第2話実験する男

 あれから暫くして、意識をはっきりさせた俺は時計をみた。そしたら大学の講義の時間が迫っている事に気が付いた。


 俺は慌てて着替えを済ませると食事を抜いて大学へと向かった。



 何とか授業には間に合い。適当に授業を受けて、これまた適当に友人と過ごしたのだが、俺の頭は今朝方遭遇した異常現象の事で一杯だった。


「じゃあ。また明日なー」


「おう。お疲れ」


 俺は手を振ると友人に応える。そして一人になると――。


「さて。どこで検証しようか」


 そう呟く。


 授業の間も考えていたのだが、もしかするとこれがある種の超常現象であるのならなるべく早くその全てを把握しておきたい。


「だけどな。ここでやると人目に付くし」


 家の中に移動する分には問題ない。泥棒でも入らない限りは無人だからだ。

 そして見るからにボロいアパートにわざわざ押し入る泥棒がいると思えない。そもそも金目の物なんて無いし。


「ここはやっぱりあそこかな」


 俺は幾つかの候補の中から今の時間帯で一番人が居なさそうな場所を想像するとそこに移動した。




 ☆



「相変わらず汚いな」


 ここは友人が入っているサークルの部室だ。鍵が掛からないことで有名なので貴重品は置かれておらず、メンバーも少数。

 さらに今日はサークルが無いので誰も居ないはずなので、ここならば問題なく実験が出来る。


「さて。早速やってみるか」


 朝は二回とも上手く空間を繋げる事が出来た。

 感覚は掴んでいる。恐らくは開く事が出来るだろう。


 俺は手をかざすと――。


「――【開け】」


 俺はある場所を思い浮かべるとそこに空間を繋げてみた。


「出来たっ!」


 俺は怯えながらもゲートを潜る。既に体験している事と知っている場所なので恐れる必要は無い。


 空間を移動すると歪みが消える。そうすると光が消えて真っ暗になった。


 鼻をつく埃臭さとボールが跳ねる音。シューズがこすれる音が聞こえる。

 どうやら間違いないらしい。俺は制御をきちんとしたらしく体育館の倉庫へと移動できたのだ。


 授業で使うバレー用のネットやボール。得点ボードなどの道具が置かれている場所であり、夜遅くになるとやり部屋としてのスポットも兼ねている。


 もっとも俺はそういった理由で利用した事もない。相手が居ない? ほっとけ。


 耳を澄ましてみると、体育館から女子バレー部の掛け声が聞こえる。うちの大学は一部のスポーツに力をいれており、バレーもその一つなので練習をしているのだ。


「このまま出て行くと不審だよな」


 入るところを見られていない人間が倉庫から出てきたら不審だろう。ここは【転移】で戻ることにしよう。


 俺はこの能力を転移と名付ける事にした。空間を歪めて移動する。昔漫画で見たキャラクターが使っていた技でたいそう便利そうだった。


「【開け】」


 戻る先は俺のボロアパートだ。俺は意思をこめてそう叫んだのだが――。


「嘘だろおい…………」


 空間は開かない。


「このまま待つって選択肢はねえぞ」


 何故ならバイトの時間があるのだ。今から帰れば問題無いのだが、遅刻すると店長に怒られてしまう。


「ええいっ! 仕方ねえっ!」


 俺は勢い良く引き戸を開ける。


 一瞬にして女子バレー部員達の視線が俺に集中する。


「ふぁぁああーあ。よくねたー。もうこんな時間かよ。寝過ごしちまったわー」


 わざとらしく講義をサボって寝ていた振りをする。

 出て行くときも女子達はひそひそと俺を指差して話をしている。


 翌日になって「覗き魔」の渾名がついたと友人から聞かされた俺は枕を濡らすのだった。

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