ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました

まるせい(ベルナノレフ)

第1話覚醒した男

 朝。目覚めると何となく違和感を覚えた。


「…………どこだよここ?」


 少し錆びた金属の格子に壁に灯る明かりは幻想的な色をしている。

 カビ臭くて通気性がとれていない石造りの壁。地面に描かれた陣形を取った模様。


「夢だよな流石に…………」


 俺は自分の頬を引っ張ると痛みがあるのを認識する。


 なんとなく脳にしこりというか電気が通っているのか、とにかく今まで認識していなかった回路が繋がったような感覚が沸き起こると。


 なんとなくこうしてみた。


「――【開け】」


 次の瞬間俺は驚いた。何故なら目の前の光景が変わったからだ。


 空間が裂けてこの空間ではない場所が見える。俺は目を凝らしてみてみるとその場所に見覚えがあった。


「…………公園じゃん」


 それは家の近所の公園だった。現在住んでいるボロアパートから徒歩で数分。大学に通う際に毎日通りかかっている公園だ。


「通れるのか?」


 俺は疑問を浮かべつつ、恐る恐るその空間に身体を寄せていくと、スルリとその場を通過してしまった。


 後ろを振り向いてみると。


「消えたな」


 先程まで開いていた空間は消え去り、普段見ている風景が眼前に広がっていた。



 ☆



「なんだったんださっきのは?」


 あれから俺はジャージ姿と素足でボロアパートへと帰宅した。

 恐らく寝ぼけて夢でも見ていたのだろう。


 無意識の内に家をでて公園についた所で目が覚めたのだ。そんな言い訳をしつつも俺は何処か吹っ切れなかった。


「もう一度試してみるか」


 俺はベッドに腰を落ち着けながら考える。夢にせよ感覚が残っている。これを忘れる前に試しておきたかった。


 もし俺の想像が正しければ、これまでの生活を一変させる衝撃だからだ。


 俺は先ほどの夢の時のように手をかざすと――。


「――【開け】」


 次の瞬間。見ている空間の中心に黒点が出来たかと思うと瞬く間に広がっていき、人が一人通れるだけのゲートが開いたのだ。

 そこは先程夢でみた牢屋のような空間だった。


「本当にできちゃったし」


 先程の夢はどうやら夢では無かったらしい。俺は現実を受け入れるべく思考を取り戻すと。


「これって途中で閉じないよな?」


 まじまじと目の前のゲートを見る。


 先程既に通ったばかりなので今更なのだが、俺にはこの空間が生き物の口のように感じた。


 人が通れる程に広がった空間の裂け目。安定して輝く縁取り。俺はそこに手を差し込んですぐに引っこ抜く。


「ふむ。大丈夫みたいだな」


 空間の先へと抜けていく違和感は特に無い。ドア一枚を通り抜けるかのように自然と通り抜けられそうだ。


「これってもしかして俺が通るまでこのままだったりして?」


 先程は通り抜けて直ぐに空間が閉じた。もしこの現象を起こしているのが俺だとしたらまたあちらに行かなければならない所だ。


「そうだ。何でもいいから通してみれば…………」


 俺は手元にあった雑誌を放り投げて空間の向こうへと落とす。


「駄目か…………。このままだと俺の汚い部屋があっちから見えてしまう」


 大学生の一人暮らしなのだ。お世辞にも片付いているとは言い難い。


 最悪誰かが通りかかってスマホかなんかで撮影をされてしまえばマスコミがこぞって押し寄せてくるかもしれない。


「面倒だが、せめて靴はとってこようかな」


 俺は諦めて空間を潜ることを決めると立ち上がったのだが…………。


「おっ!」


 目の前でゲートが歪み始めた。


「まっ、まさか爆発っ!?」


 よくない気配を漂わせるゲートに俺は出来るだけ距離をとるべく壁へと寄った。

 そうこうしている内にもゲートは湾曲し、形を変えると徐々に縮小していく。


「まって! せめて雑誌の回収を…………」


 まだ読んでる途中なのに。そんなどうでも良い事が脳裏に過ったが――。


「あーあ…………」


 ゲートは音も立てずに消えてしまい。そこには呆然とした姿の俺だけが取り残されるのだった。

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