第3話検証する男

 あれからバイト先にはどうにか間に合った訳だが、この転移の力。まだまだ解明していかなければいけない事が多いようだ。


 感覚的にはゲートの開き方は理解している。手で物を掴むようにたやすくゲートを開けるのだ。


「だとすると使用回数の制限かな?」


 もしこの現象をカテゴリーに当てはめるなら魔法だろう。


 アニメやゲーム・最近の小説等でもよく登場しているこの能力だが、大抵は代償を払っている。


 魔法を唱える際にはMPを消費し、もし魔法の必要MPに足りていなければ発動させる事が出来ない。


「そうすると最大で3回しか使えない訳なのか」


 使い方によってはかなり有用な能力だ。そういえば心なしか、だるい気がする。風邪を引いた時の症状に似ている。精神力を使ってゲートを開いているという推測が正しければこれがその代償なのだろう。


 人は普段から使っていない筋肉を使うとそこが著しく消耗する。

 スポーツをわりとする人間でも、いきなり登山などをすると足に大きな疲労を抱えたりする。


 これは登山に使う足の筋肉が、普段のスポーツと完全に別で鍛えられていないからだ。


 つまり、俺のこのだるい症状は普段使わない。魔法力の様な物が抜けてしまったがゆえの虚脱感の可能性が高いのだ。


「仕方ない。今日は疲れていて頭も働かないしゆっくり休みを取っておくことにしよう」」


 こういう時は変に悩んで寝不足になっては本末転倒だ。テレビすらない部屋な上に、友人から貰った雑誌も紛失した今、俺が出来るのはおとなしく布団へと入る事だけだった。



 ☆



「やっぱりな」


 翌朝。といっても早朝である。


 俺は4時に目が覚めると靴を履いて近所の公園に移動した。


 そしてそこから家に向かってゲートを開いて戻る。


「どうやら回復してるみたいだけど…………」


 1回分のMPのみ回復しているのなら連続使用は出来ないはず。

 俺はもう一度ゲートを開くと先程まで居た場所へと戻った。


「戻ることも可能。だけど…………」


 あの牢屋のような空間に繋ごうとしても出来ない。あそこはある種の条件が揃わないと行けないボーナスステージだったのだろうか?

 もっとも牢屋なんぞに入っても鍵が無ければどうしようもない。あの雑誌ぐらいは回収したかったが、あきらめざるを得ないだろう。


「いずれにせよ行けない場所もあるって事だな」


 結局この日は残り1回で大学から帰宅を行い、距離に関してもこのぐらいなら問題が無いことを確認した。ちなみに4回目はやはり発動させる事が出来なかったので限界は3回という事になるのだろう。



 ☆



 翌日


 今日は講義が無いので本来であれば一日中バイトをいれるのだが、今はこの能力の検証を優先する為に休みを取った。


「最大移動距離を把握しておきたい所だよな」


 実際のところ、この転移でどれだけ遠くまで移動できるのか。それ次第で能力の有効性が大きく変わっていく。


「とりあえずあそこかな……」


 俺は自分が最もイメージをしやすい場所を思い浮かべるとゲートを開いた。

 最近気付いたのだが、開こうとする意思があればわざわざ口にしなくても出来るのだ。


 目の前でゲートが開いていく。古ぼけた石垣に『青葉園』と表札がある。

 懐かしさがこみ上げてきて意識を切らしてしまうと。


「あっ…………」


 ゲートは形を維持できずに萎んで消えてしまった。


「駄目か」


 流石に距離がありすぎたのか? 人があまりいない閑静な場所だから選んだのだが……。


「あそこまでの距離は直線でおよそ50キロって所か。なら有効距離はそれ以下って事になる」


 続けて大学近くのスーパーへとゲートを開く。ここはスーパーのバックヤードの看板の裏手で、あるのは貯水タンクのみなので人は一切寄り付かない。


「おおっ! 出来た」


 今度は問題なくゲートが開いた。俺はゲートが安定しているうちに潜り抜ける。自分の感覚ではぎりぎりできたという感覚だろう。


「家からここまで6キロって所か。大学までは大体5キロのはずだから、俺が活動しているおよその範囲には移動が出来るって事だな」


 有効距離に関してはこれからも調べていく必要はある。だが、遠出をする予定もなければこの場所みたいに人が寄り付かない条件を満たす場所を知らない。


 俺は一旦アパートへと戻ると、この能力を使う上でまだまだ必要な内容を頭の中で整理するのだった。



 ☆




「さて。次は何の検証をするかな」


 翌日。


 俺はノートにメモを走らせると次なる検証をどれにするか考え始めた。

 適正な距離は理解できた。なら次にするべきは…………。


「どこにでも行けるかどうかだな」


 今まで、俺はこの能力で行ける場所の指定に自分が行ったことがある場所を思い浮かべていた。


 それは当然。思い浮かべるという事はそこに行ったことがあるから浮かべられる訳で、行ったことの無い場所は浮かべようが無い。


「問題は何処に行くかなんだが…………」


 これには大いに悩む。この町の大抵の場所は知っているので知らない場所が限られているのだ。


 それでも何とか考えてみると。


「銀行の金庫内とか面白そうなんだが…………」


 なんせ金がある場所だ。貧乏学生としては悪い考えを浮かべてしまうのは仕方ないのだが…………。


「普通に考えて監視カメラがあるだろうから却下だな」


 今一番不味いのはカメラに写ってしまうことなのだ。人の目は錯覚で誤魔化せても映像はそうはいかない。


「そう考えると店関係は全部駄目なんだよな」


 入った事の無い店とかも人が居る可能性はあるので却下だ。


「そうなると、人が居なくて俺が行った事が無い場所…………」


 そんな場所を思いつくのは難しい。行ったことが無いのは必要が無いから寄りつかない訳で、更に人気が無いとくれば完全に意識の外だ。


「…………そうか。あそこなら」


 俺は心当たりに対して移動を開始した。


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