もしかして俺はリリアナを嫁に迎えなければならないのだろうか?

 そんな疑問を浮かべている間にリリアナはベッドに散らばっている自身の服を着用していった。




 ・ ・ ・


 ・ ・


 ・


「それにしても。サトルさんの魔法力容量は化け物クラスなのです」


 あれから。お互いにベッドから抜け出して食事を始めた俺達。リリアナは不満そうな顔をしてそう言った。


「そうなのか? でも。リリアナの魔法力譲渡のお陰なのか、昨日よりも調子が良い気がする」


 身体に感じるだるさは残るものの、昨日よりは楽だ。


「これは一度調べる必要があるのです。今日は一日付き合ってもらうのですよ」


 リリアナは「むー」と口を結ぶと難しい顔をして俺に言うのだった。





 ・ ・


 ・



「それで。なんでギルドに来たんだ?」



 朝食を採った後。俺はリリアナのお願いで転移魔法を使って城から移動した。何でも。見られると都合が悪い人がいるからこっそりと外出したかったらしい。


 今日のリリアナの恰好は肩がのぞくドレスにスカート。それにマントと帽子だ。

 スカートにスリットがはいっているのは尻尾を出すときに邪魔にならない為だと俺は遅まきながらに気付く。


「もちろん冒険者登録をする為なのですよ」


「いや。俺は冒険者になるつもりは無いんだけど?」


 戦闘能力皆無だし。痛いのは嫌だし。命を奪う事にも抵抗がある。

 このへんは平和な日本で育っているのだから当然の倫理感だろう。


「登録はあくまで仮の目的なのです。本題は、登録時に計測するステータスなのですよ」


 なんでも。冒険者ギルドに登録すればステータスカードを発行してくれるらしい。

 ステータスカードと言うのはその人間の能力を数値化したものらしく、測定に使われる魔法装置は古代文明の遺産だとか。


「それって城で出来なかったのか?」


 なんせ城には多くの兵士が詰めているのだ。冒険者ギルドが保有している装置ならあってもおかしくない。


「万が一にもばれると面倒な事になるのですよ」


 妙に含むものがある言葉。


「まあ。リリアナがそういうなら良いけど」


 釈然としないものの俺はリリアナに続いてギルドへの扉を潜った。




 ・



「そういえば。リリアナは城で働いてるみたいだけど、冒険者としても登録してるのか?」


「基本的に兵士は固定給を貰っているので冒険者にはならないのですよ。冒険者は労働時間も不規則だし、収入も安定しないのです。城で働く方が良いのです」


「ふーん。じゃあ登録して無いんだな?」


「………………ですが。城の給料だけで生活出来ないのだらしない人は休日に冒険者業をする事もあるのですよ」


 そう言ってそっぽ向いた。その言葉で判った。こいつがそうなんだな。


「だったらリリアナのステータスカード見せてくれよ。どんなものか事前に見ておきたいし」


 俺の言葉にリリアナはのカードを差し出した。


「これがギルドカートなのですよ」


「へぇ。なんていうか結構しっかりした作りなんだな。豪華な模様も描かれてるし」


 行けば即発行のカードには見えない。全員がこんな良いカードを持っているのか?

 俺の疑問を見透かしたかのようにリリアナは答える。


「冒険者カードは全部で7種類あるのですよ。これはランクと連動していてオリハルコン・ミスリル・プラチナ・ゴールド・シルバー・ブロンズ・カッパーになるのですよ」


「ほう。つまりこのカードは?」


 俺の問いにリリアナは胸を張ると。


「リリーはゴールド級の冒険者なのですよ」


 自慢げに言う。俺はそんなリリアナを微笑ましい者を見るように頭を撫でてやる。


「偉いんだな。流石はリリアナだ」


「えへへ。そうなのです。リリーは偉いのですよ」


 とても偉そうに見えないリリアナ。ゴールド級には見えないのだが……。


「これがステータスか?」


 俺は改めてカードを見てみるそこにはリリアナの個人情報がしっかりと記載されていた。


===============


名前:リリアナ・フォックスター


性 別:女


種 族:獣族


年 齢:15


職 業:魔道士


生命力:420/420


魔法力:120/800


魔 力:325


攻撃力:280


防御力:200


俊敏力:300


知 力:400


===============



「へぇ。リリアナって魔道士なのか?」


 あれだけの怪力を見せつけてくれたのだし、前衛なのだとばかり思っていた。よく見るとMPが凄く消費している。


「それだけ……なのです?」


「それだけって?」


「普通の人はリリーのステータスを見たら吃驚するのです。「その年でそんなに数値が高いのか」とか「100年に一人の逸材だー」とか「ギルドマスターが挨拶をしたいそうです。奥の部屋へどうぞ」とか言うはずなのですよ」


 とは言っても。俺には平均水準がわからないからな。


「もういいのです。因みに各能力値が100あれば一般人のレベル。生命力か魔法力が200あれば一般の戦士や魔導士なのですよ」


 俺が驚いてくれないのに憤慨したのかリリアナはカードを取り返すと懐にしまい込んだ。



 ・



「登録をお願いするのですよ」


「はい。そちらの方で宜しいでしょうか?」


 カウンターの受付嬢が俺を値踏みするように見てくる。

 これぞ冒険者ギルドとばかりに綺麗な女の人が多い。お約束という奴だろう。


「はいなのです。サトルさん。必要事項を記入するのですよ」


 俺は促されるままに必要事項を記入していく。


「お預かりします。名前は…………サトル・カラヤマ。人族で……魔導士。以上で間違いないでしょうか?」


「ええ。間違いないです」


 ちなみに記入に関して自分で書いたのだが、何故かこの世界の文字が書けた。

 恐らくはリリアナと手を繋いでいるので文字の認識も共有できたからだろう。


「それでは。冒険者規約を説明――」


「それはリリーの方でするので結構なのですよ。それよりステータスを測定するのです」


 まるで俺が美人受付と会話をするのを妨害するかのようにリリアナは言葉を被せてくる。まあ。規約なんて面倒な説明を聞きたくは無いけどさ……。


「かしこまりました。ではこちらに用意したクリスタルに触れて頂きます」


 俺は横に移動するとそこには虹色に光る球体が存在した。


「こちらに触れたら暫く手を放さないようにお願いします。カラヤマ様のステータス解析が終わりましたら下の方からギルドカードが出てきます」


 言われてみれば下にはカードが出てきそうな隙間が存在していた。


「さあ。サトルさん。触るのですよ」


 リリアナがぐいぐいと俺をクリスタルへと押しやる。何をそんなに慌ててるのやら。



 俺は促されるようにそれに触れると――。




 ・



「まっ、眩しいのですっ!」


「こっ、こんな事今までに無かったはずなのにっ!」


「なんだっ! 何が起こってる!」




 周囲が騒がしい。目の前ではクリスタルが虹色の光を放ちギルド全体を照らしている。俺は嫌な予感を感じながらもクリスタルを触り続けた。やがて光が落ち着き――。


「どうやら収まったようです。そちらからカードが発行されます。基本的にはカッパーからスタートなのですが、ステータスが高いと判断された場合は高ランクのカードが出てくる場合があります」


 受付嬢の説明を聞いているとカードが出てきた。


「えっ?」


 それは誰の言葉だったのか?


 隣であり得ないという顔をしているリリアナ? 向かいであり得ないという顔をしている受付嬢?

 それとも、いつの間にか後ろに立っていた野次馬の一人の声だったのかもしれない。


「これって…………カッパーでは無い?」


 そこにはに輝くカードが存在していた。

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